旅立ち
私たちはヴァルガ地方の外れにある山の奥に降り立った。
気候は穏やかという訳ではなく、防寒着がなければ寒いくらいだった。
「どうしてこんな山奥に…。寒…」
私はぼやいた。しかし仕方ない。今更町になんか降りられるわけもない。
もう間もなく私は指名手配されるだろう。町になんかいたら袋のネズミだ。
しかしこの寒さにぼやかざるを得なかった。
「そういえば君から直接名前を聞いてなかったね。そろそろ落ち着いたころでしょ?」
「あぁ、ごめんなさい。セリス。私の名前はセリスよ。」
「セリスか。よろしくね」
そう言うとノアは手をさしのべる。
私はその手を取り、握手をした。
その手は、本当に子どものそれだった。小さくて柔らかい。
「さて、今日はここで野宿かな」
ノアは言った。
「ここで!?こんな寒いところで野宿なんてしたら…」
「そうだなぁ…。確かに、人間からしたら寒いか…」
今更だがノアは全く寒くなさそうだ。さすがは魔物といったところか。
「分かった。ちょっとそこらへん見てくるよ。寒さはどうにもならないかもだけど、風くらいはしのげる所をね」
ノアは振り返って行こうとする。
「ちょっと待って。私も一緒に行くわ」
単純に心細かった。
さっき会ったばかりの魔物、しかも子供に何を言ってるんだという話だが。
今はとりあえず心細かった。
指名手配をされ、明日も分からない今の自分が。
「ふぅ~ん、分かったよ。一緒に行こう」
私たちはしばらく歩いて、ちょうどいい場所を見つけた。
あまり奥深くはない、小さな洞穴だ。
辺りはもう日が沈みかかっていた。
「でも、暗いわねぇ…」
明かりなんて1つもなかった。私は騎士で、魔法は使えない。
「魔法さえ使えれば…」
こういう時はいつも部隊の担当が魔法を使って解決するのだが、今は私1人だ。
なんて無力なんだろう。剣の技しか取り柄のない自分を悲観した。
「大丈夫だよ。ボクを何だと思ってるの?」
1人沈んでる私にノアは明るく声を掛ける。
するとノアは、人差し指を立てると、そこに火がともした。
それをそこらへんに落ちている棒切れにに放ち、灯とした。
「さて、枝を集めてこよう。焚き火を作ろう」
これで何とかなりそうだ。私は少し安心した。
私たちは火を囲んでしばらく暖を取っていた。
それでも私はこれからのことで頭がいっぱいだった。
「ねぇねぇセリス~…」
「ちょっと待って、今考え事してるから」
「何考えてるか知らないけどさぁ~。ボクたち、これから一緒に旅でもしない?」
「ちょっと待ってって…え?い、今なんて?」
あまりに唐突な発言に、私は耳を疑った。
「だから、旅だよ旅~」
聞き間違いではなかった。
「正気!?」
「正気だよぉ~。だってそれ以外なくない?それとも何?自首でもするの?」
確かに、ずっと考えてはみたものの、やはり死にたくはない。
「さぁ、どうするの?ボクと一緒に来る?そしたら、守ってあげるよ。ボクって結構強いんだよ?」
少しでも生きていたい。最早それしかないのか…。
「分かったわ。一緒に行きます」
わずかな可能性にかけたのか、気付けば私はそう言っていた。
こうして2人の旅が始まった。




