第十八話 「あめりかん」な、なかま
軌道ステーション「ディスカバリ」に上がった4人を待っていたのは、新造の強襲揚陸航宙艦 LIA-2(Landing Infantry Assault)第二世代型エセックス級2番艦シャングリラ(Shangri La)であった。
強襲揚陸航宙艦とは、海で使われる強襲揚陸艦、つまり海上から航空支援を行いながら地上に揚陸艇やヘリなどで部隊を展開する艦の宇宙版。敵惑星や宇宙要塞等に機動兵器や機械化歩兵で乗りつけていく艦なのだ。比較的新しい艦種で、海版では軽空母に揚陸艇用のドックをつけたものから進化している。
強襲揚陸航宙艦の場合は、そのまま惑星大気圏への突入も考慮した設計となっており、宇宙船では珍しく「上下」がある。
下部は大気圏突入時のプラズマ対策で、ぶ厚い耐熱装甲をしており、これは敵宇宙要塞や大型艦へのラム戦法にも用いることが出来る。
艦上部にはCIWSとRAMに搭載機用のカタパルトを4基所有している。全長600mと空母よりはやや小型だが、その分機動性、加速性は高い。
LIA型は人型機動歩兵運用に特化しており、SHIシリーズを1航宙隊(中隊)(12機)及び惑星上陸用舟艇 4機 (SHIシリーズ2機搭載可能)、小型歩兵用惑星上陸舟艇 12機(各24人乗り 重機械化歩兵)を運用可能としている。
なお、この艦のネーミングはアメリカ海軍エセックス級空母(Shangri La CVG-85)より頂いている。
別の用事がある大杉大佐と別れ、新しい艦内タラップを通ると待ち受けていたのは、見知った顔の白人女性。
「ようこそいらっしゃい、我が艦へ。How was everyone doing?(お元気だったかしら、皆さん。)」
それは、以前宇宙の修学旅行でお世話になった練習艦の艦長、Katherine Howard大佐だった。
「ご無沙汰致しております。ハワード大佐はこの艦の艦長になられたのですか?」マイは翻訳機を使わず、英会話で受け答える。
「ええ、あの戦闘の後、セーブル2はドック入りになってしまって、しばらくは地球で待機と思っていたのですが、神楽坂少将より新造艦の艦長をしてくれないかという打診があって、お受けした次第なんです」
「うみゅぅ、パパまたやったのね」
マイは日本語の小声でつぶやく。
「どうかしましたか? 神楽坂少尉」
「いえ、父がご迷惑をおかけした様ですいません」
「いえいえ、こちらこそ、ご縁のある貴方方の乗る艦、それも新造艦のお世話を出来るのは光栄ですわ」
「ありがとうございます。では、神楽坂小隊4名お世話になります」
「「「Please give us,Mam.(よろしくお願いいたします、艦長。)」」」3人は練習をしていた英語で挨拶をした。
「Nice to meet you too,Boys and Girl.(こちらこそ、よろしくね、坊や、お嬢さん)」
「では、艦内に案内しますね、紹介したい人たちもいますから」
「艦長自らご案内して頂けるのですか? お忙しいところ申し訳ありません」
「実は、まだ一部儀装が終わっていない上に、沢山の物資搬入中で、デスクワークしか仕事が無いの。良い気分転換だわ」
「ありがとうございます」
艦長とマイの英会話に、なかなかついていく事が出来ない3人。
これが校長先生が言っていた勉強しなくちゃならない事なんだなと思い知らされたのである。
艦長が連れてきてくれたのは、艦載機パイロット用のブリーフィングルーム。
そこには3人の青年男性(イギリス系・南アジア・アフリカンアメリカン)と褐色ヒスパニック系のお姉さんがいた。
「彼らが、貴方方が加入する航宙隊の第一小隊、アメリカ合衆国チームの人達。そして彼が第一小隊長兼航宙隊長の……」と艦長が話している間に、その航宙隊長、白人男性で20代半ば、濃い金髪に碧眼の彼が怒り出した。
「Dammit!(ちくしょぉ!)おい、これはどうなっているんだ! 妙にカスタマイズされた機体が搬入されていたから、凄いエリートが来るのかと思ったら、ガキの集団かよ。一体、日本は何考えてるんだ!」
「ガードナー中尉、落ち着きなさい。それと、子供達の前で汚い言葉は慎みなさい」
「申し訳ありません、Mam(艦長)。後、すまなかったな、坊や達に嬢ちゃん。お前らが悪いわけじゃないんだ。こんな所に子供を送りつける日本が酷いことに、腹が立っているだけだから」
ダイチ達にすまなそうに中尉は謝る。
「いえ、お気になさらずに。私達が子供である事には変わりませんから。しかし、あまり日本を甘く見ないで頂きたいものです。これでも私達は「トロヤの血」事件の際に敵機撃墜をしていますし、そこのダイチ、いや秋山特務曹長は、その際に合同撃墜を含めると4機撃墜していますから」
マイはダイチを自慢げに紹介する。
「それはホントかい?」怪しむ中尉。
「それは本当です、中尉。後でその時の戦闘ログを開示しますね」艦長がフォローする。
「艦長の事を信用しないわけじゃありませんが、オレの目でその実力を見てみたい。さっそくですいませんが、艦長2機、模擬戦闘訓練で発進させていただけませんでしょうか?」
「もう1機、自分の機体も追加でお願いします」マイが艦長に更にお願いする。
「なら、ウチもワタシが出ていいですよね」肉感的な褐色お姉さん准尉が言う。
「ええ、いいでしょう。私もこの子達の動きを直接見てみたいし、中尉たちも納得できるでしょう。今から甲板に話を通しておくわ。発進しない子達は、ここに居たら良いわ。戦闘中の映像・音声をこちらにまわしてもらうから一緒に見ましょう」
艦長の粋な提案である。
「じゃあ、お手並み拝見と行こうか」ノリノリの中尉である。
「准尉とワタシは、手出し無しで宜しいですね」マイが先手を打つ。
「いいわよ。可愛い子の活躍を目の前で見れるのは、楽しいもの」うれしそうな准尉である。その准尉の豊満な肉体と自らの成長途上の肉体を見比べたマイ。「絶対、負けないんだから」と小声の日本語で話した。
「ダイチ、ごめんなさい。話の内容分かった?」巻き込んでしまったことを誤るマイ。
「うん、翻訳機で十分分かったよ」「本当にごめんなさい、無理にダイチを巻き込んじゃって」
「いいよ、いいんちょ。ああいう話になったら、実力見せるしかないもの」
「おい、いきなりの宇宙で大丈夫か」心配するシンゴ。
「うむ、あの中尉、かなりのやり手だぞ。あの歳でもう中尉なんだから」冷静に中尉を観察していたカズアキ。
「うん、たぶん大丈夫だよ。それにあの中尉、良い人っぽいし」
「坊や、いや秋山曹長だったな。準備はいいかな?」
「はい、大丈夫です」
二人の機体は艦から大きく離れ、正面を向き合って、お互い約1km程離れている。
マイ達女性陣はそこより更に艦よりのところに待機している。
「これで後ろを向いて、スタートの合図で戦闘開始。どちらかがAI判定で撃墜されたら勝負あり。武器は装備されているものは全部使用可能。一応模擬弾だから大丈夫だ。これで良いな、お嬢さん」
「そういえば名乗っていませんでしたね。ワタシは神楽坂マイ、特務少尉です。第二小隊になるのでしょうか、その小隊長をやっています。ウチのダイチの凄さを十分味わってください」
マイは中尉を煽る。
「Oh! 貴方、すごくあのBoyの事を信用しているのね。どんなに凄いのか、お姉さんも見たいわ」准尉も煽る。
「おい、ジェーン。お前は、どっちの味方なんだ?」
「可愛い方に決まっているでしょ。日本の諺だったかな?「カワイイ ハ セイギ」!」
「うふ」「部隊漫才」に思わず笑ってしまうマイ。
「お嬢ちゃんも可愛いわよ」
「ありがとうございます、准尉。私のことはマイとお呼び下さい」
「あら、ワタシも名乗っていなかったわね。Romeo13 、Janet Marleyよ。ジェーンお姉さまって呼んでよね」
「おい、本当にオレを無視するなよ!」
「はいはい、そのあたりにしておかないと、中尉の威厳が無くなるわよ、Romeo11トム」
「ああ、冗談はこのくらいにしておくか。おい、秋山曹長落ち着いたか?」
「はい、ありがとうございます、中尉。おかげで緊張が解けました。ボクの事はダイチと呼んで下さい」
実際、久しぶりかつ慣れない機体での宇宙に緊張していたダイチだが、あの「漫才」で十分楽になった。怒っていたのも、自分達の事を思ってくれてでだし、ああやってワザと和ましてくれた中尉の事をダイチは好きになっていた。
「では、よろしくお願いします」
「それじゃ行くぞ。ジェーン、カウントダウン頼む」
なお、Romeo11、Thomas Gardner中尉、トム機は、SHI-03XS型、マイと同型の先行量産型指揮官機でLSPダブルアサルトとナイフ装備の正統型。機体色は薄めのシルバーに濃いゴールドのライン。部隊マークは、某「遊び男子」のバニー・ヘッド。
ジェーン機はSHI-03A型(正式量産型)、今は手ぶらだがLSPカービンを二つ装備する接近戦仕様。ラインは情熱のロッソレッド。
「あのお二人はいつもあんな感じなのですか?」
ブリーフィングルームで会話を聞いていたシンゴが、第一小隊の二人に聞く。
なお、翻訳機経由の英会話であるが、記載は日本語でお送りする。
「そうだね、いつもあんな感じだよ。でもね、あの二人は強いよ。もうエースのダブルスコアーだし」とアジア系の准尉が答えた。
「そうなんですか。皆さんお付き合いは長いのですか?」シンゴは再び聞く。
「僕らの小隊が結成されてからはまだ半年くらいだけど、あそこの二人は腐れ縁というかお隣同士の幼馴染で、確か今22歳のジェーンが3つ年上のトムにくっついてきちゃったそうだよ。そういえば、自己紹介が途中だったね。僕は、Romeo14チャン・ヴァン・ナム。見ての通りベトナム系の准尉。日本人の君たちだと、漢字表記の方が分かりやすいかな? こう書くんだ」とナム准尉は端末に漢字を書く。
「陳文男ってね。名前の順番は日本と同じで、姓、間名、名になるね。階級では一番下だけど、年齢は僕が一番上の28だね。ポジションは後方情報支援かな」
「で、そこの少尉が」
大柄なアフリカンアメリカン(アフリカ系アメリカ人)の少尉が続く。
「Romeo12、Joseph Armstrong。マークスマン(選抜射手)、少尉、24歳だ」
選抜射手とは、通常の兵と狙撃兵の中間の存在だ。
「彼は、言葉少なめで怖そうに見えるけど、面倒見の良い人だよ」
ナムがフォローすると、ジョーはニカっと笑って白い歯を見せた。
「では、今度はオレ達の番ですね。向こうの二人は、画面越しだけど終わったので、オレから。米谷シンゴ。特務曹長。ポジションは突撃兵って感じかな。で、」
続いてカズアキが「村上カズアキ。同じく特務曹長。ポジションはスナイパーです」
シンゴは続けて話す。「オレ達は全員元小学5年生で、全員3月末までに11歳になります」
「日本人は若く見られがちだからまさかとは思っていたけど、本当に皆小学生とは、驚きだね」ナムは驚く。
「それはオレ達も思っているところです。まさか小学校中退で戦争に行くとはって」シンゴは内心を話す。
「そちらの皆は付き合いが長いの?」ナムは聞く。
「オレ達は日本に幼年学校が出来てからなので、2年弱の付き合いですね」
シンゴは昔を振り返りながら話す。
「皆ずいぶん仲良さそうだし、信頼しているんだね」
「皆、ダイチには助けてもらったしね」シンゴは説明する。
「それは一体どういう事なんだい?」ナムは不思議がる。
「これからダイチの動きを見ていたら分かりますよ」シンゴは、にやっと笑う。
「それは楽しみだね」ナムだけでなく、ジョーも頷く。
「そろそろ試合が始まりますよ」艦長が皆に画面を見るよう促す。
なお、Romeo12ジョー、Romeo14ナムの機体は双方ともSHI-03A型。装備としてジョー機は、LSPマークスマンライフル(長めの砲身を持つ狙撃も出来るライフル)でラインは青。
ナム機は、情報ドローン4機とLSPバトルライフル装備、ラインは濃い緑だ。
ジェーンがコールを始める。
「Three,Two,One,GO!!」勝負の始まりだ。




