35.ロボット
「猟奇殺人?」
「うむ。被害者は3人。全員キミたちと同じ女子中学生だ。橋の下の河原にビニールシートにくるまれて捨てられていた。みんな裸体で下半身に無数の切り傷があった」刑事さんが言った。
「ひどい」アキちゃんが言った。
「たしかに。だが、その傷のつき方が変わっているんだ」
「変わってる?」
「監察医が言うには、手首と足首に拘束された跡が残っている。凶器はカッターの刃のようなもの。だがすべての傷がほぼ水平、深さもほぼ同じく1~2センチ、方向は左からも右からも切られている。足首の上から胸の下あたりまでランダムに複数の傷がつけられている。」
「なにそれ?」
「道具か機械を使っているということですか?」僕が言った。
「どんなものか想像もつかん。だが残酷きわまりない。これは拷問だ。心臓も肺も傷つけていないから、すぐには死なない。深さ1~2センチの傷ではすぐには致命傷にいたらない。出血多量で死ぬまで、下半身をあちこち切り続けられるんだ」
「うげえ」ユカちゃんが気味悪がった。
「何かに取り付けた刃を回転させて身体に押し付けたってことですか? 高さを変えて? それも何度も? 背中もですか?」
「前から後ろから横から、あらゆる方向からの傷が残っている」
「逆方向からも切られてるってことは刃を逆回転させたか…」
「逆さ吊りにして同じことをやったか」
「ひどすぎる」アキちゃんが言った。
「ああ、狂ってる。完全にイカレた奴の仕業だ」
「早く捕まえてよ」ユカちゃんが言った。
「手掛かりはあるんですか?」
「被害者の3人は仲良しグループだったようだ。いつもいっしょに行動していた」
「アタシたちみたい」
「だから逆に他の生徒たちはその子たちのことをよく知らない。スマホでも見つかれば履歴も調べられるんだが」
「遺留品はなしですか?」
「なにしろ素っ裸で遺棄されてたからな。」
「うう、かわいそう」
「スマホの電源は切られている。監視カメラに残された最後の映像が頼りなんだが」
「どこなんですか?」
「通学路からは少し離れているんだ。コンビニのカメラに出て行く姿が残っていた」
「じゃあそのコンビニに行ってみよう」ユカちゃんが言った。
「おいおい、またか? すでに警察が聞き込みに回ってる。情報を待とう」
「廃墟ビルの怪物の時といっしょよ。ターゲットがいなきゃ敵は現れない」ユカちゃんは堂々と言った。
僕たちはそのコンビニに行ってみた。
「どっちの方向に向かったんだっけ?」
「こっちこっち」ユカちゃんが先に行った。
「廃墟とか探すの?」
「探検しそうな場所よ。アタシたちの年代は探検好きだからね」
「そうとは限らないと思うけど」僕は反論した。
「オトメ心の好奇心を引き付ける場所ね」アキちゃんが言った。
しばらく歩いて行くとさびれた公園があった。遊具はボロボロで草が伸び放題。立入禁止の札が立ててある。
「公園ってほったらかしにしていいの?」アキちゃんが言った。
「もっと広い場所に新しい公園ができたとかかな」
「でも危ないじゃない。立入禁止の札立ててそれで済ますなんて」
「お役所なんてそんなものよ」ユカちゃんが知ったふうに言った。
「あれ? 何か光ってる」ミユキちゃんが言った。
公園の大きな木の下に赤い光が点滅している。気をつけて見ていないと見逃すような小さな光だ。
「これは見て確かめないと気が済まないってやつね」ユカちゃんが言った。
「これ絶対ワナだよ」
「だから行くんでしょ。GPSを刑事さんが追いかけてくれてるからだいじょうぶ」
「助けが間に合えばね」僕は不安そうに言った。
僕たちは赤い光の点に向かった。
「これって地面に埋め込まれてる?」
みんなで覗き込んだ。とたんに地面がなくなった。僕たちはマットの上に落とされた。頭上でぶら下がった地面が持ち上がって元のようにふさがった。なるほど。一瞬で元に戻る落とし穴。周囲を監視カメラで見張っているなら落とすタイミングも計れるだろう。目撃者はいない。だが刑事さんが徹底的に調べてくれるはずだ。2メートル四方くらいの狭い空間だ。高さは4メートルくらいある。壁からガスが噴き出した。やばい。前にもこんなことがあったな、とぼんやり思っているうちに意識を失った。
目が覚めたら僕は立っているのがやっとの狭いガラスケースの中に閉じ込められていた。すぐそばに男が立っていた。男はガラス窓越しに隣の部屋を見ている。そちらを見ると、アキちゃんとユカちゃんとミユキちゃんが、ハダカにされて両手両足を縛られ、両手首の間にフックをかけられ、天井から吊るされていた。立っているのがやっとの状態だ。位置は正三角形の各頂点に3人が配置されていて、おたがいの間隔が2メートルくらいだろうか。部屋の大きさはそこからまた2メートルほど離れた正方形の壁で囲まれている。僕は目のやり場に困った。
「こっち見たら殺すよー」向こうからアキちゃんの声がした。
「はーい」僕は素直に返事して、背を向けた。
「やあ、キミ。キミはいったい何者なんだ? すごい美人と可愛い女の子二人とどういう関係かな? 傷だらけの子は何? 3人でその子ひとりを虐待してるの? いい趣味だね。僕も好きだよ、そういうの。キミにはこれから女の子たちが死んでいくのを見せてあげる。僕といっしょにね。時間がかかるからゆっくり楽しめるよ。キミは女の子たちの死を見届けたあとで殺してあげる」男が言った。
「やめろ」と僕はたぶん言っても無駄なことを言った。男は笑った。
「ああ、言っておくけどその女の子たちとはやってないよ。眠っている子とやってもつまらないしね。それにもう飽きちゃったんだ。女の子の身体はみんな同じだよ。付いてるものはみんないっしょ。美人だのブスだのと騒いでも付いてるものはみんないっしょ。同じ生き物だから当たり前なんだけどね。でもおもしろい遊びを思いついたんだ。やってみたら気に入ってしまってね。まあこれもすぐに飽きちゃうんだろうけど」
「女子生徒3人を殺したのはおまえか」
「そうだよ。これから同じ方法で殺してあげるから、楽しんで」
僕は振り返った。みんなの生死がかかっているのに目を背けてはいられない。
「アタシのハダカ、見てもいいよー」ユカちゃんが腰をくねらせて言った。
「わたしも見られるのは慣れてるから平気です」ミユキちゃんが言った。
「だめー。見るんならわたしだけを見てー」アキちゃんが叫んだ。
こんな時にみんな何を言ってるんだ。
壁が開いて、何か出てきた。
「ルンバ?」ユカちゃんが言った。
いやルンバじゃないだろう。だが丸型のお掃除ロボットに見える。それが3段重ねになっていて、中央に1メートルほどの支柱が立っている。下から2段目と3段目のロボットにカッターの刃が取り付けられていて、回転しながら動き出した。みんなの方に向かって行く。カッターの刃はバネ式になっているようで、固いものに当たると引っ込んで刃が折れたり欠けたりしないようになっているようだ。だが皮膚に当たれば確実に切り裂かれる。ユカちゃんが両足を持ち上げてよけた。高さは30センチくらいだから、体力がある間はそれで何とかなりそうだ。助けが来るまで持ちこたえれば。
「きゃああああ」ミユキちゃんの悲鳴が聞こえた。
ミユキちゃんの足首からふくらはぎにかけて2本赤い線が入っている。切られた? そうだった。ミユキちゃんは…。
「ミユキちゃん、なんでよけないんだ!」
「ええ? でも…」
「でもじゃない。切られたい気持ちはわかるけど、僕の見ている前ではやめてくれ」
「これくらい、だいじょうぶ」
「死んでしまうぞ」
「死ぬまでがんばってみる」
「やめてくれ」
だがよく見るとお掃除ロボットはだんだん高くなっている。2段目と3段目が回転するたびに持ち上がっている。支柱を上っているのだ。ロボットとロボットの間のすき間が広がっている。回転数の違いで上がる速度を調節しているのか。最上段まで上がれば胸の下あたりまで切られることになりそうだ。おそらく最上段まで上ったら逆回転になって、下方向に下がっていく。下の段のロボットにぶつかってまた逆回転して上っていく。下の段のロボットは逆に下がって行き、下の段のロボットにぶつかって逆回転してまた上がっていく。切り傷の位置も方向もまちまちで左右どちら側からも切られていたのはそのせいだ。アキちゃんが身構えた。腕の力で両足を浮かせ、向かって来たロボットに腰をひねって、縛られている両足首のロープに刃が当たるように水平に足をもっていった。少し血も出たが縛っていたロープが切れた。ロボットはまたミユキちゃんの方に向かった。
「きゃあああっ」
ミユキちゃんのふくらはぎと太ももが同時に切られた。ロボットは壁に当たり、方向転換を続ける。
「アタシ、もうムリ」ユカちゃんが弱音を吐いた。
ロボットは再びアキちゃんに近づいて来た。アキちゃんは広がった2段目と3段目の間の支柱を蹴り飛ばした。ロボットは横倒しになってユカちゃんに突進し、ユカちゃんは両足をお尻の上まで持ち上げてかわした。ロボットは壁に激突してそのまま制御不能になっている。
「何てことをしてくれるんだ」男がわめいた。
その時大音響がして、部屋全体が大きく揺れた。誰かが爆破した? いきなりこんな派手なことをするのは警察じゃない。ユカちゃんのお父さんだ。武装した兵がなだれ込んできた。
「地下の建物は旧陸軍の秘密軍事施設がそのまま放置されたものみたいだな。あの男はそれを偶然見つけて、リフォームしたらしい。最初に思い付いたのがあの落とし穴だ。そこへかわいそうに3人の女子中学生が引っかかった。で、男はあの残酷な遊びを始めたというわけだ」刑事さんが言った。
「ずっとやり続けるつもりだったのかな」
「飽きるまではな。自分は飽きっぽい性格だとほざいていた」
「早く捕まってよかったじゃん」ユカちゃんが自慢そうに言った。
「もう少し切られたかったかも」ミユキちゃんがまたこわいことを言った。




