第二十六話 「しりうす」こうぼうせん1
朝5時に起床した中隊の皆は、朝食後ブリーフィングルームへ集合した。
なお、艦内の他部署の方々はすでに長距離ジャンプの準備で大忙しだ。
「皆、体調に異常は無いな」
「今日は長丁場だ、食事もこれ以降はちゃんとした形では取れないだろう。機内に食料や水はちゃんと持ち込んでおけ」
「トイレも我慢せずに行けるときに行っておけ。一旦コクピットに座ったら、漏らしてもかまわん。宇宙服内にオシメしているから大丈夫だ。そんな気にしている暇があれば生き残る努力をしろ」
トムが全員、特に今回が初陣の若年層に注意点を述べている。
「はい、中尉。質問は良いですか?」
「なんだ、ダイチ?」
ダイチがトムに尋ねる。
「バーストは、各自の判断で行っていいのですか? それとも小隊長、中隊長の判断を仰いでですか?」
「それは、基本的にはオレの判断で行ってくれ。何せ、稼働時間が限られるし、その後の事もある」
「余程の事が無い限り各自では行わないように。基本としては、ヤバイ相手の時に最適なヤツから順番にバーストするつもりだ」
「はい、分かりました」
「他には誰か質問はあるか? 無いなら最後にオレからの一言だ」
トムは改まって言う。
「世の中には、作戦時にどこかの誰かの為に笑って死んで来いって言うヤツがいるが、オレは、そういうのは嫌いだ」
「お前らが死ねば必ず誰かが泣く。少なくともオレは泣く」
「誰かの役に立ちたいなら、最後まで生き残って、ずっと役に立て。そうすれば、皆笑って過ごせる。」
「お前ら、何が何でも生き残って帰って来い」
「死んだやつは地獄まで追いかけて、オレがぶん殴る」
「一機も撃墜できなくても良い。最悪機体が撃墜されても、生き残っていればいいんだ」
「ここでもう一度全員で集まって祝勝パーティしようぜ、良いなお前ら!」
「サー、イエッサー」
全員でトムに向かって力強く敬礼をした。
「かっこいいわよ、トム。夕べの事といい、惚れ直したわよ」
ジェーンがトムを褒める。そういえばよく見ると今日のジェーンは妙に顔の色つやが良い。
「おいおい、オレは元々カッコいいだろ」
そう嘯くトムだが、日頃が日頃なので結局二枚目半だ。
「夕べって何ですか、お姉さま?」
マイがジェーンに聞くと、トムは一瞬ぎょっとし、更にジェーンは慌てて、
「いや、何でもないのよ。そうだ、お子様たち、こっちに来てよ」と誤魔化す。
「良いですけど、何ですか」
「こういう事よ」と言ってジェーンは集まった小学生組(日本+ロシア)の子達をぎゅーと抱きしめた。
「苦しいです、お姉さま」
「すいません、とんでもないところに身体が当ってるのですが」
「勘弁してー」
「ちょっと困ります」
「あー、やわらけー」
「おー、きもちいー」
「ママ」
皆して不平(?)は言うが、悪い気もしない、というか刺激が強すぎ。
「だって、しばらく皆をハグできないんですもん、ここいらで充電しないと」
不都合を誤魔化すつもりが、本気でハグしたくなっちゃったジェーンであった。
「そういえば、前から気になっていたんだけど、ダイチは日本人だけど銀髪よね。染めている風も無いけど、どうして」
「これ、実は白髪なんです」
「幼い頃の大量投薬の影響か、生体強化したからなのか、もっと言うなら世界を渡ったからなのか、ボクにも原因不明です」
「家系的に若白髪で10代から白くなり始める様ですが、ボクの場合は少し早すぎです」
「まあ、そうなの。でもカッコいいわよ、ダイチ」
「どうもありがとうございます」
トムは、そろそろ良い頃合だと思い、ジェーンに中止を言う。
「そろそろ、お子様達を解放してやってくれないか」
「えー、もうなの」
しぶしぶ小学生組を解放したジェーン、
「帰ってきたらも一度ハグね」
えー、っと思うも、それはそれで生き残る意味になるのだから良いかな、と皆思った。
そしてジャンプ前、中隊のそれぞれはパイロットスーツに着替えて各自のコクピット内に待機していた。
「Romeo11より各機、ジャンプ開始まではこのまま待機」
「無事ジャンプ成功し艦が安定したら、機体から出ても良いが、その際には必ず一言掛けていけ」
「それとあんまり遠くには行くな。ジャンプ終了までは6時間と長い」
「途中で食事やトイレ休憩は各自取っておけ。コクピットにいるなら寝てても良いぞ。以上」
「了解!」
トムからの連絡で皆に緊張が走る。
「こちらRomeo21、マイよ。Romeo22、ダイチ、大丈夫?」
マイが秘匿回線でダイチに通信してくる。
「Romeo22よりRomeo21へ、いいんちょ、大丈夫だよ」
「少し緊張しているけど、今回は皆がいるから前ほど怖くないよ」
「Romeo23よりRomeo22へ。ホントかよ、ダイチ。乗り物酔いが怖いのか?」
シンゴは秘匿回線に割り込んで、茶化す感じでダイチを励ます。
「Romeo24よりRomeo23。あんまりダイチをいじるなよ。確かにいじって面白いし可愛いけど」
カズアキが更に秘匿回線に割り込んで、見もふたも無い事を言う。
「Romeo22より、Romeo2小隊全員へ。秘匿回線の意味が無い事してどうするの? それとボク、いじられキャラで固定しちゃったの?」
「Romeo11よりRomeo2小隊全員へ。秘匿回線の設定うまく出来ていないから、全員にダダ漏れだぞ」
「Romeo21、ちゃんと小隊員躾けておけ」苦笑しながらトムは言う。
「Romeo21より、Romeo2小隊全員へ。作戦が終わったら「お説教タイム」だから、覚悟しておいて!」
「はいー」
「Romeo13より、Romeo2小隊全員へ。お姉さまからも後で「ハグ」追加だから宜しくね」
ジェーンが何故か割り込む。
「Romeo11より、各機へ。お前ら秘匿回線無駄使いした上に、バカ話ばかりするんじゃない!」
「Romeo31より、Romeo11へ。すいませんが、今回Romeo3小隊は関係ないのでは?」
トゥーリは困った声で話す。
「Romeo21より、Romeo11へ。そーよ、スーちゃんは関係ないわ。ウチのお子ちゃま達と一緒にしてあげないで」
「Romeo34よりRomeo21へ。マイ、私を庇ってくれてありがとう」
「Romeo11より各機へ。いい加減にしろや、お前ら!」
「Romeo14より各機へ。誠に申し訳ありませんが、皆様がお話している間にジャンプしちゃいました」
「もうじき艦内も安定しますので、お話はそれからという事で」
まー、こういうのもいつもどーりなんだろうね、この中隊は。
と、内心思うナムであった。
すっかり毒気や緊張が、どっかに飛ばされたダイチ。
機体の最終設定や調整が終わればやることが無いので、録画して見ていないアニメをこの際に見ようと、持ち込んでいたデータを機体にロードしてメインスクリーンの一部を使って持ち込んだお菓子食べながら鑑賞していたら、いつのまにか寝てしまっていた。
なお、他の皆も同じような感じで、気がつくとまもなくジャンプ終了時間。
「Romeo11より各機へ。そろそろジャンプ終了だ」
「流石にいきなり襲われるという事はないだろうが、敵地に入ったことは理解しておけ」
「この後最終観測及びエネルギーチャージ次第、戦闘空域へのジャンプとなる」
「最終ジャンプ前に一旦艦外へ出て、外部コネクターで機体を固定する」
「ジャンプ終了後、固定を外して戦闘開始だ。ぬかるんじゃないぞ、お前ら」
「イエッサー」
ジャンプが終了して、艦隊が出現した場所は、シリウスよりも10光日離れたところ。
ここからでは太陽は4等星くらいのありきたりな星にしか見えない。
逆にシリウスはとても明るく輝いて、その存在をアピールしている。
ここからが時間との勝負、あまり時間をかけ過ぎると、ジャンプによる時空振がシリウスにいる帝国軍に察知されて奇襲が出来ない。
しかし、観測されるデータはあくまで10日前の映像、これが宇宙での戦闘におけるタイムラグなのだ。
小型衛星を1光日内にジャンプさせる準備が整い次第、最終データを入手し作戦の微調整を行う。
その間、ダイチ達は最終武装チェック後、艦外へ出て、所定の固定ラックに機体を固定させている。
「Romeo11より、各機へ。各自機体の固定は大丈夫だな。ジャンプ中に飛ばされたら、どこに実体化するか分からないから注意しておくように」
「後、最終観測衛星からの情報によると、無人艦の数は、大きく変動なし。よって作戦に変更なし」
「各機はジャンプ終了後、機体ロック解除して艦より離れる。中隊で編隊を組むから離れすぎるなよ」
「後は、各自を守りつつ、L4衛星に取り付く」
「落とされるなよ、無理して敵を追い込むな。ヤッタと思った時が一番隙がある。日本の武道でいうところの「残心」を忘れるな!」
「Romeo21より、Romeo11へ。よく「残心」の事ご存知でしたね。流石中尉」
「Romeo11より、Romeo21へ。そうだろ。そうだろ」
「Romeo13より、Romeo11へ。最初で終わっておけば良かったのに台無しだわ」
「う、Romeo11より各機へ。とにかくそういう事だから死ぬんじゃないぞ」
「らじゃー!」
ショートジャンプ後、ダイチ達の目の前には巨大に青白く輝くA型恒星シリウスAと紫外線を強く放つ白い矮星シリウスB、そして中継衛星が見えた。
「Romeo11より各機へ。ブレイク! 作戦開始だ!」
ロックを解除して艦から離れていく各機。
いよいよ戦闘の開始だ




