第二十一話 かなしい「にんぎょう」たち
格納庫に帰還後、機体からいつまでも出ないロシア兄妹。
兄トゥリーは、
「俺はどうして負けたんだ。何が悪かったんだ」
と、繰り返し自問自答に明け暮れている。
妹スェーミは、
「トゥ兄ぃ、負けちゃった。トゥ兄ぃ、負けちゃった」
と、いつまでも泣き止まない。
このままでは、埒があかないので、しょうがないけどコクピットを強制開放。
トゥリーは迎えに来ていた双子とトムに連れられて、スェーミはマイとジェーンが連れ出した。
「スーちゃん。もう大丈夫。誰もあなた達を傷つけやしないから」
マイはスェーミの背中をさすりながら慰めた。
「とりあえず、着替えていただいて、一度落ち着いてから話を聞きましょう。あなた方には絶対悪いようにはしませんから」
艦長は二人に言う。
「うん」
少し泣き止んでスェーミは頷く。
「スーちゃん、お手伝いしてあげるから、着替え室に一緒に行こう」
マイは縫いぐるみを離さないスェーミの手を繋いで歩いていく。
「トゥ兄ぃ、どうしたんだい。一回負けたくらいで、どうしてそうなっちゃうんだよ」
「うん、オレ達なんて、いつもトゥ兄ぃに負けっぱなしだけど、大丈夫だぞ」
双子は兄を慰めるように話す。
「おい、さっきオレに食って掛かっておいて、そのザマかよ。オレはお前はもっと歯ごたえのあるヤツだと思っていたんだがな」
トムは煽るようにトゥーイに話す。
「オレ達は、お前たちのようなお気楽なのとは違うんだ」
ボソっとトゥリーは話す。
「で、どう違うんだい。たかが一回の敗北で落ち込んで、ボク可愛そうなの、って言いたいのかい? そんなんで、本当に弟や妹を守ってやれるのかよ!」
更にトムはトゥリーを煽る。
「オレ達は負ければ廃棄処分が待っている。だから絶対負けは許されない」
「だから負けられない。それをお前らは知っていて、それでもオレをなじるのか!」
トゥリーは急に大声で叫ぶ。
「おう、その調子だ。そうじゃなきゃ、誰も守れやしない」
「そしてタカが一回の敗北でお前は終わるのか。弟や妹を守る事から勝手に逃げるのか!」
「いや、絶対逃げるもんか!」
「何があろうとオレがアイツらを守る。そのためには絶対何にだって勝ってやる!」
「次は必ずオレが勝つ!!」
トゥリーは宣言する。
「そうだよ、それでいいんだ、少尉」
「たとえ負けたって命があれば、次がある」
「何回挑戦して毎回負けても、生きていればいつでも再戦できる」
最後に勝てば良いんだよ」
トムはトムなりの方法でトゥリーを励ましていたのだ。
「しかし、国がどう言うのか」
ある程度吹っ切れたトゥリーだが、国の意向には逆らいにくい。
「その件については、私に考えがありますから、まずは着替えてね」
艦長は、トムの頭をポンと叩いて、
「少し無茶な励まし方でしたよ。ホント不器用なのですね。でも、ありがとう」
と、言って格納庫を去っていった。
「全く何も考えていないのか、考えているのか、トムは昔からよくわかんないね」
ジェーンはトムに寄り添って、
「でも、今のはかっこよかったよ」
と、ほめた。
「そりゃ、実戦ではダイチにやられっぱなしだけど、こういうのはオレがやらなきゃな」
と、トムは顔を赤くしてまんざらでもない表情である。
「おい、オマエもアイツに勝てないのか!」
トゥリーはトムに食って掛かる。
「すまなかったな。実はオレも大きな口叩いて、その後ダイチにダルマにされたんだ」
「なので、お互い、ダイチの被害者なんだよ」
トムは少し恥ずかしげに言う。
「今までいい雰囲気だったので、口出ししませんでしたけど、中尉」
「いい加減ボクをダシに使うのはやめてもらえませんか? まるでボクは、悪魔か何かですか?」
少しおどけてダイチは言う。
「少尉、すごいマニューバでした」
「使うつもりの無かった隠しだまを使わないと、とても勝負に持ち込めませんでした」
「申し訳ありませんでした、卑怯な手を使ってしまって」
ダイチはトゥリーに謝る。
「いや、これは読み間違ったオレの負けだ」
「こちらこそお前、いやダイチを侮っていて悪かった」
「今まで負け知らずだったから、相手を見ることを忘れていた」
トゥリーは落ち着いたのか、冷静に自分の敗因を分析できていた。
「正直、その侮りにつけ込むしか勝機が無かったのが本音です、少尉」
「よかったらマニューバについて教えていただけませんでしょうか?」
「ああ、良いぞ。何かダイチに負けて吹っ切れたような気がする」
「だろ? オレも実際そうなんだよ。同じダイチ被害者同士、仲良くしようや」
またダイチをダシに使うトム。
「とりあえず、早く更衣室行きなさいよ、男ども」
「これ以上、ここにいたら整備員の方々にご迷惑をおかけするでしょ」
いつまでも話が続きそうなので、ジェーンは締める。
「いつもならナムが締めるのに、今日はおとなしいのね」
「あのー、僕ってそういう役なんですか?」
「階級はともかく最年長なんですから、そこは見てもらいたいのですが」
ふー、とため息をつくナムであった。
それから1時間後、再び艦長をブリーフィングルームに呼んで、中隊全員でロシア兄弟妹からの話を聞くことになった。
なお、スェーミとマイは仲良く並んで座っている。
「では、少尉、詳しいことを教えていただけないですか?」
「もちろん守秘情報とかは無理にとは申しません」
「ここでの発言はオフレコ、後で追及することは決してしませんし、皆も他言無用です」
「その代わり、少しでも多くの情報を出し合って、皆が少しでも幸せになるように、方法を模索しましょう」
艦長が皆に言う。
「それでは、オレから話します」
「もうお気づきになられた人もいるかと思いますが、オレ達兄弟は人為的に調整された存在です」
「それは一般的に行われている生体強化では無くて、生まれる前からのもの、遺伝子レベルからの調整をされたデザイナーズ・チャイルドなのです」
「すいません、遺伝子って何でしたっけ?」
シンゴは、まさかこのタイミングで問う。
「申し訳ありません、話の腰を折って」
「シンゴ、後でみっちり生物学の講義するから、居残り授業ね」
マイはシンゴを睨んでトゥリーに謝る。
「いや、小学生には難しい話だからな」
「正直、ウチでもスェーミは理解しているけど、双子の方は理系の勉強が苦手で」
「トゥ兄ぃ、こんな時にそんな事言うなよ」
「うん、もっと勉強するから追試は許してよ」
双子は兄に泣きつく。
それを見てシンゴ、
「お前ら、いや准尉達はオレよりひとつ年上みたいだけど、一緒に勉強しないか?」
「ウチにも怖い先生いるけどな」
「誰が怖い先生ですって!」
マイはシンゴを睨む。
「お前たちは、見ていて楽しいな」
トゥリーは笑ってマイ達を見る。
「すいません、度々お話を中断してしまって」
マイは謝る。
「いや、良い。ピャーチ、シャスチ、仲良くしてもらえ」
「うん」「おー」
「こっちこそ宜しくな」
「ボクもね」
「自分もよろしく」
「そういえば、スェーミの事も面倒見てくれてありがとう、少尉」
「いえいえ、スーちゃん可愛くて良い子ですから」
マイは照れる。
「で、そのスーちゃんというのは何だ?」
「ちゃんというのは日本語で可愛い対象に対してつける呼び名です」
「スーちゃん、何回も呼んじゃったけど、良いよね」マイはスェーミに聞く。
「うん、マイは私にいっぱい優しくしてくれたから」
「じゃ、もう友達だね。これからも宜しくね」
マイはスェーミの手を握って言う。
「うん、私こそ、マイ」
この様子を見て「カワイイ ハ セイギ」病のジェーンは、もう我慢できない。
「あーん、このカワイイ子達見てたら我慢できない」
「お姉さんとも仲良くしてね」
と、二人の後ろに回りこんで抱きつく。
「うん、いいよ」
ジェーンの強引さに少し引き気味だが、抱きついたジェーンの母性的な温かみで、まだ見ぬ母を連想したスェーミは受け入れた。
「申し訳ない、ウチのイロボケ娘が暴走して」
「で、本題に入るからジェーン席に戻れよ」
トムが謝る。
「はい、すいませんでした。「カワイイ ハ セイギ」が我慢できませんで」
少しペースを乱されるも、気持ちの良い感じだから悪い気はしないトゥリー。
「では、話を続けさせて頂きます」
「お話した通り、オレ達はデザイナーズ・チャイルドとして作られました」
「オレが聞いた話では、最初はとある国営企業が宇宙開発に適した人材を作成しようとしたプロジェクトからスタートしたと聞いています」
「すでに生まれていた人間を調整するよりは、最初から調整した赤子を強化していく方が効率的に人材確保をできるのではないかという事だそうです」
「そのうち、この計画が宇宙戦争での兵士作成に使えるというようになり、途中で計画が変更されたようです」
「オレは初期段階の宇宙開発用人材として作られました」
「双子は、宇宙兵士の試作量産型として、スェーミは情報処理強化型として作られました」
「だから、名前がロシア数字だったね」
マイが疑問を指摘する。
「その通り、同じ母体と精子を用いて作られた1アジン、2ドゥヴァは死産で終わりました」
「3は私。私の下、双子の上に4、チィトゥィリ、妹が居ましたが病弱で3歳で亡くなりました」
「後は、5、6の双子。7という事です」
「その口ぶりですと、他にも母体違いの子達が居るのではないですか?」
艦長はトゥーイに聞く。
「ええ、同じラボにはいませんでしたが、他のラボには存在すると聞いてます」
「じゃあ、皆は正真正銘の兄弟なのね」
マイは兄弟に聞く。
「ああ、その通りだ」
正直、母親の顔は誰も見ていないし、詳しい事は教えてもらえなかった」
「父親については、宇宙飛行士だとか、科学者だとか、オリンピック選手だとか、いろいろな人物の要素を詰め込んだと聞いてはいる」
「え、お母さんの事誰も知らないの?」
マイはスェーミに聞く。
「うん、ラボにはとても優しくしてくれた女の人はいたけれど、聞いたらママじゃないって」
少し暗い顔をするスェーミ。
「じゃあ、今度地球に帰ったらウチに来ない? ママ、いやお母様ならスーちゃんを可愛がってくれるわ」
「それを言うなら、ここに艦内みんなのママが居ますから、先にこちらに来てね」
艦長が張り合う。
「あーん、私はママには早いからお姉さんにしてー!」
ジェーンが茶化す。
「はい、また話が逸れています。すいませんが、艦長まで邪魔なさらないでいただけませんか?」
ナムが締める。
「ごめんなさいね、准尉。ウチ男の子しかいないから、一度くらい女の子と一緒に暮らしてみたかったのよ」
半分以上本気でいう艦長も艦長だ。
「スェーミ、良かったな。ここの皆はお前を大事にしてくれて」
「うん!」
満面の笑みをするスェーミだった。
「さて、そういう事で、ここしばらくは、オレ達は国家の管理化に居ました」
「そして、この度国連からの要請で、この艦へ出向けということになりました」
「その時ですが、ラボはあなた達に何か言ってませんでしたか?」
艦長は聞く。
「絶対ここに帰ってくるな、帰ったら再調整だぞ、とだけ聞いています」
「やっぱりね、実はこちらへの申し渡しの中に、「何があっても返品はお断りだ。失敗作なので、そちらで処分してくれ」とあってね」
「あまりに酷い言い方だけど、何か裏があるような気がしてね」
「そういえば、国ではプロジェクトが縮小中だとか、他のラボから前線に送られたとか聞いています」
「なるほどね、どこかで使いつぶされる前に避難させてあげようというのが、あなた達のラボの意見だったのね」
艦長は納得する。
「それはどういう事なのですか? ラボはオレ達を見捨てたのではないのですか?」
トゥーリは困惑する。
「実は、神楽坂少将から、もう一組は訳ありが来るけど、大事にしてやってくれ、という伝言があってね」
「また、パパが暗躍しているぅ」
マイは小声の日本語で愚痴る。
「来たあなた達を見れば子供の兄弟、これは何か裏があると思うのが普通よね」
「たぶん少将宛にラボからのお願いがあって、ここを避難場所に使ったのでしょうね」
「あのお方は子供に弱いから」
艦長はマイを一瞥して言う。
「そりゃ、パパはああ見えてワタシに弱いですから」
自慢して言うマイ。
「おい、少将が少尉の親父さんか!」
トゥリーは驚愕する。
「その通りよ、細かいことはパパに任せておけば大丈夫だから」
マイは鼻高々。
「じゃあ、別れる前に私に、泣いて「幸せにおなり」って言ってくれた女の人は?」
「もしかすると、スーちゃん達のお母さんだったのかも」
「言えない事情があったんだろうけど、スーちゃん達を守りたくて、ここに送ってくれたんだね」
「そうだったんだ、お母さん」
スェーミは泣き出す。
マイはスェーミの背中をさすって慰めた。
「じゃあ、一度落ち着いたら、皆でお母さんを探しに行こうね」
「パパの権力を全開で使ってもらうから」
「うん、ありがとう」
マイはやる気満々である。
「もしそうだったら、オレ達も一緒に」
「もちろんよ、全部ワタシに任せなさい!」
知らぬ間に場を仕切ってしまったマイ。
ダイチは感動して口出す暇すら無かったのである。




