第二十三話 なかま
マイにマイパパが面会に来た日より2日ほど時間は戻り、ここは地球の国連宇宙軍大会議室、集まることが出来る将軍は全員、現場を離れられないものは、バーチャルで集まっていた。
もちろん、マイパパ、いや神楽坂少将はリアルで会議に参加している。
「皆様、お忙しいところ、お集まり頂き、どうもありがとうございます」
「今回、今後の地球圏の命運を分ける案件につきまして、皆様のご意見を頂きたく、集合をかけました」
「では、議題に入りたいと思います。情報局、説明をお願いいたします」
議長が、開会の挨拶を行った後、情報局を促した。
「はい、では情報局及び防宙部より、この度入手しましたシリウス星系の映像をお見せします」
「こちらが、シリウスA・Bより1光月距離の監視衛星からの映像、つまり現在よりほぼ一ヶ月前のものになります」
提示された映像では、2光月距離からの映像には無かったものが映し出されていた。
「シリウスA・Bのラグランジュ点L1には、約半年以前よりなんらかの施設が建造されていたのを確認していましたが、今回の映像でいきなりL3地点に超大型の建造物が突如現れました」
「2光月からの映像では今だ発見できないので、ここ一ヶ月半以内に施設ごとジャンプしてきたものと推定されます」
情報局員は緊張しながら話す。
「またL4・L5にも受信衛星のような構造物があるのも確認出来ます」
「L1からL4・L5を中継してL3へマイクロ波送電が行われているのも確認できました」
「では、L1の構造物からご説明致します」
「L1の構造物は、約半年前から現地にて築造されているのを確認しています」
「構造ですが、シリウスA側にだんだん直径が小さくなるリング状の物体が十数個確認でき漏斗状の形をなしており、最後は長い指輪状というか、短い竹輪状になった構造物に繋がっています」
「これは、シリウスAから吹き出る恒星風を集めて指輪状構造物へと送り、MHD発電を行った後、ガスをシリウスBへと送っているようです」
「ここで発電された電力はL4・L5の中継衛星を経由してL3の超巨大構造物へと送られています」
「L3のものですが、惑星連合からの情報により、自動工廠衛星、造船プラントである事が分かっています」
「この造船プラントでは、推定ですが数日に一隻のペースで無人艦が製造できるようです」
「更にL1の構造物からの恒星ガスがシリウスBに大量に降り注ぐ事で、チャンドラセカール限界、つまりIa型超新星となる事を促進しているのです」
人類に降り注いだ脅威に議場は騒然となる。
「そうすると、近所で戦艦がどんどん増産されるは、爆弾もついでに作られているという事か?」
と、ある将軍が情報局員に問う。
「はい、その通りです。このまま放置すればするだけ、地球圏への脅威が増すという事です」
情報局員は、淡々と事実を報告する。
「これは攻めに行くしかないじゃないか」
「あそこまで部隊を派遣するのも大変だぞ」
「地球を丸裸には出来ないから、送れる戦力にも限界があるぞ」
「どうにかして、遠距離から攻めれないか?」
「無理だろう、接近してDC魚雷を叩き込むしかない」
「どっちからやる?」
「工廠衛星は、破壊せずに確保したい」
「なら発電衛星を叩くほうが良いか」
「この間の少年達は使い物になるのか?」
「現在、訓練中でまもなく実戦配備可能と聞いております」
「せっかく強い駒があるんだ、今使わないでいつ使うんだ」
将軍たちは好き勝手に論争を続ける。
マイやダイチ達の事が話題にされているのが、少将にとっては気が気ではない。
まだ騒然としている議場に議長の声が響く。
「皆さん、静粛に。動揺するのは理解できますが、我々には混乱している時間は残されてはいないのです」
「この情報を以て、早急にシリウス星系奪還計画「オペレーション・ライラプス」の発動を提案致します」
「これにご賛同頂けます方は、賛成票をお入れ下さい」
もはや猶予が無いのが理解できた将軍たち全員の賛成を持って「オペレーション・ライラプス」の発動が決定した。
「では、今後は情報局と作戦部により、具体的な作戦内容を立案宜しくお願いいたします」
「詳細が決まり次第、再び当会議にて作戦決行日等の決定を致します」
「なお、今回の情報については、一般市民のパニックを防ぐために秘匿とします」
「当議会外への情報漏洩は無いよう、宜しくお願いいたします」
「では、閉会と致します。お忙しい中、皆様お越し頂きありがとうございました」
「ぜひとも地球圏の安寧のため、作戦の成功を目指して励みましょう」
議長は会を終わらせた。
議場から出た、少将
「秋山君の読みが当ってしまったか。戦力が足らない今、彼らやマイを使わざるを得ないとは……」
苦悩するマイパパであった。
そしてこの会議が終わった翌日、少将はマイやダイチにそれとなく知らせるべく、視察に行ったのだった。
そろそろ前線に行くかもとは思っていたが、まさか会議で自分達の事が重要戦力として話題になっているとは思っていないダイチ、日夜勉学に訓練に明け暮れていた。
ダイチの場合どうしても筋力とスタミナに難があるので、そこをなんとかすべく、毎日艦内マラソン等をしていたが、そう簡単に強くなれたら誰も苦労はしない。
マイパパが視察に来てから一週間程過ぎた日、その日の訓練は少し厳しいもので、疲れはてたダイチは、訓練後シャワーを浴びながら半分寝かけていた。
「おい、ダイチ。そのまま寝たら風邪引くぞ」
ダイチが寝落ちしそうなのを気がついたシンゴが、心配してダイチが使用しているシャワーブースを覗き込む。
「このままにしておけないから、オレが運ぶよ」
寝落ちしそうなダイチに気がついたトム、半分寝ているダイチを担いでブースから引っ張りだし、ダイチをバスタオルで丁寧に拭いてやる
「どうも、ありがとうございます。しかし、手馴れていますね、中尉」
カズアキがトムにお礼を言う。
「いやー、オレには歳の離れた弟がいて、昔はよくこうやって面倒みてやったんだ」
「ダイチは、歳の割りに幼いから、つい弟と重なって見えるんだよ」
「しかし、その「弟」になかなか勝てないのは、結構困ったことだけどな」
自虐気味に恥ずかしそうに笑うトム。
「では、我々もお手伝いしますか」
ナムがジョーに言うと、ジョーは静かにうなづいた。
「すいませんが、こっちもお願いします」
トゥーリの声に気がつき、そちらを見ると、ロシアの双子が並んで座り込んでいて、船をこぎ始めていた。
「じゃあ、僕達はこっち担当だね」
ナムとジョーはロシア兄弟の方に行く。
ダイチは、着替えさせてもらった後、そのままトムに背負われてシンゴ達小学生男子組の部屋まで運ばれ、丁寧にベットへと送られた。
途中、運ばれている姿をジェーンに見つかり、
「ダイチ、カワイ――!」
と言われたのは言うまでも無い。
なお、中隊の部屋割りだが、アメリカ男性組(3)、日本男子組(3)、ロシア兄弟組(3)、女子組(3)で、それぞれ4人部屋を3人で広く使っていた。
夢うつつでトム達に運ばれていたのは気がついていたダイチだが、ベットに入るとそのまま深い眠りに落ちた。
ダイチが、気がつくと、そこは真っ白な光につつまれた空間。
「普通の夢じゃないよね、もしかして明晰夢かな?」
あまりにあり得ない風景にダイチは思う。
そこに聞こえてきたのが、「トロヤの血」事件の前に夢で聞こえた声。
その声は、どこか頼りなさげな、しかし優しそうな若い男性の声だ。
「また再び貴方に危機が迫っています」
「貴方には試練ばかり与えて申し訳ありません。今回も乗り切って下さい」
「もしかして、貴方はボクをこの世界に送ってくれた神様なのですか?」
「あの時は、ボクを救ってくれて、ありがとうございました」
「おかげで沢山の友達や仲間に出会えました」
「また、「トロヤの血」事件もバーストモードを教えていただいたおかげで、いいんちょ達を救うことが出来ました」
「いつも助けて頂いて、本当にありがとうございます」
「機会があれば、一度お礼を言いたかったので、ちょうど良かったです」
危機を告げに来たのに感謝されてしまって、調子が狂う神様。
「えっと、こちらとしては、非難される事はあっても感謝されるとは思っていなかったです、はい」
「どうしてですか? 助けてもらっているのは、本当なのですが?」
ダイチは光に向かって話す。
「私は貴方をこの世界に送ったのは、この世界を救うためのきっかけとしてだけ」
「貴方にとって、これからは戦いに明け暮れる人生なのかも知れません」
「それでも感謝していただけるのですか?」
「はい、最初の時にこちらに送っていただけなければ、確実にボクは死んでいました」
「だから、あれから後は人生のオマケ」
「誰かと一緒に、ボクの力でみんなを助けて行けるのなら、それはそれで幸せですよ」
ダイチは、神様に笑って答える。
「それでも、貴方の命は一つだけです。決して無敵ではありません」
「その上、今後は、「敵」に私の干渉が分かると危険なので、あまり貴方のお役に立てません」
「なんとしても生き残って下さい」
あまりに欲の無い笑顔に、神様はダイチを巻き込んで運命を大きく変えてしまった事を少し後悔した。
「「敵」って帝国なのですか?」
ダイチは神様に聞いてみる。
「いえ、銀河帝国の影には、更なるモノが潜んでいます。くれぐれもご用心ください」
「はい、ご助言、どうもありがとうございました」
ダイチは神様に頭を下げた。
「では、貴方の今後の人生がより良きものであります事をお祈りします」
そういって光がどんどん消えていった。
「一体、神様って誰に祈るんだろう?」
ふと、ダイチは疑問に思っているうちに、何かが聞こえてきた。
ジリジリジリ……
それは目覚まし時計の音、古典的なベル型だけれど、これが効果的なのだ。
ダイチが目を覚ますと、そこは小学生男子部屋。
夕べ、シャワー室で眠くなった後、どうだったのかあまり覚えていない。
ダイチは目覚ましで起きてきたシンゴに夕べの事を聞いた。
「昨日はダイチ、シャワー浴びながら寝ちゃって、中尉にここまで運んでもらったんだ」
「それは、中尉に悪いことしちゃったね」
「そうだ、もう「いいんちょ」達は起きているかな? ちょっと話したいことがあるんだけど」
ダイチは二人にに聞いてみる。
「たぶん起床時間は全艦共通だから起きていると思うが、女性の寝起きを覗くのは不味いと思うぞ」 カズアキは、シンゴでは気がつかない事を言ってくれる。
「そうだね。じゃあ忘れる前に急いでメモしなきゃ」
ダイチはノートを取り出して、急いで何か書き始める。
「おいおい、顔を洗う前に何し始めたんだ?」
シンゴはダイチが書いているノートを覗き込む。
「うん、ちょっとね」
「詳しい事は、出来たら艦長を含めて中隊の皆全員に話したいんだ」
ダイチは夢の内容を忘れる前に必死に書き写す。
「おいおい、何か普通じゃないぞ、ダイチ」
「ああ、一体何があったんだ?」
二人は不思議そうにダイチを見る。
とりあえず要点を書き写せたダイチ、
「たぶんだけど、これからのボク達がどうなるのか、分かったかも」
ますます何をダイチが言いたいのか、分からない二人だった。
朝食が終わって、艦長を含めた中隊全員にアポを取ったダイチ、皆をブリーフィングルームに集めた。
「一体何が起こるんだ、ダイチ?」
トムを含めて全員が、あまりに真剣な表情のダイチを不思議がる。
「私まで呼ぶのですから、ただ事ではないのですね?」
艦長はダイチに問う。
「はい、いきなり皆様に集合をかけて申し訳ありません」
「実はとても重要な事について皆さんと話し合いと思いまして、お時間を取らさせて頂きました」
ダイチの雰囲気に呑まれたトム
「まさか夕べ寝ぼけてすいませんでした、って話じゃないよな」
「ええ、これが寝ぼけていたのなら、ボクも気楽だったのですが」
「信じてはもらえないかもしれませんが、実は……」
ダイチは今まで誰にも言っていなかった秘密、自分が神様の力で世界を渡って来た事、その神様に危機とリミット解除方法を教えてもらった事、そしてまた再び危機が訪れる事を神様が教えてくれた事を話した。
「おいおい、そんな事あるのかよ?」
トムは思わず叫ぶ。
「本当なら、どうしてあの時、トロヤの時にもっと早く言ってくれなかったの?」
「そうしてくれてたなら、誰も死ななかったのに!」
マイは、ダイチに問いかかる。
「オレは、ダイチは嘘言っていないと思うぞ」
「だって普通、こんな事いきなり言われたら誰もダイチの事信じないよ」
「ダイチがそれを分からないはずは無いよな」
「だから今まで誰にも言えなかったんだろう」
「お嬢、ダイチを責めるんじゃないよ」
「第一、あの時そう聞いていたら、お嬢はダイチの事信じていたか?」
シンゴはダイチを庇う。
「う、、」
マイは言いよどむ。
「本当にごめんなさい」
「いいんちょの言うとおりだよ」
「あの時、ボクが先生とかに言っていれば、あんな悲劇は起こらなかったかも知れないのに」
ダイチは落ち込む。
「いや、あの時点では、全員無事はたぶん無理だろう」
「まずリミット解除は、ダイチしか使えなかった」
「それにいきなり先生に話しても信用してくれないだろう」
「今になれば、確証があってダイチも先生を説得できただろうけど、あの時だと小学生の妄想と言われかねない」
カズアキもダイチを慰める。
「うん、言われた言葉がリミット解除コードと分かったのは、あの事件の前日だったんだ」
「それと夢のお告げが本当かどうかなんて、あの時までボク自身が信じていなかったから」
「でも、本当は動くべきだったんだよ。ごめんなさい」ダイチは涙を流す。
「いえ、謝るのは私のほう」
「ごめんなさい。ダイチを責めてもしょうがないよね」
「一番あの時のことが悔しいのは、ダイチなんだし」
マイはダイチに謝る。
「ううん、もっと早く誰かに話すべきだったんだよ」
ダイチは泣きながら、マイの方を見て話す。
「どっちかというと部外者のオレが言うのも何なのだが、今更過去は変えられないんじゃないか」
「それに事実、ダイチがその時に戦えたから、オレ達を含めて今がある訳だ」
「オレはダイチを信用するし、ダイチがやりたい事を何でも手伝うぞ」
トゥーリはダイチを励ます。
「オレだってダイチの事は信用しているぞ」
「別にダイチが嘘ついているなんて一切思っていないし」
少しバツが悪そうに言うトム。
「ええ、お姉さんもダイチは嘘ついていないと思う。カワイイ ハ セイギ ですもの」
ジェーンはダイチの横に来てダイチの頭を撫でる。
「そうね、艦長としては、すぐに秋山曹長の言う事を鵜呑みには出来ません」
「しかし、ママとしては、ダイチの事を信じているわ」
艦長はジェーンと同じくダイチの横に来てダイチを撫でた。
他の皆もダイチを見て頷いた。
「皆さん、どうもありがとうございます」
「こんなボクを信じてくれて」
「皆ならボクの言う事を信じてくれて、あの時のような事にならないだろう」
「もう同じ後悔はしたくないと思って話しました」
ダイチは泣きながら皆に頭を下げる。
「で、どうしたいんだい、ダイチは」
トムはダイチに問う。
「そう時間は残っていないだろうけど、やれる事はやって少しでも勝てるよう、そして少しでも犠牲が少なくなるようにしたいんです」
「その方法はまだ思いつかないけど、もし皆が助けてくれるなら、出来そうな気がします」
「ダイチの話だけど、私も少し裏取りしていて、近日中にシリウス星系の奪還計画が実行されるだろうとの話が別ルートから聞けたの」
「なので、ダイチに迫る危機とは、たぶんこのシリウス攻略戦の事だと思うの」
艦長は仕入れた情報を開示した。
「という事で先手を打って、戦闘参加準備をしましょう」
「少しでも早く準備出来たほうが有利だしね」
「中隊の訓練については、中尉に一任しますので、よろしく頼みます」
「作戦の詳細情報が正式に到着次第、もう少し具体的な打ち合わせをしましょう」
「では、皆さん、なんとしても勝って生き残りましょう」
艦長は中隊全員の顔を見回して言った。
「ハイ、マム」
中隊全員は艦長に敬礼した。
それから、一週間後、艦長の下に正式な作戦参加命令が来たのである。




