30.ワイヤー
「ユウコと連絡が取れなくなった」ユミさんが知らせてきた。「また『殺しておけばよかった』リストの誰かに捕まったんじゃないかな」
「過去に情けをかけて殺さなかった人?」僕が言った。
「義眼の男がそうだったよね」アキちゃんが言った。
「あの時もひどい目にあったよね」ユカちゃんが言った。
「ダーツの的にされました」ミユキちゃんが言った。
「今度は誰?」
「わからない」ユミさんが言った。
「お父さんに聞いてみる」ユカちゃんが言った。
「わたしはコレクター爺さんに聞いてみる」ユミさんが言った。
「情報集めて、会議しよう」ユカちゃんが言った。
数日後、ユカちゃんの邸宅にみんなが集まった。
「ユウコさんの拉致情報が裏の殺し屋専門サイトにあったみたい」ユカちゃんが言った。
「爺さんからも聞いた。助けたい奴はここへ来いって挑発してるみたい」ユミさんも言う。
「なるほど。仲間をあぶりだそうというわけね」マユミ先生が言った。
「どういうこと?」ユカちゃんが聞いた。
「ユウコさんをそのまま始末したとしたら、あとで仲間が復讐にくるかもしれない。だったら仲間ごと片付けたほうがいい」
「もし失敗しても、仲間を知っておけば次の作戦が立てられる」
「でも自分もそこで殺されちゃうかもしれないじゃん」ユカちゃんが言った。
「だから、そこにユウコがいるとは限らない」
「え?」
「ドラマみたいに悪人がバカ正直に本当の居場所を言うと思う? 自分が帰らなければ死んでしまうような状況にしておけば、復讐は果たせる」
「もしくはもうすでにユウコは殺されている」ユミさんが言った。
「そうでもないわよ。恨みが深ければ深いほど、簡単には殺さない」マユミ先生が言う。
「生かしておけば、いざという時に逃げる手段になる。『ここで俺を殺せばユウコも死ぬぞ』とかね」僕が言った。
作戦としてはユミさんがひとりで乗り込むことになった。僕たちは敵に見つからないように離れた場所に待機している。裏サイトには日時と場所が指定されていた。場所は倉庫のような所だったので、事前にユカちゃんのお父さんの部下がそれとなく車で巡回し、敵がカメラや爆弾や何かを仕掛けてないか探査器を使って調査した。あやしげな物はなかった。そこで倉庫にありがちなものに似せた小型カメラを用意し、ユミさんが忍び込んでいくつか設置した。下見もかねてだ。倉庫の中には木箱や廃材が積み上げられていて、身を隠す場所はいくらでもあった。指定された時間にユミさんはひとりで正面から入った。
(ユミさんの回想)
男の子が立っていた。高校生くらいに見える。ユウコが若かった時に戦ったとしたら、その時はまだ子供だったはずだ。だからユウコが情けをかけちゃったのか。甘いね、ユウコ。
「ユウコはどこ?」わたしは尋ねた。
ユウコがここにいれば、みんなが突入して来る手筈だった。だがいない。
「ひとりなのか?」男の子が言った。
「見てのとおり。あの子もわたしも友だちいなくてさ」
「ふうん。思ったより人気ないんだ」男の子は電撃銃を構えた。
男の子は走りながらワイヤーを発射した。わたしはかわしたつもりだったが、別方向からのワイヤーが飛んできて身体に刺さった。ビリビリビリ。
「ぎゃあああ」悲鳴を上げた。
わたしの大嫌いな電気ショックだ。よりによって何で? 鎧の男にさんざんやられたことを思い出した。何かの呪い? わたし、電気に何か悪いことした? 使い過ぎた? 節電しなさいってこと? わたしは気を失った。
「もうひとりいた!」アキちゃんが叫んだ。
僕たちは車両の中でカメラのモニター画面を見ていた。
「女の子じゃん」ユカちゃんが言った。
男の子がユミさんにワイヤーを発射した瞬間に、物陰から女の子が出てきて反対方向からユミさんにワイヤーを発射した。それが命中して電気が流れ、ユミさんは悲鳴を上げ、痙攣して倒れた。男の子と女の子はユミさんを引きずって、裏から車に運び込んだ。
「追うぞ」父が言った。「GPSをユミさんに仕込んである」
「どこに?」
「こないだの大人のオモチャだ」
「ヨウコちゃんのお尻に入ってた?」アキちゃんが驚いた。
「そう、あれにGPSを仕込んでお尻に入れてもらった」
「えー?」
「けっこう喜んでたぞ」
「アナルバイブね」母がよけいなことを教えてくれた。
(ユミさんの回想)
気がついたら、目の前にユウコがいた。天井と床の鎖でハダカで大の字に固定されて立っている。そして身体中にワイヤーが繋がれている。腕や足、乳房や腹、股間にも数本のワイヤーが見える。わたしも同じ格好でユウコと向き合っている。足元に排水溝があり、床はなぜか濡れている。
「ばかだねえ。助けるつもりで捕まるなんて」ユウコが言った。
だがユウコはわたしひとりでないことを知っているだろう。
男の子がわたしとユウコから少し離れたところに立っていた。
「おもしろいもの見せてあげる」わたしに向かって言った。
遠くでスタジオのミキシング装置みたいな機材の前に女の子が立っていた。二人組だったのか。やられた。
「ふたりは兄妹? それとも恋人?」わたしがユウコに聞いた。
「兄妹だよ」ユウコが答えた。
「あんたたちユウコに助けられたんでしょ? なんで感謝しないの?」わたしは男の子に言った。
「はあ? オレたちがその後どうなったか知ってるの? 二人とも親父にひどいお仕置きをされたんだよ。殺されてた方がマシだって思うくらいのね」
「だったらその親父を恨みなさいよ。悪いのは親父でしょ?」
「親父はもう殺した」
「あらそう。だったらもういいじゃない」
「オレたちはこの女を殺そうとして失敗した。だからやりなおす」
「それに何の意味があるの?」
男の子は女の子に合図を送った。女の子が何かのスイッチを押した。ビリビリビリ。
「ひゃああっ」ユウコが悲鳴をあげて、排尿した。シャアアア。
ユウコの股間から出た尿は放物線を描いて床にバシャバシャ跳ねた。
男の子は女の子にまた合図を送った。女の子が別のスイッチを押した。ビリビリビリ。
「ひえええっ」ユウコが排便した。
ユウコのお尻から出た便はボトボト床に落ちた。
「おもしろいだろ? おしっこもウンチも電気の刺激で自由に出せるんだぜ」
「どこがおもしろいの?」
男の子は女の子に合図を送った。女の子がスイッチを押した。ビリビリビリ。
「ひゃあああっ」わたしは悲鳴を上げて、放尿した。プシャアア。
電気刺激が股間に流れ、わたしの意志に関係なく勝手におしっこが出た。
「気持ちいいでしょ?」男の子が意地悪く言った。
「誰が…」
女の子がスイッチを押した。
「ひょおおおうっ」
電気刺激とともに、わたしのお尻の穴が勝手にゆるみ、便といっしょにアナルバイブが出てきて落ちた。ボトンと音がした。
「ひゃあ、これ何? お姉さん、お尻にこんなものいれてるの?」
わたしは赤くなった。女の子がホースで水を流して尿と便を洗い流す。足元の排水溝にユウコとわたしの糞尿が流れ込んでいった。
「気持ちいいんだよ。アンタもお尻に入れてごらん」わたしは男の子に言った。
女の子がスイッチを押した。ビリビリビリ。
「ぎゃひいいいい」ものすごい電撃が身体を走った。わたしの身体がのたうった。
「お兄ちゃん、だまされないで! 悪い女の誘惑だよ」
今の電気ショックでわたしはまたおしっこを垂れ流していた。ウンチも出たかもしれない。
「わたしが大人のよろこびを教えてあげるよ。天国に行かせてあげる」わたしは男の子にそう言った。その瞬間、ああこれであの女の子に確実に殺されるなと思った。
狙撃音がして、女の子の額に穴が開いた。女の子が倒れた。男の子が振り向いた。男の子の額にも穴が開いた。
「こ、殺しちゃったの?」マユミ先生の声がした。
「こ、子供でも、に、人間は、ざ、残酷で、し、醜悪だから…」マサキくんの声がした。
「うん、アンタの信条はよくわかった」
「電気ショックで排便? 便秘には有効かもね」母が言った。
「なにをのんきな」僕が言った。
「あら、便秘で悩んでる人は多いのよ。結構深刻なんだから」
「そうなんですか?」アキちゃんが言った。
「アキちゃんは便秘したことないの?」
「ないです」
「女性への憧れが消えそうだから、その話はもうやめないか?」父が言った。
「男はバカだから、きれいな女性はおしっこもウンチもしないと思ってるのよ」
「考えたくないだけだよ」
「アタシもそう思われてる?」ユカちゃんが言った。
「はいはい。あんたは容姿だけが取り柄だからね」ユウコさんが言った。
「身体はもう大丈夫なんですか?」アキちゃんが聞いた。
「うん。電気刺激でかえって筋肉がほぐれたみたい」
「お尻がユルユルになったんじゃないの?」ユカちゃんがやり返した。
「そうなのよ。あの男の子、すっかり変態になっちゃってて、わたしのお尻に何でも入れて、それを電気ショックで出させては喜んでたのよ。最初はミルクとか液体だったんだけど、そのうちオモチャとか固形物になってきちゃって」
「ひええ」
「飲み物も食べ物も強制的に与えられてたから、おしっこもウンチもいずれ出せたんだけど、ウンチはすぐにはたまらないしね」
「何がおもしろいのかわかりません」アキちゃんが言った。




