第十七話 ふたたび、うちゅうへ
9月も終わりかけの頃、開発局日本支部で最終調整中の4人、特殊装備の運用は前例が無いため苦戦中だが、とりあえずの形にはなりつつあった。
シンゴは設定をいじくりながら、「そういやー、オレの機体だけ、空飛べないんじゃないか?」
「うん、そうだね。でもホバー移動は出来るようにしているし、滑空ジャンプくらいは出来るから大丈夫だよ。火力満載にしちゃって大分重くなったからしょうがないよ」
ダイチは機動モーションの見直し中、ある程度出来たけど、0G環境で実際に運用しないと分からない事も多い。
「ダイチがもっともっとって言うから、つい盛り込みすぎたんじゃないか」シンゴは火力運用方法の調整中。
「フルバーストとか、やりたかったんじゃないの?」実はダイチの夢だったり。
「そりゃ決まれば気持ち良いけど、足を止めたらいい的だぞ。アニメじゃないんだから、そのあたり考えないと」ロマンと現実を切り分けられるシンゴ。
「ロマンはロマン、一撃の重さを求めるのは悪くないぞ」そういうカズアキの機体も飛行能力は低めで、ドッカン型。まあシンゴ機と違って後方の隠れたところからの一刺しではあるけど。
「どーして男子って、こういうところが「おこちゃま」なんでしょうねぇ」
あきれ気味にドローン制御プログラムを書いているマイ。
「そりゃ、男には、いつまでたっても「ダンシィ」の部分があって、ロマンを求めちゃうんだよ」開発部の20代男性研究員、犬崎は皆のフォローをしながら話す。
「犬崎さん、大人のあなた方がそうだから、私たちの機体がロマン風になったのじゃないですか?」ジト目で見るマイ。
「マイちゃん、いえ神楽坂特務少尉殿、そのような事はありませんよ」誤魔化すように話す犬崎研究員。
「そうなのかしら、どーもここの大人の人って妙に子供っぽいというか、ロマンチックというか」男性心理をまだ理解できないマイ。
「まあまあ、皆をいじめるのはそのくらいにしてくれないかね、特務少尉殿」
その場に入ってきた支部長。
「支部長、態々私たちの様子を見に来ていただき、ありがとうございます」マイは礼儀正しく挨拶をする。
「作業を止めなくていいよ。堅苦しい挨拶もここに居る間はいいんだからね。で、どこまで調整は進んでいるんだい?」
「後は、実際に0G環境でのテストを行うところまで、ほぼ仕上がっています」マイは答える。
「そうか、そうなると、君たちがここを去るのも、もうすぐなんだ。君たちがいてくれたおかげで、かなりSHI-03正式型の仕様がまとまったよ。あと君たちがいると、ここは賑やかで華やいでいたのに、居なくなると寂しくなるよ」支部長は、しんみりと話す。
「そう言って下さるのは嬉しい事ですが、私たちは、ここに遊びに来たわけではありません。もちろん、もう少し、ここで「子供」で居られたらと思わないでもありませんが、私達は一応これでも軍人です。次の戦場へ赴かなければなりませんので」同じく、しんみりのマイであった。
「せめて、ここに居る間は「子供」で居てください。数日くらいはスケジュールに余裕があるのでしょ。せっかく南国の海なのだから、少し遅めだけれども海水浴なんてどうだい? 水着なら準備してあげるよ」乗り気の支部長。
「お気を使っていただき、どうもありがとうございます。私はともかく男子達は喜びますね」と、ややジト目で男子共を見るマイ。
「言っておきますけど、水着着たときにいやらしい目でワタシを見ないでよね。ただでさえ、最近パイロットスーツ着たときに妙な視線感じるんだから」
パイロットスーツは、俗に言うスキンタイト型なので、体型がもろに分かる。
「前から言ってるけど、そういう事は胸とお尻がもう少し大きくなってから言うんだな」いじるシンゴ。
「まだボクには、そういう感覚分からないんだけど」本当に「おこちゃま」なダイチ。
「マイみたいな体型がお好みな趣味の人はいるらしいが、自分は違うぞ」案外大人だけど、ダメ押ししちゃうカズアキ。
「あー、また馬鹿にしたぁ! いいもん、もぉっと一杯食べてグラマーになってやるんだからぁ!!」顔を赤くして怒るマイ。
マイママを見るに、おそらく将来はスレンダー体型になって、グラマーとは言えないだろうなと思ったダイチだが、決してこの事は顔にも出さなかった。
「こういう賑やかさが良いんだよね」こういうところが子供っぽい支部長であった。
そして翌日、4人は海上プラント上に実験用に準備された人工砂浜で遅めの海水浴をした。マイの水着は、ピンクのセパレート、男子達は個人カラーをあしらったサーフパンツである。
4人は久しぶりに「子供」に戻って遅めの「夏休み」を十分楽しんだ。
たぶんこれが「子供」で居られる最後だと思って。
数日後、機体をおおむね仕上げた4人は、開発部を離れて一度日本本土へと帰った。家族の下にもう一度帰るのだが、その前に東京にある国連直営の病院を訪れた。
それは、「鬼軍曹」大谷マサヒロ先生のところに見舞いに行くためだ。
大谷先生は、先の戦闘で数箇所の内臓破裂、各部骨折など等で重体となっていたが、最近ようやく通常病棟へと移っていた。
「先生、お久しぶりです。お身体の具合如何ですか?」鬼軍曹先生の病室(個室)に4人は揃って入った。
「おう、ウチの問題児小隊じゃないか、お前ら元気だったのか?」
「はい、ワタシ達はあの戦闘後に、軍籍を頂いて最近まで開発局へ出向していました」マイは答える。
「おい、それ秘匿情報じゃないのか? いくら元先生だからって話していいかどうか考えないと」鬼軍曹は自分より生徒の心配をする。
「大丈夫です。この辺りまでは辞令で発令されている内容ですから。開発局で何をやっていたかを言うと、機密漏洩になるかも知れませんが」マイは笑って答える。
「それなら良いがな。一応話は上に聞いたがオレがやられた後、お前たちが敵を撃退したんだってな。大変だったよな」
「先生、それこそ機密漏洩ですよ。私たち小学生が敵機撃墜なんてバレたらややこしい話になりますから」苦笑してマイは言う。
「おお、そうだな、すまん」鬼軍曹は笑って謝る。
マイはにっこり笑い返して言う。「いいんですけどね、ここで教師と教え子が話す分には」
「で、軍籍をもらったとのことだが、これから大変になってしまったな、お前たち」
「はい、ボク達のような小学生を徴兵しなくてはならないのですから、上も苦慮しているのでしょうけど。でも、とうとう小学校中退になってしまいました」ダイチは自虐気味に話す。
「オレ達大人が不甲斐なくて、すまない。あの時オレが軽率に動かなければ、撃墜されることも無く、もっと被害を減らせただろうに」
「いえ、それはしょうがないと思います。あの時点では攻撃か事故か不明でしたし、負傷者の回収に急ぐのは人として当たり前です。実際、ワタシも正気をなくして、ダイチに励まされるまでは、ちゃんとした対応できていませんでしたから」マイは先生を慰める。
「センセイは強かったですよ。おかげで鍛えてもらえたから、オレは十分戦えて生き残れましたから」シンゴも先生を称える。
「自分も先生の教えを守って、きちんと戦えました」カズアキも同じ思いだ。
「ですから、先生はまず、ご自分のお身体を治す事を一番にして下さい。二番目は奥様とお子さんかな、ワタシが言うのも恥ずかしいのですが、守りたい人を守れるように一緒に強くなりましょう」マイは先生を励ます。
「ああ、そうだな。しかし、すっかり強く大人になったな、お前ら。そういえば、軍籍をもらったのなら階級は何なんだ。まさかオレよりも上じゃないだろうな? だったら、もうお前らなんて言えないんだが」
「ワタシは特務少尉を、3人は特務曹長を頂いております」マイは答える。
「良かった、まだオレの方が上だった」安堵する先生。
「先生の階級は何なのですか?」ダイチは聞く。
「オレは、中尉だ。幼年学校付けということで、あまり階級的なことはなかったがな」
鬼軍曹の異名どおりの軍曹で無かった事にびっくりするも、考えればそんなはずがない事を理解したダイチ。
なぜならちゃんと教員免許を取得していたのなら、教育関係の4年制大学卒業のはず、ならば士官として採用されているのが普通だろうから。
「そうでしたか、今までご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした、大谷中尉殿」半分冗談で敬礼で返すマイ。
「おいおい、ここで階級がどーのとかやめてくれよ。それに次にお前たちに会うときには、特務付でも追い越されそうな気がするんだがな」冗談で返す先生。
「出来ればそうなるよう努力いたします。もちろん絶対二階級特進なぞせずに生きて追い抜いて見せます」笑って返すマイ。
「おう、期待して待ってるぞ。わざわざオレに会いに来たという事は、次は宇宙にでも上がるんだな」「はい、そう聞いております」
「そうか、絶対死ぬんじゃないぞ」「「「「はい」」」」揃って答える4人であった。
病室を出て、シンゴ「そういえば、他の重症のやつらってどうしているんだ?」
マイは表情を少し曇らせて答える。「大体の子達は退院したようだけど、精神を壊した子はまだ入院中らしいの。で、退院した子達も皆親元に帰って、今5年生クラスは誰もいないようね」
「そうか、オレ達も学校からいなくなったからな」
「ボクの聞いた情報だと、幼年学校自体のシステムを再編成して、急いで兵士育成をしない方向になるんだって」
「つまり、オレ達みたいに、一気に軍人さんってのはやめたんだ」
「うん、小学生を実戦に送ればどうなっちゃうのか、って実例できちゃったからね」
「となると、オレ達が最初で最後の小学生軍人となるんだな」
「うん、そうなることを祈るよ。もうボク達以外で悲しい思いしなくて良いから」
「そうよね、ワタシ達で戦争を終わらせましょうよ」
「御意、姫の仰せのままに」
笑いあう4人だが、話す内容が悲しいのは、時代が悪いのか、世界が悪いのか。
家族の下で数日過ごした後、4人は宇宙へと上がる準備で、一度幼年学校へ戻る。
「校長先生、またしばらくお世話になります」マイは挨拶をする。
「しばらく見ない間に、少し大きくなりましたね? ここはあなた達の家でもあります。いつでもお寄りくださいね」
「ありがとうございます。こちらも組織改変などと聞いております。皆様もご無理なさらないように」
「そんな大人の会話は、ここでは良いのですよ。せめてここの中では子供に戻って良いのですから」
「お気を使わせて申し訳ありません。実のところ、ウチの男子共は軍役をもらった実感が無いのか、「おこちゃま」のままで困っていまして」マイは愚痴る。
「えー、いいんちょ、せめて4人だけの時は今までどおりにして、って言っていたのに」そういうダイチをギリっと睨むマイ。
「はい、申し訳ありません、特務少尉殿」「分かれば良いんです」
校長室を出た後。
「ダイチ、さっきのアレってワザとよね」
「うん、そうしないとなんか校長先生が可愛そうな感じだったから」
「そうよね、私達子供を戦場に送って喜ぶ先生なんて居ないわ」
こうやって早く大人になっていくのは悲しいね、って内心思うマイだった。
数日後、大杉大佐が幼年学校に4人を迎えに来て、4人は再び宇宙へと旅立った。




