21.釣り堀
「技術開発部が義手と義足の開発に成功したみたいだよー」ユカちゃんが言った。
「義手?義足?」
「うん。今度ミユキちゃんの手足が切ら取られるか、引きちぎられた時のために」
「え、縁起でもないこと言わないでよー」アキちゃんが言った。
「こわい話をするな」僕が言う。
「カレでもいいんだよ。今のところ役に立ってないから、義手義足で強い男に変身してみたらー」ユカちゃんが意地悪そうに言った。
僕は少し心が動いた。だがすぐに自分の手足が切り落とされる場面を想像した。絶対むちゃくちゃ痛いに決まっている。
「いやだ」
「なんかねー、脳からの信号を正確に解析して忠実に実行するから元の手足と同じように動かせるらしいよ。逆もできるって」
「逆?」
「うん、義手の方から痛い熱い冷たいみたいな信号を脳に送れるって」
僕は義手で炎や氷に触って『痛っ、熱っつー、冷たーっ』と言っている姿を想像した。
「それ、生命維持機能だから義手にはいらないと思う。あ、でも感触が伝わらないと上手に物をつかむのはむずかしいかも」
「圧力センサーは組み込んであるって」
「なるほど」
でも誰かの手や足がなくなる姿は見たくない。あたりまえだ。
ユカちゃんの邸宅にユウコさん、ユミさん、マユミ先生が呼ばれた。刑事さんと僕たちも同席した。ユカちゃんのお父さんが説明を始めた。
「この前、釣り堀に招待された」
「釣り堀?」
「うむ。表向きは普通のしがない釣り堀店だが、地下に特別な釣り堀があってな。水は抜かれていて、底にはまな板の上に女性が仰向きに寝かされていた」
「うわあ、出た。悪趣味なやつだ」ユミさんが言った。
「そのとおり。参加費を集めて、優勝者が総取りするというシステムだ」
「ユカちゃんのお父さんは大物だから、ご機嫌取りにそういう催しに招待するやからが多いのね」ユウコさんが言った。
「おかげでそういう組織をたくさん壊滅できたがね」刑事さんが言った。
「で、何が始まるかと言うと、参加者全員に釣り竿が渡される」
「普通の釣り竿じゃないのね」
「そうだ。釣り竿の先にはカギ爪が取り付けられていた」
「カギ爪?」
「猫の爪と同じように内側に湾曲した爪だ。それが4本。それを女性の皮膚に直接引っ掛ける」
「げっ」
「釣り竿を持ち上げると釣り糸が出てきて、参加者は自分の好きなところで釣り糸を固定できる。引っ掛けた皮膚を自由に引っ張り上げられる。強く引けば皮膚が剝ぎ取られる。その皮膚の大きさを競うわけだ」
「皮膚が剥ぎ取られるたびに女性の悲鳴が上がって、それをみんなで楽しむのね」
「へどが出るわ」ユミさんが言った。
「それで次の開催日がわかれば突入して摘発できたんだが」刑事さんが言った。
「次も参加したいと申し出たら断られた」ユカちゃんお父さんが残念そうに言った。
「え? なんで? 大口の顧客になれたんじゃないの?」
「私が優勝してしまったからだ」
「え?」
「私が想定外の大きさの皮膚を剥ぎ取ってしまったから、出入禁止にされてしまった」
「ちょっと、何やってんのよ」
「それで潜入捜査が必要になった。もちろんエサにされる前に助け出すつもりだ。次の開催日さえつきとめてくれればそれでいい」
「冗談でしょ。ヘタすりゃ皮膚を剥ぎ取られるんでしょ? わたしはこのきれいな肌で勝負してるのよ。ごめんだわ」ユミさんが言った。
「わたしは別にいいかな。すでにダーツの的にされてるし」ユウコさんが言った。
「わ、わたしが行きたい」ミユキちゃんが言った。
「ダメだよー。この間串刺しにされたばかりじゃん」アキちゃんが反対した。
やはりミユキちゃんの脳は壊れているとしか思えない。だがカウンセラーの先生は大丈夫だと言っている。どこが大丈夫なんだ。
「そんな傷跡だらけの身体じゃダメだよ。私が行く」マユミ先生が言った。
「何かあったら乳首スナイパーさんが参加者全員射殺しちゃうかも」ユカちゃんが言った。
主催者はわかっている。ユカちゃんのお父さんがスパイを送り込んでマユミ先生を売り込ませた。マユミ先生は胸もお尻も大きい。それだけ剥ぎ取れる皮膚も多い。参加者の数も増やせる。主催者は簡単に引っかかった。マユミ先生のような身体は一部の男性それも特に高齢の男性に人気があるらしい。ソフィア・ローレン? 誰だそれ?
マユミ先生は潜入した。だが、連絡が取れなくなった。
(女の回想)
新しい女がやってきた。やたら胸と尻がデカい。それを強調するようないい服を着ていやがる。服はアタシがいただいちゃおう。
「おい、服を全部脱げ」アタシは女に命令した。
女は躊躇した。
「ふざけんな。ここじゃアタシの命令は絶対なんだよ」アタシは怒鳴って女の髪をつかんで揺すった。
指に何か当たった。何だこれ? 髪の中を探って取り出して見た。小さな機器だ。
「おい、これ何だと思う?」隣の男に聞いた。
「さあ。発信機ですかね」男が答えた。
「へえ。おもしろい。じゃあこの女、サツの犬?」
「おそらく」
「じゃあ任務は失敗だね。大失敗だ」
女の目に恐怖の色が浮かんだ。いい気味だ。なめたマネしやがって。思い知らせてやる。
「すぐに場所を移動するよ。その発信機を使えなくしておくれ」
アタシたちは全員トラックで別のアジトに移動した。前のアジトは閉鎖だ。くそ。女を蹴ってやりたかったが、ボスには傷をつけるなと言われている。そんなことはわかってるよ。アタシは男たちに女の服を脱がせて椅子にすわらせるように命じた。女は抵抗したが男たちは三人がかりで服を脱がせ、手首と足首を椅子に縛り付けた。どうせまな板に縛り付けられるから手首と足首には跡が残ってもかまわない。アタシは脱がされた服を物色した。
「けっ、下着もいいもの着けてやがる。全部アタシがいただきだよ」
女に近づいた。もじゃもじゃの恥毛をわしづかみにして引き抜いた。ブチブチブチッ。
「ひいいっ」女が悲鳴を上げた。
「アタシも毛深いけどアンタもそうとうだね。剃ったりしないのかい?」アタシは指の間に挟まった縮れ毛を眺めながら言った。
「自然がいちばん」女が生意気な口をきいた。
ほっぺたを張り飛ばしてやろうと思ったがこらえた。蹴りたくなる衝動も抑えた。痛めつける方法は他にもある。アタシは針のセットを取り出した。1本手に取って女の目の前にチラつかせる。
「その大きな目を潰してやろうか?」女を脅した。
女が目を見開いた。少し気が晴れた。もちろん目は潰さない。そういうのを気持ち悪がる客もいるからだ。アタシは女の人差し指をつかんで、爪裏の隙間に針を刺しこんだ。
「ぎゃああああ」女が悲鳴を上げた。
アタシは気がすんだ。ざまあみろ。針は刺したままにしておいた。アタシはボスに電話して言った。
「ボス、あの女、発信機つけてやがった。サツの犬。潜入捜査官。早くまな板にのせちゃおうよ」
ボスは緊急開催を客に通知した。数がそろえば開催決定だ。アタシは女の残りの爪に針を刺しに戻った。
「もうやめて、もうやめてえ、ぎゃああああっ」
女の爪裏に針を刺しこむたびに悲鳴が上がる。楽しい。針を深く刺せば抜けない。こうしておけば針をちょっと触っただけでも激痛が走る。時間をかけて1本また1本と女の爪裏に針を刺していく。
「ぎひいいいっ」
女はションベン漏らして、クソまで漏らした。ああ臭い。ホースで水をかけて洗い流す。ホースの水が爪の針に当たるから女はまた悲鳴を上げる。気持ちいい。もっと泣け。もっと叫べ。ひゃはははは。
ボスから連絡が入った。客が集まったから開催決定。女を椅子ごとトラックに載せて釣り堀に向かう。釣り堀に到着した。裏口から地下室に運ぶ。地下室には大きなまな板がレールの上に載せられている。
「このまな板にアンタを縛り付ける。で、レールで釣り堀に直行さ。さてどんなお楽しみが待ってるかなあ」アタシが笑って言った。
女はうなだれている。泣くのはまだ早いよ。男3人に女を椅子からまな板に移し替えろと命令した。男たちが拘束を解いて、椅子から女を立たせた。女がいきなり自分の爪から針を引き抜いて男たちの首を刺し始めた。あっという間に3人の男が倒されてしまった。何これ? 女はいつの間にかアタシの首に針を刺している。
「針の扱いはね、わたしの方が上なんだよ」女が言って、アタシの脊髄に針を刺した。
身体が動かせなくなった。女はアタシの服を引き裂いて、まな板の上にのせ、両手両足をひろげた格好で手首足首を四隅の太い釘に縛り付けた。レールのスイッチを探し当てて入れた。まな板がレールの上を走って、アタシは釣り堀の中に直行した。
まな板が止まった。歓声が上がった。ボスがアタシを見て驚いたが、首を左右に振った。客はそろっている。ここで中止にはできない。助けてはもらえない。まずいことを言えば殺される。なあに。皮膚を少々剥がされたところで死にはしない。がまんすりゃいいだけだ。
最初の釣り竿がしなって振り下ろされ、カギ爪がアタシの性器の一部を引っ掛けた。
「ひぎええっ」アタシは悲鳴を上げた。
客がどっと沸いた。
「初心者じゃな」
「誰でも最初は狙うがな」
「そこの皮膚はたいして取れやせんぞ」
次のカギ爪が乳首に引っかかった。
「ひいいっ」
次々にしなった釣り竿が振り下ろされ、アタシの身体中の皮膚がどんどん引っ掛けられていく。そのたびにアタシの身体がびくっとなって、アタシは小さな悲鳴を上げる。釣り竿がゆっくり持ち上げられて、ある程度のところで止まる。アタシの身体の上で無数の釣り糸が垂れている。釣り竿が持ち上げられると釣り糸がピンと張ってアタシの皮膚も持ち上げられる。限界まで引っ張られて、皮膚がちぎれた。
「ぎゃあああ」痛い。
アタシの皮膚はどんどん引きちぎられていく。アタシは悲鳴を上げ続ける。ちぎられた跡がヒリヒリする。
「ヒイ、ヒイイ。やめて。もうやめて」
また皮膚が剥がされた。
「ぎええええ」
乳房のあちこちに刺さった釣り糸がいっせいに引かれた。乳房があり得ない高さまで持ち上がって、やがて乳首ごと皮膚が引きちぎれた。
「うぎゃあああ」
大きな音がして、たくさんの足音がなだれ込んできた。
「動くな! 警察だ!」
ボスが裏口から逃げ出すのが見えた。ヤケになった客のひとりが大型魚用の大きな鉤のついた棒を持って堀の中に飛び降りてきた。アタシの腹に振り下ろして突き刺した。
「ぐげええええ」アタシは悲鳴を上げた。
男は狂ったように何度も何度もアタシを刺し続けて、はらわたを引きずり出した。アタシは血まみれになって息絶えた。
「すぐ連絡くれたおかげで間に合った」刑事さんが言った。
「あいつらの中にスマホを指紋認証にしてたバカがいたからね。指を借りてすぐ解除できた。やっぱりスマホはパスワード保護よ」マユミ先生が言った。
「おてがらおてがら」ユカちゃんが偉そうに言った。
「爪に針刺してあげようか?」マユミ先生がユカちゃんに言った。
「ひっ、やめて」
「あの女、見るも無残な死にざまだったな」刑事さんが言った。
「いい気味だわ」
「ボスは捕まったの?」アキちゃんが聞いた。
「スナイパーさんが裏口で待ち構えていた」
「射殺したの?」
「いや、今回は両足を撃ち抜いてくれた」
「さすが」
「マユミ先生が無事だったからな」
「そういう問題?」




