第五話 じぎょうちゅう
ダイチ達5年生は、今授業中。
同学年で組まれた人型機動兵器大隊(正規パイロット候補36人)の一クラスで授業は行われる。
ちなみに機動兵器大隊は航空機大隊と似ていて3つの中隊からなり、中隊は3つの小隊、そして小隊は2名ずつの分隊2つからなっている。(歩兵なら分隊は8名、戦車なら3車両で小隊)もちろん、パイロット以外の整備部や補給部、事務部は別に存在していて、それらは大抵大人の正規兵からなる。
大人の機動兵器パイロットはもちろん存在するが、ダイチ達のケースは特例。
幼少期の方が比較的DCとのリンクをしやすいという事からの「外道」な手段ではある。
今日の授業内容は、敵機動兵器と地球側機動兵器の違いについて。
大谷教官、三十台半ばくらいで子供たちからの通称「鬼軍曹」がディスプレー型黒板に情報を提示しながら説明している。確かに、ガチムチで戦争映画に出そうなタイプなのだけど。
「帝国側と地球等の惑星連合側では、基本的には同じゲートエンジンを主動力としている。ゲートエンジンは有人型に搭載して、人間の精神干渉にてパワーアップするのは、前々回くらいの授業で説明したな。しかし、帝国側の大半の機体は無人機だ。帝国の人類も地球人類と生物的にはそう大変わりはしないのに、無人機を利用しているのは、パイロット不足かなにかだろうな。じゃあなんで無人機でも帝国のものは地球のものとそん色ない性能を出せるんだ? 神楽坂、答えてみろ。」
「はい、帝国機にはコントロールユニットとして人体の精神を量子コピーした人工知能を利用しており、その人工知能からの擬似精神波でゲートエンジンの出力コントロールをしています。」
「軍曹」に指名されて席から立ち、すらすらと答えているのは、このクラス(大隊)の委員長(大隊長)たる神楽坂マイ。
11歳女児としては比較的高い身長とスレンダーな体型、まだ胸囲については成長途上なのは年齢的にしょうがない。白いけれど血色良く健康的な肌色と濃い栗色の頭髪を短めのポニーテールに結い、同じく濃い栗色でやや釣り目気味の大きな目は力強く気が強そうだが、将来が楽しみな美少女である。成績は文武共にクラストップ、すぐに委員長に選ばれたのは当然であろう。
なお、学業ではダイチはナンバー2、どうしてもケアレスミスというかポカミスして減点を受けてしまう。
教室のやや後方に座るダイチからは、マイの回答する後ろ姿とゆれるポニーテールが見えている。
今の授業は、今日最後の時限、だいぶ皆油断している時間帯ではある。
ダイチの横に座る悪友、米谷シンゴはこそっとダイチに話す。
「『お嬢』、完璧すぎるのがダメだよなぁ。オレはもう少しオットリがタイプなんだけど。」
「お嬢」とは、シンゴのマイの呼び名、気位が高くやることなすこと完璧な事から、割と皆から言われている。なお、ダイチは「いいんちょ」と呼んでいる。
「『いいんちょ』は、背負い込んでいるものが多いから、いつも気が張っているんだよ。」ダイチは言う。
マイの家庭は、代々優秀な軍人を輩出している家系、確か今の宇宙艦隊のうち一艦隊の司令がマイの父親だったはず。その優秀な家において、次の世代の主力候補としてマイが選ばれたのは、家にとっての誉れ。その家の期待を一身に背負っているマイがしっかりしているのは当たり前なのだ。
「オレなんて学校一のガキ大将になれるかと思ったら、こんな「学校」に放り込まれて、お国のために死にに行けだもんな。」
シンゴは、同年齢の子達よりも頭半分大きく力強い身体をしており、運動能力はクラス2位、頭脳はクラスで中くらい。浅黒い肌と真っ黒なスポーツ刈の短髪。いかにもガキ大将っぽい容姿である。
しかし、シンゴは決していじめっ子では無く、正義感が強い子で逆にいじめっ子を「いじめる」奴だった。前の学校で悪さをしている奴らを懲らしめていたら、教育委員会に通報され、そこから児童青少年センター送り。そこで精神・医療的なチェックを受ける段階でシステムへの適正が見つかった。その旨及び軍幼年学校の事をシンゴの両親に伝えられると、シンゴの両親もどっちかというとスパッとした気性、シンゴが世の中のためになるのならと幼年学校へと送り出されたのだ。
なので、シンゴはダイチがいじめられていた時には、助け舟をよく出してくれていたし、最後にはいじめっ子すらもある意味救ったダイチの手腕に感動し、今では第一の親友いや悪友である。
なお、マイはダイチのいる小隊の小隊長でもあり、小隊には他にはシンゴ、カズアキがいた。
村上カズアキはクラスでは前の方に座っており、やや遠視気味で眼鏡をかけている。身長は同年齢の平均くらい、どっちかというと線が細いタイプ。
男子としてはやや長めの頭髪で、肌はダイチやマイよりも更に白い。
運動能力はクラスでは中くらい、学業はクラス上位10位以内で集中力を必要とするものが得意で、スナイパー系として将来を有望視されている。
カズアキは会話はそう得意じゃないが、小隊訓練時にはちゃんと自分の意見をいいつつも、小隊全体の事を考えて行動している。
ちなみに、シンゴは近接戦闘が得意、マイは指揮官よりのオールラウンダー、ダイチは中近距離戦を得意としているのだが、ダイチには意外なことに猪突猛進してしまうクセがある。
そこを、シンゴがダイチの背後をフォローしたり、カズアキがあきれながらも援護射撃しつつ、マイがお小言言いながらまとめていくのがいつもの神楽坂小隊である。
ダイチは戦う前にはちゃんと戦略・戦術を立てているのだけれど、頭に血が上ると、つい突っ込んでしまう。一応、一部冷静な意識は残しているので引き際とかや、マイの指示を完全無視はしないのだけど。最近はその突撃傾向を自分で理解して、戦う前に突っ込んでかき回すのに優位な戦法や装備を準備しているのは、反省しているといえるのかどうか。クラス内でのシミュレーションでは、この戦法でいつも勝っているので悪くは無いのかもしれないけど。
さてダイチ、そんな事を考えている上にシンゴと会話していたら、授業の内容がおろそかになる。それに気がついた「鬼軍曹」こと大谷教官、ダイチに声をかける。
「おい秋山、先生の話ちゃんと聞いているのか? 聴いていたなら、次の質問を答えられるよな。答えられなければ、居残り授業だ。」
「ゲートエンジン搭載機同士の戦闘では、何が有効な攻撃手段か?」
ダイチは、頭脳内の情報をまとめて答える。
「ゲートエンジン搭載機同士ではお互いにフォースフィールドで包まれているため、レーザー等の光学兵器は中距離以下で無いと無効化されやすいです。レールガン等の実体弾やミサイルは、フィールドとの干渉が少ないため、遠距離でも有効打となります。ミサイルに関しては誘導を切られたり破壊されやすいのが難点ですが、ステルス状態でのレールガンからの遠距離狙撃は、初攻撃としては最適です。また、手段を選ばないのならDC崩壊による相転移爆弾や反物質爆弾、重力崩壊爆弾等の戦略兵器も考えるべきでしょう。
近距離戦では、フォースフィールド付与の武具による打撃、高周波ブレード等の等の切断は効果がありますが、同時に自分も危険となります。なので、出来れば剣や斧型のような中途半端な距離で戦う武具よりも、とことん接近するナイフ、内蔵型でもいいですね、それとか槍形で距離を置くのも有効では無いかと思われます。
なお、レーザー等の光学兵器も中距離以下では十分有効ですし、手数で勝負するタイプの兵器なので、パルス放出形もいいですね。」
「うむ、正解だな。」ぐぬぬとした表情で「鬼軍曹」は答える。
これは「鬼軍曹」の悪手、戦争の歴史なんかを聞けば、生まれた「世界」が違うダイチはやや困っただろけど、兵器の運用に関してはダイチの得意分野。
これで怒りの向け先を失った「鬼軍曹」、今度はシンゴが標的となる。
「村上、おまえも秋山と話していたから同罪だな、ゲートエンジン搭載機同士出力も大事だが、他にも重要な要素がある、それを答えてみろ、答えられなければ、居残りだ。」
とばっちり食らったシンゴ、ダイチを横目で見て助け舟を求めるのだが、「鬼軍曹」が睨みを利かせている現状、助けてあげたくてもどーにもならない。
口の形で「ごめん」としか言えないダイチだった。
「わかりません。」しゅんとしながらシンゴは答える。
「そうか、実戦でも授業でも一瞬の油断は命を危険に晒す。村上は居残りで反省文書いてもらおうか、じゃあ同じ小隊の小隊長、神楽坂なら答えられるな。」
これは、マイへの流れ弾か、小隊同士でのフレンドリーファイヤー(同士討ち)か。
マイは一瞬顔を曇らせるも、立ち上がり答える。
「ゲートエンジン搭載機は、フォースフィールドによる防御を持ちますが、このフィールドはフォトン(光子)を一部遮蔽してしまうため、可視光域の一部以外、ガンマ線、紫外線、赤外線、電波が機体へ届きにくくなります。
ステルス性は良いものの、フィールド内温度は上昇してしまうため、時々一部フィールドを開放して廃熱をする必要があります。またレーダーを含むセンサー系が動作しずらいため、EWACS(Early Warning And Control System:早期警戒管制)搭載機体やCP(Command Post:戦闘指揮所)とのレーザー通信、ゲートエンジン利用の超光速通信によるデータリンクを必ず繋いでおき、敵機を見失うことなど無いよう、また小隊などの複数機体による敵機攻撃を可能とさせます。」
「うむ、満点だ。」「鬼軍曹」は満足である。
「では、そろそろ今日の授業は終わりだ、予習復習は忘れずに。宿題も出しておくから、各自情報端末をチェックしておくように。」
マイが号令を出す、「全員起立、礼、ありがとうございました、解散」。
授業が終わり、皆が帰りの準備をしている時に、マイはダイチやシンゴのところにやってくる、さあ「お説教タイム」の始まり。
「なんで、いつもワタシに迷惑かけるの? わざわざ隣同士で会話していたら、先生にばれるにきまっているじゃないの。 せめて情報端末の秘話モード使うとか頭ないの?」
実際、マイの言うとおりなので、ダイチ「いいんちょ、ごめん。次からはもっとうまくやるから。」
その言葉にひっかかりを感じるマイ「次からはじゃなくて、なんでわざわざ怒られるようなことするの!」
全くそのとおりなので、ダイチ・シンゴともシュンとしてマイに謝る。「ごめんなさい。」
マイ「最初から素直に謝っていればいいの。ワタシをいちいち怒らせないでよ!」
そのうちにカズアキが来て、「今日は放課後に戦術の組み立てを予定していたけど、シンゴが無理だから明日以降だな。」
マイ「しょうがないわ。これ以上ワタシの顔にドロ塗らないように、三人ともしっかりしてよね。」
ぷんぷんして、短めのポニーテールを揺らしながら、教室を去るマイ。
カズアキ「『鬼軍曹』の流れ弾を食らった上に、小隊の二人がこのザマじゃ『姫』のお怒りももっともだ。その上、なぜか自分もしっかりしろと言われたぞ。」
カズアキはマイを「姫」と呼んでいる。後、なぜか言い方が古風で硬いのだ。
「これに懲りてもう少し注意するんだな。これ以上のフレンドリーファイヤー(とばっちり)は御免だから。」カズアキは苦笑いしながら教室を去る。
教室に残るはダイチとシンゴの二人だけ。
シンゴは言う「授業中オレを助けてくれなかったのはしょうがないけど、放課後なら助けてくれるよな、ダイチ。」
目をウルウルさせて演技的ながらも助けを求められてはしょうがない。
ダイチ「じゃあどんな課題なのか、端末に来ているだろうから、それが何なのかから始めようか。」
二人が教室から去るのは、夕方遅くなってあと少しで寮の夕食に間に合わなくなるところであった。




