24.水車
いつものようにユカちゃんはミユキちゃんといっしょに下校した。邸宅前の公園沿いの道にさしかかった。公園の茂みの中から銃口が覗いていることにミユキちゃんが気づいた。ミユキちゃんはユカちゃんと銃口の間に入って両手をひろげた。
「ユカちゃん、逃げて!」
銃口からダーツの矢のようなものが発射され、ミユキちゃんの胸に刺さった。ミユキちゃんが倒れた。ユカちゃんは立ちすくんだ。ツヨシくんが全速力で走って来てユカちゃんを抱え上げた。ツヨシくんにも矢が当たった。それでもふらつきながら邸宅前まで走り続け、倒れた。邸宅から数名の警備員が飛び出してきた。ユカちゃんが振り向いたら、ミユキちゃんの姿は消えていた。
僕とアキちゃんは知らせを聞いてユカちゃんの邸宅に向かった。ユウコさんとユミさん、マユミ先生とマサキさん、なぜかコレクター爺さんもいた。
「ユカちゃんのお父さんは?」僕が聞いた。
「知らせてない」ユカちゃんが平然と言った。
「なんで?」
「すまん。わしの落ち度じゃ」爺さんが頭を下げた。
「どういうこと?」アキちゃんが聞いた。
「いや、この前の女体盛りがうれしくてな。つい自慢してしもうた」
「何やってくれてんのよ」ユウコさんが怒った。
「まさか写真も見せたの?」マユミ先生が聞いた。
「そりゃあ、ホラ吹いてると思われたくないからの」
「バカじゃないの?」
「トシのせいかのう」
「何でもトシのせいにするんじゃないわよ」
「それで? 誰に見せたの?」ユミさんが言った。
「一人だけじゃ。昔からの知り合いでな。組織に属さない一匹狼じゃ。奴ももうトシじゃし、だからまあ、安心して見せたんじゃが。やけに食いついてきたので、びっくりしたんじゃ。麻酔銃を使ったのなら、間違いなくアイツじゃろう」
「でもどうやってユカちゃんを見つけたの?」
「すまん。それもわしがしゃべった」爺さんが言った。
「女体盛りのことお父さんには絶対ナイショだからね」ユカちゃんが言った。
「そんなことを言ってる場合か?」
「そうだよー。ミユキちゃんがさらわれたんだよー」アキちゃんが怒った。
「ミ、ミユキちゃんを撃ったのは、ト、トランキライザーガンですね」マサキさんが言った。
「トランキ…?」
「ま、麻酔銃です。け、拳銃型でしょう。ラ、ライフル型もありますが」
「さっき、ミユキちゃんの携帯から動画が送られてきた」ユカちゃんが言った。
壁の大画面に動画が映し出された。ミユキちゃんがハダカで大きな水車に縛り付けられていた。上部の樋から水が流れ落ちてきて、水車がまわる。ミユキちゃんの身体は水車の外周に固定されているので反り返った状態だ。上部まで移動して仰向けになり、頭から水をかぶる。そのまま逆立ちの状態になって頭から水中に沈められ、水車の回転でまた頭から出てくる。また上部まで移動して頭から水をかぶる。また逆立ちの状態になって頭から水中に沈んで、また出てくる。ミユキちゃんがゴボッと水を吐いた。コメントが映し出される。ユカちゃんと交換するまで水車は回り続けると。そして水車のある場所が記され、連絡はミユキちゃんの携帯にするように指示されていた。
「早く助け出さないと、死んじゃうよー」アキちゃんが言った。
「お父さんが帰ってくる前に解決しなくちゃ」ユカちゃんが言った。
「すぐに出発するよ」ユウコさんが言った。
水車小屋は森の中にあった。僕たちは森の中に隠れて様子を見た。ミユキちゃんが縛り付けられた水車はまだ回り続けている。ユカちゃんがミユキちゃんの携帯に電話した。
「来たわよ」
「よし。ひとりで水車まで歩いて来い」
ユカちゃんが水車に向かってスタスタ歩いて行く。
「ちょっと待って。ああもう、どうしてあの子は勝手に行動しちゃうの? こっちの準備があるっていうのに」ユウコさんが言った。
「マサキはどこ?」マユミ先生が言った。
「いつも見えないところにいるんじゃないの?」アキちゃんが言った。
ユカちゃんが水車に近づいたところで敵の麻酔銃が発射された。ユカちゃんが倒れた。武装した男がやって来て、ユカちゃんを抱えて先に止めてある車両に運ぼうとする。
「狙撃するなら今よ」マユミ先生が言った。
男はユカちゃんを車両に乗せた。車両が走り出した。
「うそ? なんで?」
マサキさんが狙撃銃を持って現れた。
「このグズ! マヌケ! 何やってたのよ! 役立たず!」マユミ先生が激怒した。
「ご、ご、ごめんなさい」マサキさんがあやまった。
「相手は麻酔銃を持ってるのよ。わたしたちは接近戦しかできないからアンタにまかせたんでしょうが!」
「じ、GPS弾を、タ、タイヤに、う、撃ち込んだ」
「それよりミユキちゃんを助けなきゃ」アキちゃんが言った。
みんなで水車に駆け付けた。マサキさんが樋を撃ち抜いて水が流れるのを止めた。僕たちは水車を止めて拘束を解き、ハダカのミユキちゃんを水車から下ろした。近くにミユキちゃんの携帯が捨てられていた。ずぶ濡れのミユキちゃんは一瞬意識がもどって、
「へへ…」と不気味に笑って、また意識を失った。
「どういうこと?」ユウコさんが言った。
GPSを追跡したら、爺さんの屋敷だった。爺さんの携帯が鳴った。
「もしもし」爺さんが携帯に出た。
「女は捕まえた。わしにも女体盛りを味わわせてくれ」
「なんじゃと?」
「今おまえの屋敷にいる。頼む」
「そんなことなら最初からわしに頼めばよかったじゃろう」
「頼んだら引き受けてくれたか?」
「む、いや、それは…」
「おまえのことだ。絶対断ったじゃろう。おまえは昔からそういう奴だ。引き受けないならこの娘は殺す」
「わかった。今から戻るから待っておれ」電話を切った。
「どういう仲なの?」
「昔から何でも競い合っておった。おたがい負けず嫌いでな」
「あきれた」
「ものは相談じゃがもう一度女体盛りを…」
「冗談でしょ」
「そうじゃな。片を付けるとするか」
僕たちは爺さんの屋敷に向かった。屋敷の前に瘦せこけた老人が銃を持って立っていた。他に3人の武装した男が立っている。ユカちゃんは足元に縛られて横たわっている。まだ麻酔がきいているのか。
「なんじゃ助っ人を雇ったのか。おまえらしくもない」コレクター爺さんが言った。
「さすがにわしひとりじゃな。もうトシじゃ。言っておくがこれは麻酔銃じゃないぞ」老人は銃をユカちゃんに向けて言った。
「わかっておる。ここにおるのはその子の親友じゃ。無事を確認させてやってくれ」
「ユカちゃん、だいじょうぶー?」
アキちゃんが言いながら、ユカちゃんに駆け寄るふりをして、老人を蹴り飛ばした。同時に武装した男の一人を遠くからマサキさんが狙撃した。ユウコさんがダーツの矢を放って、残りの武装した男二人を倒した。
「すごい蹴りじゃな」爺さんが驚いて言った。「パンツまる見えじゃったぞ」
アキちゃんが真っ赤になった。
「お父さんにバレないうちに帰らなくちゃ」気がついたユカちゃんが言った。




