第二十話 「ろしあ」からの、あらし
艦長に、心に溜めていたものを吐き出してからのダイチは、また以前どおりに戻っていた。
それと気軽に皆に相談できるようになり、その後はリミッター解除、つまりバーストモードでも更に安定して機体運用が出来るようになった。
そして、中隊の皆にもバーストモードの運用方法を伝授して、全員5分以上のリミッター解除が出来るようになっていた。
もちろん適正値は、全員上昇中だ。
そうこうして、ダイチ達が宇宙に上がって20日程過ぎた頃、強襲揚陸航宙艦シャングリアに新たな機体が1小隊分、4機届けられた。
どんな機体か興味津々なダイチは、トムと一緒に格納庫へと見に行った。
「中尉ってメカマニアなんですね。そういえば、ボク達の機体がここに来たときも見に来て、装備のカスタマイズ度を関心していたと聞いてますが」
「ああ、こう見えてロボマニアなんだ。ダイチ達のカスタマイズ具合は実に興味深い。あれってダイチの意見が多く取り入れられているって話だが」
「そうですね。出来ればもう一段階やってみたかったのですが、時間以上に素体への装備限界があって、あそこで止めたんです。特にシンゴの機体は、もう少しでパーフェクトなんですが」
「おい、アレでも本来のE型よりも50%近く火力が多いんだぞ。これ以上火力盛り込むのは流石に無茶だ」
「ええ、だからあそこで妥協したんですよ」
「つくづく、ダイチは末恐ろしいな。まあ、ダイチが味方でいるから、オレは逆に安心だがな」
「はい、中尉には、まだまだ教えて頂きたい事が沢山ありますから、今後とも宜しくです」
案外、共通項が多い二人だった。
「ふむ、あの機体はロシアのものだな」目がいいトムは、右肩の国籍マークを目ざとく見つける。
「全部、XS型に見えますね」
ダイチも機体頭部のセンサーマストとバイザー内のカメラ分布で判断する。
「ああ、まだS型の正式量産は聞いていないから、XS型だろうな」
トムは、「その筋」からの情報については、早耳だ。
「全部、XS型だと、情報支援型で小隊を組んでいるのでしょうか?」
ダイチはトムに聞く。
「いや、あそこのラインが銀色のやつは、マイの機体と同じ攻撃型ドローンを倍は搭載している代わりに、他の装備が無いから、こいつは情報支援特化だろうけど、後は違うな」
トムは、機動兵器については「違いが分かる」男なのだ。
「紫のラインのヤツは、スラスター周りと手足が強化されているから、たぶんダイチの機体と思想は同じ、黄色と茶色のやつは、ふたつとも通常仕様だな」
「すいません、この機体の搭乗者はいつこちらに上がってくるのですか?」
ダイチは、甲板員のおじさんに聞いてみる。
「おう、ダイチ坊か。こいつらの乗り手は、明日以降って聞いているぞ」
ここでもダイチは人気者なのだ。
「どうも、ありがとうございます」
「ですって、中尉」
「じゃあ、そいつらは明日からしごいてやるか。まずはダイチのバーストでダルマにするのが、初めてのトレーニングだな」
「中尉、それ恥かしいですって。ボクは罰ゲームか、鞭と飴の鞭役ですか?」
「最初に辱めを受けたのはオレだぞ、ダイチ。だから、これは皆共通に受けてもらわないと困る」
ふざけているのか、真面目なのか分からないトムであった。
実際、第一小隊の残る3人は、トムを慰めてくれなかった「罰」で、全員あの後で順番にダイチにダルマにしてもらったのだ。
何回もバーストモード使うダイチの大変さを分かっているのか、それともダイチがバーストモードに慣れる為の訓練だったのか、それは中尉にも分かっていないらしい。
困ったことだ。
そして翌日、艦に来たのは4人のロシア少年と少女の兄弟妹だった。
ブリーフィングルームで艦長に紹介された4人は、順番に自己紹介をした。
なお、会話はロシア語なので、全員翻訳機の力を借りている。
「自分は、три Антонов(トゥリー・アントーノフ)、16歳、特務少尉。小隊長かつ長男です」
4人ともアッシュブロンド、灰色眼のスラブ系。
皆、細身小柄だけど筋肉質な感じ。
「オレは、пять(ピャーチ)」
「オレはшесть(シャスチ)」
二人でハモって「双子の12歳、特務准尉だ」
殆ど区別がつかない、一卵性双生児のようだ。
感じとしてはシンゴを更に「やんちゃ」にした感じ。
「семь(スェーミ)、9歳、特務曹長」
最後にダイチ達よりも更に幼い、やや巻き毛の可憐な女の子が、ウサギの縫いぐるみ抱えたまま、小さな声で話す。
それを見たジェーンは、早速「カワイイ ハ セイギ」病を発症しているのは言うまでも無い。
トゥリーは言う。
「自分達はロシアより、国家安寧のために派遣されてきました。馴れ合うつもりはありませんが、地球・国家防衛のための任務とあらば、今回のミッションも実行します。以上」
「おいおい、日本はお子ちゃま送る外道かと思ったが、ロシアは幼い兄妹送りつける更に外道かよ」
トムは、この状況が気に食わず、毒を吐く。
「すいません、中尉がおかしな事を申しまして」
ナムはすかさずフォローするが、
トゥリーは、「我が国と我が弟妹を侮辱するのは、気に食いません。艦長、このバカを黙らせてやってもいいですか?」
と、喧嘩早い様子。
ピャーチ、シャスチもやってやるという感じだ。
「ああ、いいぞ、やってやろう。ただ、その前にウチの若いもんと1対1で勝負して勝ったら、オレが相手してやろう。ダイチ、出番だぞ」
トムは、どこぞの道場主のようなせりふを吐く。
おいおい、またこういう役ですか、と思うダイチだが、「そこの細っこい坊主で本当にいいのか?」と煽られたので、やってやるかと思い出したのは、トムからの悪い影響か。
マイは、頭を抱えるもしょうがないと、いつもの手で行く。
「はい、観測員も必要ですので、ワタシも出ます」
「それでは、こちらも観測員を出しても良いな。スェーミ頼む」
「うん」と小さな声で可愛く話すから、ジェーンは、ますますカワイーと暴走中。
流石に今は抱きつきにはいかないけど。
艦長は、毎度の事ね、と思うが「では、4人の模擬戦訓練を許可します。他の人は、中継をこちらに回すから、ここで待機ね」とお膳立てをする。
女子更衣室で、パイロットスーツに着替え中のマイとスェーミ。
マイはスェーミに話しかける。
「急にこんな話になってごめんね。私は神楽坂マイ、11歳で第二小隊の小隊長をしているの」
「かまわない。トゥ兄ぃが負けるはずないから」
ほう、すごくお兄さんの事、尊敬しているんだなとマイは思う。
「そうなんだ。でもウチのダイチも負けていないわよ」
「それにこの勝負が終われば、皆仲間よ。仲良くしなきゃもったいないわ」
「でね、もし良かったらあなたの事「スーちゃん」って呼んで良い?」
「「ちゃん」? って何」
「日本語で可愛い子につける呼び名なの。いい? だってスーちゃん、小さくてとってもかわいいんですもの」
「考えておく」
顔を赤くしつつも、少し戸惑った様子のスェーミだった。
「うん、また後で良いよ。私の事はマイでいいからね」
この兄弟、何か事情がありそうだなと思ったマイだが、それはこの勝負の後に調べれば良い。
どうもトゥリーは、トムクラスのやり手っぽいと思うマイであった。
トゥリー機は、トムの見立て通りの高機動型。
XS型に強化型スラスター装備でLSPバトルライフル、ナイフ装備の正統型。
配色は白に濃い紫のライン、部隊紋章は、「三月うさぎ」。
スェーミ機は、情報ドローン運用特化型、マイのと同じ攻撃にも使用できるドローンを武器補助腕を廃して更に増量し全20基、その上に通常の情報ドローンも4基装備している。
配色ラインは、濃い銀色。
なお、コクピット内にウサギの縫いぐるみを持ち込んでいるのは言うまでも無い。
「では、お互いに背中合わせで離れてください。1km程離れたところで、カウントダウン開始します。撃墜判定がAIから出れば勝負あり。基本的にはなんでもアリ。以上です」
マイが前回同様、艦近くから説明をする。
「ああ、それでかまわない。1対1だから手出しはするなよ」
トゥリーはマイを機体ごしに睨む。
「はい、手は出しません。その代わり、中継用のドローンは放出させてもらいますね。そちらのスーちゃんも同じでかまいませんので」
「なんだ、その「スーちゃん」って言うのは?」
トゥリーは困惑する。
「詳しい事は、後でスーちゃんに聞いてください。スーちゃん、カウントダウンお願いできる?」
「うん、良いよ、マイ」
「おい、なんだ、そのスーちゃんってのは。スェーミ、説明しろよ」
「トゥ兄ぃ、それは勝負して終わってから。まずは勝ってよ」
「うむ」兄を一言で黙らせる妹。
マイは、どうやらトゥリーは、シスコンだなと思った。
「じゃあ、いくよ。トゥリー(3)、ドゥヴァ(2)、アジン(1)、ノーリ(0)!」
マイは、スェーミのカウントダウンで、ある事に気がついた。
しかし、それは勝負の後だ。急いでドローンを放出する。
ダイチは、あらかじめマイから、トゥリーはおそらくトムと同クラス以上の腕前、女のカンだとバーストも使いそうな感じがする、と聞いていた。
それにトムの見立てどおりなら、高機動仕様だから、それは十分あり得る。
ならば、と3手目からバーストするつもりでいた。
0のカウントで、スラスター全開、トム戦と同じように動くダイチだが、トゥリーはトムよりも小さな旋回半径でダイチに襲い掛かる。
「こりゃ、二手目でやらなきゃ、危ないよ」
なんとかトゥリーの初手攻撃をかわすダイチ。
攻撃をする隙すら無くて、たぶん今までのバーストによる「ダルマ苛め」をやっていなかったら、危なかった。
「じゃあ、いいんちょ、早速だけどやるよ。システムコマンド:ゲートバースト!!」
ダイチの機体は輝き跳ねる。
それを見たトゥリーも叫ぶ。
「システムコマンド:ゲートバースト!」
これがバースト機体同士の初の戦闘(模擬ではあるが)であった。
二人の機体は、光輝くフィールドに包まれ、フィールド同士で体当たりしあう様相を呈していた。
「おいおい、これはどういう事なんだ?」
中継を見ていたトム他第一・第二小隊の面子。
しかし、それは第三小隊の双子も一緒。
「なんでアイツ、トゥ兄ぃと同じ技使えるんだ?」
「どうやら、ロシアでも日本と同じ事を考えていたようですね」
大体仕掛けが読めてきた艦長、画面を食い入るように見る。
バースト機体同士では、フィールドが邪魔をしてお互いに決定打を与えられない。
その上、情報が得にくくなるので、支援機がいないと濃霧の中を激走する自動車と同じ。
更にパイロットへの精神負荷と廃熱問題で時間制限がある。
このままでは埒が明かないと思ったダイチ、勝負に出る。
「いいんちょ、前説明したヤツやるから、近くのドローン逃がして」
「アレやるの? 一発技で初見殺しだからミスしないでよね」
「うん」
マイは早速ドローンを移動させる。
それを「見た」スェーミは何かと思うのだが、予想がつかない上に、あまりにすばやいダイチ機を見逃さないようにするので、手一杯だ。
「いくよー。システムコマンド:フィールド・スプラッシュ!」
ダイチがあらかじめプログラムを自作していたコマンドを言うと、ダイチ機の周囲のフィールドが弾け、散弾のように周囲へ散乱する。
それを受けたスェーミ機のドローンの大半は機能を停止する。
またそれはトゥリー機をも襲う。
ガガガ!
「なんだ、この衝撃は」
そして「目」が失われた事で、モニターがブラックアウト。
「どうなっている、これは?」
混乱し、足が止まって定速度になったロシア機に対して、気配から位置が分かるダイチ機は、以前よりは薄いも再びフィールドをまとい接近、高周波ソードで急所数箇所を軽くタッチ。
AIはトゥリー機の撃墜判定を出した。
「勝負アリね」
艦長は、一応思惑どおりに終わったので一安心していた。
「ふー、よくやったダイチ。後で、ご褒美のお菓子増量してやらないと」
飴の使い方が間違っている気がするトム。
実際、自分が勝負していたら、たぶん負けていたので、ダイチを当てにして良かったと安堵中なのが本音。
「うーん、やっぱり「カワイイ ハ セイギ」。早く格納庫行って皆ハグしなきゃ」
もはや暴走を止める気が無い、ジェーン。
あきれて何も言わないが、シンゴにはサムアップしているジョー。
もう、この部隊本当に大丈夫かよ、って思うもしょうがなくフォローしなきゃと思う苦労人のナム。
第一小隊の愚行を見て、あんな大人にはなりたくないなと、思わずロシアの双子と見合うシンゴだった。
「おまえらのにーちゃん、凄いな。ウチのダイチとあんだけやりあえるの、中尉以外には見たことは無いよ」
一応、トムの顔は立てたシンゴ。
しかし双子は酷く落ち込んで、
「トゥ兄ぃが負けるの、始めてみた」
と、しょぼんとしていた。
それを見てシンゴは急いで双子を慰める。
「いやいや、今回の勝負はウチのダイチが、初見殺しの秘策をいきなりやったからしょうがないって。オレ達もアレ見るの初めてで、たぶんオレ達ならもっと早くやられてたよ」
「それでもトゥ兄ぃは、最強のはずだよ。だってそうじゃないと、オレ達国に戻されて、またラボ送りになっちゃうよ」
双子はおびえ泣きそうになっている。
「そりゃ、聞き捨てならないな。話してみろよ、ここにいる間は艦長が皆を守ってくれる」
「それに今回のは、あくまで模擬戦、訓練の一環。お前たちの国は訓練でたまたま一回負けたくらいで、お前らを見捨てるのかい?」
シンゴは、親身になって話す。
「ええ、そうですよ。米谷曹長の言うとおり、この艦に居る限り、皆は私の子供と同じ。安心してね」
艦長は優しく話す。
「うん、ありがとう」双子は涙を拭う。
「詳しい話は、お兄さんが帰ってきてからね」艦長は、格納庫へ連絡する。
「ということで、マーリー准尉。ハグはお預けね」艦長はジェーンに釘を刺す。
「はい、流石に私も空気読みますから」
ロシアの兄弟にかなりの事情があることを理解したジェーンであった。




