第十四話 つぎのせんじょうへ
ステーションで数日過ごした後、地球圏に先の戦闘で負傷した子供たちが乗る病院船が帰還する前日、ダイチ達は地球へ降りた。
マスコミが騒ぎ出す前にこっそりとの帰還である。
帰還後、幼年学校へ戻ったダイチ達であったが、クラスが全滅状態、教師もいないため、授業も行えない。やむを得ず、問題集を使っての学習を行っている。
まだ4人とも精神的に大丈夫とも言えないので、今も4人は同じ部屋での寝泊りを行っていた。
「もうそろそろ次の動きがあると思うんだけど、どうなると思う? いいんちょ。」すでに問題集を片付けたダイチは、マイに聞く。
もちろん問題集を解き終えて、今はベットメイキング中のマイは、几帳面さが邪魔してうまくシーツを整えられなくて、少しいらいら状態。
「もうちょっとタイミング見て、ワタシに話しかけてよ。今、忙しいんだから。」
「ごめんね、あんまりに何も起きないから、つい心配になって。」ダイチは謝る。
「そりゃワタシも気になっていることがあるし、このままでずっとでも無いのは分かっているわ。でもね、もうあんな事は起きて欲しくないし、平和が一番なのよ。」マイは、やっとシーツを整え終えて話す。
問題集と格闘中のシンゴ「教員免許を持っている軍人さんがあまりいないからオレ達の担任の後釜は決まらないし、学校全体も今なんか雰囲気がそわそわしているぞ。たぶん何か大きな動きがあるんだろうよ。」
参考書に目を通しているカズアキ「まさか自分達のような小学生が、いきなり前線送りになるとは思わないが、変に実績を残した以上、遊ばせてもらえない可能性もあるな。」
「それ、イヤよ。もう少し子供でいたいもん。せめて高校ぐらいには行かせて欲しいなぁ。女子高生ってやってみたいし。かっこいい男子とのラブロマンスってのは憧れるもの。」意外と少女マンガに詳しいマイ。
「目の前にいる3人はかっこよくないのかい?ダイチとなら悪い気もしないんだろ?」茶化すシンゴ。
マイは顔を真っ赤にして「なんで、そこでダイチの名前出すのよ! ふん、アンタ達みたいな「おこちゃま」と違うアダルティな男子見つけてやるんだから。」
「また、こっちにフレンドリーファイヤーするの止めてよね、シンゴ。」毎度ながら、遊ばれているダイチだ。
「へいへい、でもダイチ、男子が可愛いって言われるのも後数年だぞ、その間に点数稼ぐのはどうだい?」もっと茶化すシンゴ。
「そのあたりにしておけ、そろそろ姫やダイチが本気で怒るから。」これ以上バチ被りは嫌なカズアキ。
「まー、そうだな。何にせよ、こういうバカ話できるのはありがたい話だよ。」
また問題集との戦いに戻るシンゴ。
4人で貴重な「日常」を味わっているとき、それを終了させたのは校内放送。
「お知らせします、小学部5年の神楽坂マイさん、至急小隊全員を集合させて4人で校長室へ来てください。 もう一度お知らせします....」
「噂をしていたら早速のお呼び出し、どうやらボク達はもう子供で居られないんだね。」少しさびしそうなダイチ。
「みんな、行くわよ。もう私たちは後へは引けないの。約束したわよね、全員で戦って全員で生き残るって。さっそくの「戦い」よ。」意気込むマイ。
「じゃいくか。」案外淡々としているシンゴ。どうやら問題集から逃げられるほうが嬉しいっぽい。
「御意、では姫と3騎士、参ろうぞ。」いつもの調子のカズアキ。
4人は揃って自室を後にして、校長室へ向かった。
校長室には、頭頂がややさびしくなった壮年の校長と教頭、他にダイチ達が見たことが無い、おそらく軍人であろう男性がいた。その軍人さんは一瞬マイのほうを一瞥し、マイも見覚えがあるような反応をした。
「神楽坂小隊の皆さん、先日の戦闘では皆を守っての戦い、とても素晴らしかったです。その結果を国連軍の上層部は非常に重要視しまして、このたび皆さんを早期卒業、技術開発本部への出向及び新機体の設定・慣熟訓練後、その機体を受領して、新規設立される部隊への移動、という辞令が発令されました。まだ皆さんは卒業前の小学生、この辞令はあくまで提案であって必ず受けなくてはならないものではありません。しかし、一度辞令を授与した時から貴方がたは軍人、特務少尉相当として扱われ、その後辞令を撤回することはゆるされません。もちろんご家族にも我々が説明する必要があります。」校長は説明する。
「ですので、皆さん一度ご家族の元へ帰って頂き、こちらから職員が赴きご両親に説明します。今すぐに答えを出す必要はありません。ただ、現状では幼年学校で皆さんの教育を続けていけるか、不透明な事案が多いのも確かです。よく考えて答えを出してください。」校長、教頭とも頭を下げる。
軍人さん、まだ30代前半くらいなのに階級証を見るに大佐。ダイチ達をよく観察するようにじっと見ていた。
マイは大佐の方を一瞬見てから、校長へ問う。
「この辞令ですが4人全員が同じ答えでなくてもよろしいのですよね。」
「はい、すべて個人の自由です。」校長は答える。
「で、いつから帰宅許可が出るのですか?」続けてマイは校長へ問う。
「今日はもう遅いので、明日以降になります。」
「そこでですが、4人でもう少し話をしたいので、最初に私の家に4人で行きたいのですが、宜しいですか? 父になら話はすでに行っているでしょうし。」
再び大佐の方を見るマイ。
「一度神楽坂さんのところに行き、そこから各個人の家に行くですよね。それならかまいません。少しでも長く話して答えを皆さんで出してください。」校長は話す。
ダイチ達は、マイが何か考えがあっての案なので、それに乗っかることにした。
自室へ帰って、ダイチは気になった事をマイに聞く。
「あの軍人さん、いいんちょは知っているの?向こうは明らかに、いいんちょの事意識していたけど。」
「あの人、大杉さん、今は大佐だけど、お父様の副官なの。私が小さいときから何回もウチに来ていたし、私も遊んでもらった事があるの。」マイは少し憂いのある顔で答える。
「あと、この間お父様が会いに来たとき、何か態度が変だったの。たぶん今回の件について、あの時に知っていたんじゃないかって、今日ではっきりしたわ。絶対お父様が一枚かんでいるに違いないの。こうなったら洗いざらい吐いてもらうわ。その時ワタシだけじゃなくて皆にも話を聞いて欲しいから、無理やりだけど一度ウチに来てって話にしたの。みんなに相談も無しに決めてごめんなさい。」マイは謝る。
ダイチ「いいよ、ボクだってある程度の真相は知りたいし、いいんちょの家なんてこういう機会が無いと一生いけない気がするもん。」
「え、ダイチはいずれ「娘さんをボクに下さい」って言いに行くんじゃないのか?」茶化すシンゴ。
「「まだそのネタでひっぱるの!」」二人で思わずハモってしまったマイとダイチ。
「もう冗談はそのくらいにしておけ、たぶんこの話は自分達の一生を左右する話なんだから。」きれいに纏めるカズアキ。
明朝、学校が手配したマイクロバスで一路神楽坂亭へ向かう。
「今度は乗り物酔いしないわよね。変なフラグは立てないで欲しいし。」マイは半分茶化すつもり、半分心配でダイチに聞く。
「大丈夫、夕べはよく眠れたし、変な夢も見なかったから。」といいつつも念のためにバスの最前列に座っているダイチであった。
一時間半ほど高速道路を走って、東京郊外にある神楽坂亭に到着する。
そこは大きな洋館で、いかにもお金持ちって感じであった。
家を見上げて感心中の3人をつっついてマイは先導する。
「ぼーっとしていないで、今日の着替えくらい持ってきなさいよ。ちゃんとみんなの寝室は準備してあるから。」いつのまにか連絡済のマイ。
玄関を開けると、マイを大人にした感じ、アラサーに見える和風スレンダー美女と幼い男の子が迎えてくれた。
「お母様、ただいま。みんなとはこの間会ったわよね。マサトは、おねしょとかしてお母様困らせていなかった?」
「お姉ちゃん、おかえり。これでもボクもう小学1年だよ。おねしょなんかもうやっていないよ。」ちょっとぶーたれた感じが可愛い、マイの弟だ。
「いつも娘がお世話になっております。」マイの母は上品にお辞儀をする。
「こちらこそ、いつもマイさんにはお世話になりっぱなしです。」マイの母に対して顔を赤くして恐縮する3人の男の子たち。
「で、お父様は今日はこちらにいらっしゃるの?確か一時帰宅していると聞いたのだけど。」弟をよしよししながら、マイは母に聞く。
「ええ、書斎でマイの帰宅をいまや遅しと待っているわ。で、マイ、いつも私のことママって呼んでいるのに、今日はえらく仰々しいのね。」少し笑ってマイの母は言う。
マイは顔を真っ赤にして「もう言わないでよー!寮に入るときにもう子供じゃないんだから言い方変えるって言ったのにー!」
あまりに真剣な様子に笑ってしまう3人男子。マイの弟は姉を見てきょとんとしている。
「あー、今笑った!もー怒った。ママもみんなも、だいっきらーい!!」憤慨するマイ。
「ごめんね、あんまりおかしかったらつい、ね。でもいいじゃないの。「いいんちょ」は、ご両親に大事にされているって良く分かるし。」落ち着かせようとするダイチ。
「おお、すまない、お嬢。」「ご容赦を、姫。」他の二人も謝る。
その様子を見てマイの母は大分安堵した表情をする。
「貴方たち、マイの事を大事に思ってくれていて本当にありがとう。この間もマイを守るために文字通り命を張って戦ってくれたそうね。マイ、もうゆるしてあげなさい。こんな仲間は、なかなか出来ないわよ。特に男女間の友情なんて今くらいしか出来ないから。」
「分かったわよ、ママの顔に免じて今回は許してあげるわ。」ツンデレなマイ。
「で、ママはパパからワタシの辞令の話は聞いているの?」マイは母に聞く。
「詳しい事は軍事秘密だからって教えてはもらえなかったけど、新しい機体をもらって前線にいくって事は聞いたわ。さっきまではものすごくマイの事心配だったけど、3人のナイトがいてくださるのなら、一安心よ。」少し複雑な表情のマイママ。
「そうなの。ワタシも詳しい事情が知りたいし、ワタシだけの問題じゃないから皆にも聞いて欲しくて連れてきたの。さあ、パパを絞り上げて聞かなきゃ。」
意気込むマイ。
それを見てマイママ「あまりパパを攻めすぎないでね、お仕事の関係上言えないことも一杯抱えているんだから。」
「はいはい、でも言える範囲は全部言ってもらうからね。」3人にそのまま一緒についてきなさいと書斎に突撃するマイであった。
「お父様、マイです。お部屋に入っていいですか?」
「ああ、どうぞ。」
書斎には、マイの父である神楽坂少将が椅子に座って待っていた。
「マイ、お帰り。そして皆さん以前もお話しましたが、いつもマイを助けていただいてありがとう。少将としてだけではなく、マイの父親として感謝致します。」少将は話す。
「で、お父様、お話したいことがあるのですが、宜しいですか?」
「うん、良いが、その呼び方妙に硬いな。いつもどおりパパで良いのに。」
「話の内容が内容なので、あえて硬く言っているんです、パパ。この先、パパって呼んで欲しかったらちゃんと答えて。」
「それは良いが、なぜ皆もいる前での話なんだ?」
「それは私たちに下された辞令の事なの。あれの事についてパパは関わっているのよね。知らないとは言わせないわ。辞令交付のときに大杉大佐も来られていたし。確かパパは国連軍の安全保障会議にも参加しているって話だし、知っていること、洗いざらい話してもらうわよ。話さないって言うのな
ら、もう二度とパパって呼んであげないから。」マイは脅迫する。
うろたえる少将「いや、軍事機密もあるし、言えばマイ達を危険に晒すし。」
「はい、色々知っているって証言頂きました。じゃあ、パパなんて知らない。軍事情報ネットワークにパパの「ある事ない事」一杯流して困らせてあげる。」更に脅迫するマイ。
ますますうろたえる少将「だから言えないって言っているのに。」
その時、ノック音がする。「お部屋に入っていいですか?皆様にお菓子とお飲み物を持ってきました。」マイママである。
「ああ。いいぞ。」うろたえながらも威厳を保つべく、つくろう少将。
お盆に紅茶とお菓子を持ってきたマイママ、皆に配りながら少将へ話す。
「貴方、少しくらいは教えてあげれば良いのに。会議の後あれだけマイの事心配していたし、更に辞令の事を知ってからは夜も満足に眠れないのでしょ。それはマイも同じよ。差しさわりが無いところは話してあげれば?」
「ママ、そうは言っても少将の立場というものが...。第一どうしてママがさっきの話を知っているのか...。」へ理屈をこねる少将だが、相手が悪い。
「そんな事はどうだっていいんです!貴方、私とマイ、両方を敵に回して、この家で無事に済むとお思いですか?」急に怖くなるマイママ。このプレッシャーのかけ方は流石親子といった感じを思う3人。
いまや蚊帳の外状態だが、この親子の間に介入して無事にはすまないことを感覚で理解しているため、あえて何も手出ししないし出来もしない。傍観するのみであるダイチ達。
まだダメだと言い張る少将にマイ母は「貴方、そこまで少将の立場が惜しいのですか?貴方の地位は貴方の力だけじゃ無いのを、まさかお忘れですか?婿養子で私の父の力を借りて、今の立場があるのでしょうに。」とダメ押しをする。
もはや陥落寸前であるがダメだと言う少将にマイママ「別に少将の立場で話せとは言っていません。マイのパパとして、話せる範囲は話してあげれないのですか?」最後の一押し。
しぶしぶ「うむ、分かった。パパの立場として言える範囲の情報を話す。」陥落した少将、いやマイパパであった。
「パパ、それでいいのよ。」マイママは安心して良い笑顔で部屋を去る。
「じゃあ、皆さんマイを宜しくね。」「はい、お母様」マイの怖さがどこから遺伝したのか、十分理解した3人、いやマイパパ含めて4人であった。
「すまなかったな、皆。マイのパパとして言える範囲の情報を話すよ。」
「最初からそうしてくれたら、ここまで困らなかったのよ、パパ。」笑顔が怖いマイである。
「じゃあ、今回の辞令についての、いきさつから話すよ。」マイパパは話し出した。




