第二十二話 おおいぬ
あの勝負から十日程過ぎた中隊の皆は、模擬戦闘訓練に明け暮れていた。
「そういえばトゥーリ、お前はどこで、あのリミッター解除を知ったんだ?」
バーストモードに振り回されながらトムは聞く。
「オレは日本経由の情報で知ったが」
トムよりは余裕でバーストしているトゥーリ。
「じゃあ、出所はダイチか」
「ダイチにも聞こうと思っていたけれど、お前はどこで知ったんだ」
トムはダイチに肉薄する。
「えー、今言わなきゃダメですか?」
「たぶん言っても信じてくれないですよ」
ひょいひょいとトムの攻撃をかわして、お返しにと撃ち返す。
「うひぃー、口で揺さぶっても勝てないのかよ、オレ」
撃墜判定をもらって落ち込むトム。
「次はオレの番だぞ、ダイチ!」
トゥーリはダイチに挑む。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ダイチは嬉しそうに挑んでいく。
「准尉の兄ちゃんも凄いし、ダイチも凄いな。まあ、、、中尉は中尉だな」
「うん」「おう」
3人の暴走じみた激突を横目で見ながら、バーストモードの維持時間延長に挑戦中の双子にシンゴ。
お互い似たもの同士なので、最近では組んで悪戯して、マイに3人で怒られるのが最近の日常である。
なお、今まで記載していなかったが、双子機の装備はLSPショットガン×2で面制圧に長けている。
狙撃組+ナムは、長距離射撃中。
ナムが観測員役である。
こちらは寡黙な職人組、着々と目標に的中させている。
「今日は楽な仕事ですね。いつもこうであって欲しいのに」
気苦労がいつも絶えないナムであった。
女の子組は、マイ・スェーミの合体技の特訓中。
ジェーンは隙が出来る二人の援護役。
「「カワイイ ハ セイギ」攻撃いくよー!」
ジェーンが一番ノリノリ。
「スーちゃん、行くよ」
「うん、マイ!」
二人の攻撃用ドローンが複雑な機動をとり、標的を完全に押さえ込んで、同時攻撃の一撃で破壊する。
「次は「カワイイ ハ ステキ」攻撃いくよー!」
「このネーミング、どうにかならないの?」
ふと思うマイである。
ドローンを全部一箇所に集約して、収束ビームを撃ち、標的は文字通り霧散する。
こうして訓練を通じて、中隊の連度はどんどん上昇していった。
その頃、国連宇宙軍のシリウス方面監視システムは、恐ろしいものを発見していた。
「議長、まずはこれをご覧下さい」
「この映像はシリウスより0.5光年離れた場所の監視衛星から、つまり現在より半年前の映像です」
「シリウスA・B間のラグランジュ点L1に小さな点が見えるでしょう」
「この点は、地球からの映像(約8年前の映像)ではもちろん、1光年離れた地点からの観測データでも見えませんでした」
「そして、これがシリウスより2光月(光速で2ヶ月の距離)距離の監視衛星からの映像です」
「おなじ縮尺で見ますと4ヶ月の間でL1の構造物が大きくなっており、シリウスAからBへ移動する恒星ガス量が増加していることが分かります」
防宙担当中将が大汗を書きながら安全保障理事会議長に報告する。
「つまり、これはどういう意味ですか?」
議長は中将に問う。
「はい、このL1の構築物が、シリウスA・B間の恒星ガス移動を活発化させております」
「このため、シリウスBの巨大化の進行が増進、より早くチャンドラセカール限界に到達すると考えられます」
「よって惑星連合から通知があった恒星系破壊兵器が現実味を帯びてきたのです」
「ちなみに、どのくらい未来でシリウスBは爆発するのですか?」
議長は残り時間が知りたい。
「おそらくですが、10年、20年単位でどうということは無いでしょう」
「しかし、目の前でこっちに向いた爆弾や大砲を準備されるのは気に入りません」
「そうですね。このまま放置という訳には行かないでしょう」
「で、この映像以降の情報は無いのですか?」
「はい、大型の船等ですと、ジャンプ時の時空震が大きくて分かりやすいため、帝国に察知されないようあまり近くに出ることが出来ません」
「この映像も小型衛星をジャンプさせて得た情報です」
「近日中に1光月以内に小型衛星を送る予定になっておりまして、もう少し情報を得られるかと思います」
中将は更に汗をかいて議長に報告する」
「シリウス星系に帝国の艦船はどの程度いますか?」
「2光月からの情報ですと、大型艦が5、無人艦が約50といったところです」
「無人星系にしてはかなりの艦隊ですね」
「はい、恒星からの恒星風も強く、恒常的にいるには厳しい環境の割には多いと思われます」
「では、情報収集の程よろしくお願いします」
「情報が集まり次第、議会を開催し、「オペレーション・ライラプス(ギリシャ神話に出る猟犬、おおいぬ座のモチーフ)」の実行を決議しましょう」
こうして、ダイチ達が知らない間に再び運命が動いた。
議長へシリウスの情報が送られてから10日後、マイパパ、いや神楽坂少将がシャングリラに単独で視察に来た。
「ようこそ、少将。わがシャングリラへ」
「この艦もようやく正式クルー及びパイロットが揃い、まもなく正式運用が可能となりました」
艦長が少将を出迎える。
「今日は、少将としてではなく、マイの父親として来たのだから、お構いなく」
「大佐、娘を含めて、若い子達の面倒をみて頂き、本当にありがとう」
「こんな事は大佐にしか頼めない。今後ともくれぐれもよろしく頼みます」
少将は艦長に頭を下げる。
「いえいえ、マイさんや他の子達はとってもいい子たちで助かっています」
「ロシアの子達とも、すぐに仲良くなって、この間はロシアと日本の男の子達が悪戯をして、一緒にマイさんに叱られていましたから」
「ロシアの女の子もマイさんと友達になって、毎日仲良く訓練しています」
笑って艦長は答える。
「それは良かった」
「ロシアの子達も事情があって、向こうから今後のことを頼まれていたのだが、これで一安心だ」
少将は安堵した。
やっぱりそうだったのね、と思うもそこは顔に出さない艦長
「今日は娘さんにお会いになるのですよね」
「ああ、出来れば中隊の全員と面会したいのだが」
「はい、ではその様に準備しますね」
早速、艦長は手配を行った。
パイロットは、皆艦長からの連絡で、ブリーフィングルームへ集合した。
そこに艦長に連れられて、神楽坂少将が現れた。
「全員、起立、少将に敬礼」
中隊長のトムの合図で全員敬礼を行った。
「うむ」
敬礼を返した少将、
「今日は少将としてではなく、マイの父親として来ました」
「ですので、堅苦しい事は抜きでお願いします。みんな着席して」
少将、いやマイパパは皆に促す。
トム「はい、全員着席」
「どうも、うちの不肖の娘が皆さんにご迷惑をおかけしているようで、申し訳ない」
「ウチにいた時はもう少し素直だったのだが、最近は思春期なのか、なかなか扱いづらくて、私もどう扱っていいものか、正直困っている」
「だから、身近にいる君たちはもっと困っているのではないかと思い、こちらに来て見た次第で」
「お父様、言うに事かいて何言っているのですか?」
「そんなにワタシの事、信用ならないのですか?」
「だって、この間もパパ苛めたじゃないの」
急にパパモードになる少将。
「あれは、知っている事を話さないパパが悪いんじゃないの!」
喧嘩腰のマイ。
このままだと、またヤバイ状況になると思ったダイチは、喧嘩を止めに入る。
「少将、いいんちょ、いやマイさんはとても優秀に仕事をこなされていますよ」
「ボク達なんて、いつもミス指摘されて叱られてばっかりです」
「そして、困った人には親身になってくれる、とても優しい子でもあります。ね、スェーミ」
話をスェーミに振る。
「うん、マイは私にとっても良くしてくれたわ」
「今まで同じくらいの歳の女の子の友達が居なかった私だけど、マイが友達になってくれたおかげで、今は毎日がとっても楽しいの」
トゥーリが続ける。
「マイには妹がとてもお世話になっています」
「それと、少将、自分達の事を助けていただいた事に感謝しております」
「どうもありがとうございます」
「いや、そう言って頂けるのなら良いのだが」
「そうよ、ワタシだってちゃんと成長しているんだから、パパもバカな事言わないの」
「ああ、分かったよ」
「皆さん、どうもありがとう」
「これから大変な事が色々待ち受けているでしょうが、くれぐれも娘を宜しく頼みます」
「そして全員必ず生き残って下さい」
マイパパ、いや少将は全員に向かって頭を下げた。
少将が艦を離れた後、マイパパの最後の言葉が気になるマイ。
「ダイチ、パパまた何か知ってて言えない事あったのかな?」
「うん、最後の言葉だよね」
「そろそろボク達が実戦配備される時が近づいたのかも」
「少将は、いつもボク達にはヒント言って下さっているからね」
「じゃあ、もしかしてダイチが言っていたシリウスへの攻撃を行うのかしら」
「うん、その可能性は否定できないよね」
「準備はしておいた方が良いかな」
「ちょっと艦長にも相談してみたいけど、いいんちょから聞く? それとも中尉を通す?」
「そうね、ワタシが聞くよりは直接ダイチが聞いた方が良いかも」
「ダイチ、よく艦長に相談に行っているの、知っているわよ」
マイは悪戯っぽく聞く。
「え、なんで知っているの? うん、その通りなんだけどね」
顔を赤くしてしまうダイチ。
「まるで本当のお母さんみたいに思える事があって、色々と雑談含めてお話しているんだ」
「もちろん、艦長がお忙しく無い時にだよ」
ダイチは慌ててマイに説明する。
「いいのよ、私も時々艦長には相談には行くから」
「ワルガキ共の扱いはどーしたらいいんですかって」
マイはふざけて答える。
「そうなんだ。艦長って良いよね」
「うん、そうだね」
「じゃあ、中尉には、いいんちょから連絡をお願いね」
「りょーかい」
その後、ダイチはアポを取って艦長室を訪れ、艦長に自分が知りえること、そして予想したことを報告した。
「そうね、十分にあり得る話だわ。私もシリウスへの噂は聞いた事があるし」
「では、私も調べてみて、本当にそうなら艦全体で準備をしてみましょうかしら」
「ボクの意見具申をお聞き頂いて、どうもありがとうございます」
「いえ、良いのよ。カワイイ子達ががんばる姿は、ジェーンじゃないけど私も好きだから」
艦長はチャーミングな表情でダイチを見送った後、表情を引き締め、軍情報部の友人宛に連絡を取った。
「お久しぶり、いきなりでなんだけども、そろそろ大きな艦隊戦がどこかでありそうなの?」
「実はウチの艦にいる耳が早い子が変な話を聞いてきて……」




