第二十五話 「さくせん」ぜんや2
ブリーフィングが行われた翌々日、マイパパ、いや神楽坂少将にアポが取れた、ダイチとマイはダイチ機にて、少将の座乗する第一航宙打撃群旗艦、統合指揮艦(Joint Maritime Command and Control Capability)「JCC-1 Blue Ridge」を訪れた。
「ようこそ、ブルージッリへ。神楽坂少尉。しばらく見ないうちに大きくなられましたね」
少将副官で第一航宙打撃群第一航宙団の指揮官でもある大杉マサユキ大佐がダイチ達を格納庫で出迎えてくれた。
「父との話を取り次いでいただき、ありがとうございます、大佐。最後にお会いしてから、まだ3ヵ月も経っていませんよ。赤ちゃんじゃありませんから、そんなに急には大きくなりません」
赤ん坊の頃から知られているマイにとって、大杉大佐は少し苦手だ。
「オシメまで代えた子が、そういう生意気な事言えるようになるまで大きくなったのは嬉しいことですね。では、少将がお待ちになられていますので、お着替えなさった後、執務室へどうぞ」
マイは恥ずかしさで顔が真っ赤になるも、ここで怒ったら更に子供扱いされちゃうと思い、辛抱して返事をする。
「レディに対してセクハラ発言はどうかと思いますが、今回は急ぎの用件がありますので、とりあえず案内お願いします」
からかっては見たものの、案外冷静に対処されたので、それがまた楽しい大佐は、何食わぬ顔をして二人を更衣室へ案内する。
小声でダイチ「ねえ、いいんちょ。大佐に遊ばれちゃったね」
「皆、ワタシを子供扱いするの、困るわ。誰かレディ扱いしてくれる殿方いないのかなぁ」
マイはため息を付きつつ話す。
「まだ、ボクじゃダメなのかな?」
ダイチは内心思うも、今言うとややこしい話になりそうなので、素直に大佐についていく。
更衣室で、パイロットスーツから持ってきていた制服に着替えた二人が執務室に入ると、少将が待っていた。
大杉大佐は、親子水入らずということで、すぐに執務室から去ってくれた。
「マイ、秋山君。今日は態々来てくれて、ありがとう。作戦前に二人に会えてよかったよ」
少将は、パパの顔で二人に話す。
「パパ、いえ神楽坂少将。今日は親子じゃなくて少将に意見具申に来ました」
マイはいつもより真剣な面持ちで少将に話す。
「それは一体どういう事だい? 今回の作戦内容に問題でもあるとでも。しかし、それは一介の少尉で発言して良い問題ではないぞ」
少将も真面目に話を聞く。
「今回の作戦ですが、ワタシ達の部隊はL4制圧を命じられていますが、それは少将の差し金と聞いております。おそらくワタシ達を戦場に出さなければならない様になったものの、最前線には出したくないという妥協案からだとは思います。しかし、十分な戦力であるワタシ達を温存するのはどうかと思います」
マイは、パパの気持ちも分かるので少し苦しそうに話す。
「そこまで分かっていて何が問題なんだい?」
少将もマイ達が大事なので、出来れば使いたくない事情を分かってくれた事はありがたいが、それでもこれ以上の手は、他の部下の手前使えない。
「L4制圧をワタシ達が行うのは異存はありません。ただ、やるなら徹底的にやった方がいいのでは無いかという事です。こちらにワタシ達で考えた作戦案がありますので、見て頂けませんか?」
マイは少将に資料データを渡す。
それを端末で見た少将、突飛なアイデアにびっくりする。
「これを実現できるのであれば、作戦全体の成功率が向上するが、マイや他の子達にすごい負担がかかるのではないか?」
「ええ、それなりに負担はあるかと思いますが、戦場に出たらそんな事は言っていられません。たとえワタシ達だけ勝っても、他の戦線が負けたら何も意味がありません。他の皆だけでなく、少将、いやパパにだって死んで欲しくないのよ、ワタシは」
マイは少し涙ぐんで少将、いやマイパパを見る。
「そうか、そこまで考えているならしょうがない。しかし、この作戦では帝国の情報システムに介入できて初めて可能となるのだが、今までに実例を聞いた事が無いぞ」
少将は記憶を探ってみる。
「これまで撃破、及び鹵獲した無人機によってかなり情報が集まりました。特に「トロヤの血」事件でワタシ達が有人機を撃破した後の無人機は、比較的損傷が少ない状況で入手できたので、研究が捗ったと開発局から聞いています」
マイは、日本支部長にそのあたりの話を聞いていた。
「後は、作戦前に鹵獲機を実際に遠隔でかまいませんので操作させて頂ければ、作戦の成功率は更に上昇します。もちろん、この艦や電子戦艦辺りのメインフレームも作戦時にお借り出来ればですが」
マイの説明で、ある程度は納得出来た少将。
「では、開発局に話を通しておく。そちら担当のベルナード大佐には私から話そうか?」
「そうして頂けると助かります。ですが、娘を特別扱いすると言われませんか?」
マイはすまなそうに少将に言う。
「それは今更だろう。自分の手元に置いた段階で、そう言われるのは覚悟しているよ、少尉」少将は優しい目でマイを見る。
「少将、いやパパ。どうもありがとう。いつもワタシの我侭聞いてくれて」
マイは少将、いやマイパパに抱きつく。
少将はマイの頭を撫でながら、ダイチの方を見る。
「いつも、こんな我侭娘を守ってくれてどうもありがとう。君の事はハワード大佐から聞いているよ。真偽はともあれ、私達と一緒に戦ってくれるのは嬉しいよ」
マイパパはダイチの「正体」を知っていて尚、信用してくれているのだ。
「ボクの「戯言」に耳を傾けて頂き、ありがとうございます。ご存知なら、ボクからも意見具申して宜しいですか?」
「ああ、なんだい?」
「あくまでボクのカンなのですが、帝国は現在観測されている以上の部隊で待ち構えている気がします。くれぐれも用心をお願い致します」
「その事ならハワード大佐からも聞いている。十分警戒して行くことにするよ。実際、今までも秋山君の「読み」は当っているのだから」
「どうも、ありがとうございます。ボクの全能力を持って、いいんちょ、いやマイさんを必ずいつまでも守り通します。まだまだ未熟者ですが、少将のご期待に沿えるよう奮闘いたします」
これを聞いたマイ、真っ赤になって「ダイチ、それってシチュエーションによっては、結婚する前に相手の親に言う宣言なんだけど」ボソっと言う。
言ってしまった内容に気がついたダイチは、同じく真っ赤になる。
「いや、そういう意味では無いです。でも、いいんちょを守るのは絶対だし、あーどういえば良いの?」混乱するダイチ。
それを見たマイパパ、笑って「まだマイ達にはそういう話は10年は早いって。でも本気でマイを欲しいのなら、まずは父親の私を倒してからだな」
冗談なのか、本気なのか分からない答えをするのは、この場をうまく収めたいのと、二人の「夫婦漫才」が微笑ましいからなのだろう。
「何よそれ。もー、パパもダイチもだいっきらーい!」
毎度のマイの叫びであった。
少将のところから帰った二人は、中隊の皆と相談して時間が許す限りやれることをやろうとした。
ダイチは、得意なフォースフィールドの操作を更にうまくなろうと考えた。
「トロヤの血」の最後の際、フィールドをうまく操作できた。
一箇所に集中したり、ドリル状に変形したり。
また、トゥーリとの戦闘時にフィールドを散弾の様にも出来た。
他にも何か出来るのか、試してみたいことは沢山あるし、うまく出来たフィールド操作プログラムは、少なくとも中隊全員でも共有したかった。
マイはスェーミと一緒になって、開発部から入手したデータを元に鹵獲機へのアクセス練習を繰り返していた。
帝国無人機は、基本として量子コピーされた人格・思考プログラムを有するメインプロセッサーと、それにより操作されるサブプロセッサーからなる。メインからサブに送られる命令を横取り(セッションハイジャック)、もしくはルート(管理者)権限を奪うことが出来れば、無人機を完全に乗っ取りできる。
帝国の量子コンピュータは、古代文明のものからは、そう大きく変化していない。
地球のものも、基本は同じ古代文明由来だが、それまでに発展していた電子機器との接続でやや変化している。
そこの違いを対応できれば、ハッキングは十分可能であるのだ。
トムは、部隊内の連携を高めるためにフォーメーションや古今東西の陸戦、空戦、艦隊戦などなどを調べ、少しでも役に立つ情報を集めた。
狙撃組は、敵機の情報を調べ、急所を狙って一撃で仕留められるよう、またバーストモードで火力アップした場合の「砲撃」についても試した。
他の皆も、残り少ない時間で己が出来る限りの事を行った。
そして、あっという間に作戦決行前夜となった。
ダイチ達小学生男子組は明日朝早いからと、早く寝る準備をしていた。
その時、部屋のインターホンが鳴った。
ダイチが「はい」と室内モニターを見ると、髪を下してパジャマ姿のマイの姿があった。
「いいんちょ、どうしたの?」
「うん、ちょっと皆と一緒に居たくて」
「ドア開けるから、早く入って」
「ありがと」
部屋に入ってきたマイを見て、一瞬「トロヤの血」事件直後の事を思い出したダイチ。
「大丈夫なの、いいんちょ? まさか、前みたいに眠れないとか」
「ううん、そういう訳じゃないの。もう大丈夫よ」
「それなら良いんだが、お嬢。無理だけはするんじゃないぞ。明日はお嬢が要なんだから」
シンゴはマイを心配する。
「姫の思うがままになさるがいい、我らはそれに従うのみ」
カズアキは、これまた古風にマイを励ます。
「実は、スーちゃんがお兄さん達と一緒に寝たいって言い出して、そしたらジェーンお姉さまが、貴方も皆のところに行ったらどうって言ってくれたので、来ちゃったの」
マイは、こうなった経緯を話した。
「そうか、それなら良いよ、いいんちょ。ベットも一つ空いているし、前みたいに一緒に寝よう。あ、もちろん変な事はしないから」
寝ようといったものの、その意味を少し変に思っちゃったダイチである。
「その辺りは心配していないわよ。皆、私の素晴らしい仲間、友達ですもん」
マイは、今回はちゃんと茶化さないでくれた。
「ありがとう、いいんちょ。皆も問題ないよね」
「ああ」
「御意」
「じゃあ、お嬢様、こちらのベットへどうぞ」と紳士風にマイを扱うダイチ。
「ええ、良くってよ」マイもノリノリのお姫様風に言うが、「ぷ!」と噴出して笑ってしまった。
「ダイチったら、まだまだよ。そういうのはもっと背が高くなってからね」
マイに言われてしまったダイチ。今でも実はマイの方が背が高い。
「いいもん、後3年もしないうちに、絶対いいんちょよりも背が高くなってみせるから」
「はいはい、楽しみにしているわ」笑って答えるマイ。
「そういえば、ダイチはこの間少将に「お嬢さんをください」って本当にいっちゃったんだそうだな」
シンゴは、ここぞとばかりにダイチを攻める。
「それは本当か?」
知らなかったカズアキも、シンゴと一緒になってダイチに迫る。
「確かにずっと守るっては言ったけど意味が違うというか……」慌てるダイチ。
「こんなお子ちゃま達に守ってもらうのは、どうなんだろう。ワタシの周りにはアダルティな人は居ないのかしら。中尉は中尉で、あんなだし」愚痴るマイ。
こうやって将来を語ることで、明日それぞれの身に迫る「死」と戦う力を溜め込んでいる小学生組であった。
なお、ロシア兄弟妹は、ベットを集めて皆で一箇所で仲良く寝ていた。
アメリカンチームは、トムはどこかへ行ったらしいが、残った真面目二人は最終チェックを行っていた。
一人女子組の部屋に残ったジェーンのところには、誰か男性が部屋に入って行ったとか……。
そして、作戦決行日が訪れた。




