28.三角木馬
(女の子の回想)
わたしのお父さんは会社をリストラされて狂ってしまった。母はわたしをおいて出て行った。わたしはお父さんに言われて、女の子を家に連れて来なければならない。そうしないとひどい目にあわされるから。逃げ出したいけど、どうしたらいいのかわからない。警察に行っても、信じてもらえるかどうかわからない。お父さんがやって来てわたしがウソを言っていると言えば、帰されるかもしれない。そうしたらもっとひどい目にあわされる。この前親しかった子をだまして家に連れてきた。お父さんはその子を地下室に閉じ込めて、ひどいことをした。その子が死んでしまった。次の子を連れて来いと言われた。わたしは友だちが多くないし、友だちがひどい目にあうのもいやだ。
ユカちゃんはすごい美人だ。誰とでも同じように気軽に話す。偏見がない。だから人気者だ。いじめの噂も聞かない。あんな子はずっといい目をしてきたんだろうから、少しくらいひどい目にあってもいいんじゃないかしら。そんな考えが頭をよぎった。わたしも狂ってきたのかな。ユカちゃんはいつも彼氏と、ボディーガードの女の子と、もうひとり女の子を連れている。
「あのう、二人っきりで話せないかな」ユカちゃんに話しかけた。
「いいよー」
はじめて話しかけたのに、まったく警戒していない。どこまでお人好しなんだろう。
「今日わたしの家に遊びに来てくれないかな」
「いいよー。みんなで行くー」
「え? みんなで? ごめん。ユカちゃんひとりで来てほしいの」
「やだー。みんなで行くー」
「お父さんにひとりしか来ないって言っちゃったから」
「人数増えたって言えばいいじゃん」
「お父さん、そういう予定が変わるとすごく怒るの」
「だったら行かなーい」
「え? わ、わかった。お父さんに電話で聞いてみる」
わたしはあせってお父さんに電話した。お父さんはかまわないと言った。
放課後。ユカちゃんたちはわたしに付いて来た。人をだますのは少しいい気分だ。自分が優位に立った気がする。お父さんもわたしを脅していい気分なんだろうか。家に着いた。お父さんが笑顔で出迎えてくれた。応接間に通して、わたしはコーラをコップに注いだ。薬を入れた。フライドチキンとフライドポテトをお父さんが買って来てくれていた。この組み合わせでコーラを飲まない子はいない。みんなはコーラを飲んだ後、すぐに眠り込んだ。わたしはお父さんといっしょにみんなを地下室に運んだ。お父さんはユカちゃんを見て目を輝かせた。男の子はみんな美人が好きだ。大人になってもそれはいっしょなんだ。お父さんはハアハア言いながらユカちゃんの服を脱がせた。両手を縛って、天井から下がったフックに引っ掛けた。わたしは残りのみんなの手足を縛った。こんなことをして何になるんだろう。
わたしはお父さんに言われるままに、フックに付いているロープの先を引っ張った。天井の滑車が回って、ユカちゃんの身体が持ち上げられる。天井からぶら下がった形になると、お父さんが三角木馬を持ってきてユカちゃんの両足がまたがるように置いた。前の女の子といっしょだ。前の女の子は三角木馬に乗せられて泣き叫んだ。腕の力で持ちこたえようとしたけど、すぐ力尽きた。鋭く尖った木馬の背が股に食い込んで、すごく痛そうだった。きっとアソコが裂けてしまうと思った。さらにお父さんは女の子を鞭で打った。木馬の背に血が滲み出し、染み込んだ。お父さんは何度も何度も女の子を鞭で打って、アソコはどんどん裂けていって、やがて女の子は死んでしまった。今度はユカちゃんだ。
何のためにやっているのかわからない。お父さんの仕事が見つかるわけでも、お母さんが帰ってくるわけでもないのに。やがてみんなの目が覚めた。
「やだ、何これ」ユカちゃんがうろたえた。
わたしはロープをゆるめた。ユカちゃんの身体が三角木馬の上に乗った。
「きゃあああ、痛い、痛い、きいいいい」ユカちゃんが悲鳴を上げた。
その悲鳴が頭に響く。まるでガラスを爪で引っかくような気持ち悪い音が混ざっている。
「やめろ! 上げろ!」お父さんがたまらず叫んだ。
わたしはロープを引っ張った。ユカちゃんの身体が浮き上がった。ユカちゃんは泣きじゃくっている。
「なんだそのキンキン声は。たまらん。これじゃどっちが拷問されてるのかわからん。頭が痛い。ちょっと休憩して来る。戻ってくるまでちゃんと見張ってろ」
お父さんはそう言って部屋を出て行った。わたしも悲鳴が耳に残って頭痛くて気持ち悪い。
「ひどい悲鳴だな」ユカちゃんの彼氏が言った。
「わたし、マユミ先生のところで前にも聞いた」ボディーガードの女の子が言った。
「ねえ、お父さん、どうしちゃったの?」もうひとりの女の子がわたしに言った。
わたしは突然涙がこみあげてきた。こらえきれなくなって、気がついたらお父さんがリストラされてことやお母さんが出て行ったことや三角木馬で死んだ女の子のことを一気にしゃべっていた。わたしは誰かに聞いてもらいたかったんだ。
「わかった。助けてあげる」ユカちゃんが泣きながら言った。
「え?」
「アタシが助けてあげる。だから下ろして」
「そうよ。ユカちゃんのお父さんが助けてくれるわ。わたしをほどいて自由にして。そしたら助けてあげられる」ボディーガードの女の子が言った。
「でも…」
「このまま続けるの? 女の子を殺し続けるの? それでどうなるの?」
「ほんとに助けてくれる?」
「約束する」4人が同時に言った。
わたしはボディーガードの女の子の拘束を解いた。お父さんが帰ってきた。ボディーガードの女の子がお父さんを蹴り飛ばした。
「蹴り倒す前に呼んでくれよ」刑事さんが言った。
「ムチャ言わないでください」アキちゃんが答えた。
女の子のお父さんは警察に逮捕された。女の子は保護されて、お母さんのところへ行くらしい。死んだ子は庭に埋められていた。
「捜索願は出されていたよ。これからご両親に報告しなきゃならん。つらい役目だな」
「刑事さんが行くの?」
「オレには無理だ。そういうことに慣れている奴らに行かせる」
「ずるい」
「そう言うな。こういう事件の場合、ご両親の嘆きにちゃんと寄り添えて、しかも冷静に必要な事実だけを伝えられる奴でないと、よけいに傷つけてしまう」
「悲惨な殺され方だもんね。アタシもそうなるところだった」ユカちゃんが言った。
「助かったのはユカちゃんの悲鳴のおかげだよ。きっとユカちゃんの声帯には特殊な超音波を発する機能があるんだ」僕が言った。
「よくわかんない。でもお父さんに頼んで、残ったあの子に必要な援助はしてもらう」ユカちゃんは言った。
「あの悲鳴って、猿ぐつわされてても出せるのかな」ミユキちゃんがふと言った。
「ためしてみる?」ユカちゃんが言った。
「いやだ」僕たちは答えた。




