20.少女監禁
「ミユキちゃんの回復力すごくない?」アキちゃんが言った。
「うちの天才外科医がいろいろやってるみたいだからね」ユカちゃんが言った。
「どういうこと?」
「ミユキちゃんは徐々にサイボーグ化してるんだよ」
「えー?」
「骨をつなぐのに強化スチールを使ったり、金属プレートにGPSを仕込んだり」
「うそだろ。バッテリーは?」
「なんか皮膚のどっかに電極が埋め込まれてて、そこから充電できるみたい」
「すごい」
「なにしろあれだけ手術したから、もうミユキちゃんの身体のことは熟知してるみたいだよ。だから内臓の処置も素早くできるんだって」
「精神的には?」
「カウンセラーの先生によれば問題なさそうだって」
「それもすごいな」
「人工皮膚で傷跡をなくすことも考えてるみたい」
「全身人工皮膚になったらそれこそサイボーグだね」
「そこまで医療技術は進んでないと思うよ」
「でももう危険な目にあわせるのはやめようよ」
「だけど脳がそれを求めてるって話じゃなかった?」
「ああもうややこしい」
「それより刑事さんがアタシたちにお願いがあるんだって」
「え?」
「話だけでも聞いてみようよ」
いつもの刑事さんがユカちゃんの邸宅にやって来た。
「蹴りを見せてほしいって言う話ならお断りです」アキちゃんが言った。
「ちがうちがう。そりゃ見たいけど、今回はそうじゃないんだ」刑事さんが言った。
「じゃあどんなこと?」ユカちゃんが聞いた。
「ある家に行ってもらいたい」
「へ?」
「実は今、ある少女の失踪事件を扱っていてな。捜査員が聞き込み中なんだが、一軒気になる家がある」
「気になる?」
「うん。誰かを監禁するにはピッタリの家なんだ」
「監禁?」
「男の妄想の中では女性の監禁とか飼育は定番なんだが」
「そうなの?」
「楽しいのは妄想の中だけで、実際に監禁するのはたいへんなんだ。まず監禁場所が必要になる。大きな声を出されても大丈夫な場所なんてそうそうあるものじゃない。アパートとか無理だし、近所の目があるところもまずい。家族がいても困る」
「じゃあその家は」
「35歳男性。一人暮らし。死んだ親から譲り受けた家は畑の中の一軒家」
「決まりじゃん」
「だが少女が監禁されているとは限らない。事故に遭ったか別の事件に巻き込まれた可能性もある。本人の意思で失踪したかもしれない」
「そっか」
「監禁で大変なことはまだある。食事、トイレ、睡眠が必要だ。病院には連れて行けないから、病気になられても困る。大きなケガをさせても困る。いつ逃げ出そうとするかわからない。性欲処理のためだけに閉じ込めておくことに飽きてくる。面倒くさくなる。だが開放するわけにはいかない。やがて処分して、次の獲物をさがすことを考える」
「ひええ」
「少女が利口なら従順に従うフリをして隙を見て逃げ出すこともできるだろうが」
「実際にそういう事件もありましたよね」
「運がよければな。だが本当に監禁されているなら早く助け出さないと」
「家宅捜索はしたの?」
「任意では断られた」
「あやしいじゃん」
「オレもそう思う。だがそれだけで令状は取れない。ただの偏屈な奴かもしれない。単なるオレの思い過ごしかもしれない」
「アタシたちが行けば入れるの?」
「生徒たちが心配して探しに来たと思わせる。もし少女を監禁していて次の獲物も探しているとしたら」
「アタシに食いつく?」
「自信たっぷりに言うなよ。それでも断られたら忍び込んで捜索する以外にない。もちろん違法行為だ」
僕たちは畑の中の一軒家にやって来た。古そうな家だ。刑事さんは監視カメラはなかったと言った。玄関にはドアホンもない。電子機器には疎いのだろうか。玄関は引き戸になっている。鍵がかかっていたので戸を叩いた。
「すみませーん」と僕とアキちゃんとユカちゃんの3人は口々に呼びかけた。
やがて戸が少し開けられて、男が顔をのぞかせた。
「僕たち、友だちを探してるんです。この子見ていませんか?」と言って少女の写真を見せた。
男は制服姿の僕たちをじろっと眺めた。ユカちゃんを見て目を輝かせた。オスの反応はみな同じだ。アキちゃんのプライドがまた少し傷ついた。
「中へ入ってお話してもいいですか?」ユカちゃんがしおらしく言った。
男が戸を開けて中へ誘った。僕は刑事さんから預かった警報装置をポケットの中で握りしめた。何かあればボタンを押す。そうすれば刑事さんが来てくれる。玄関から続く廊下の床から左右の壁にかけてビニールシートが貼られていた。
「今リフォームの最中でな、靴のままでかまわんぞ」と男が言った。
僕たちは靴を履いたままビニールシートの上を歩き出した。いきなり床と壁のビニールシートがいっしょになって上に引っ張り上げられた。僕たちはビニールシートにくるまれて天井からぶら下がった形になった。男がスタンガンを僕に当てた。
「ぎゃっ」しまった。警報装置…。僕は気を失った。
気がついたらいつものように縛られていた。またこれだ。だが30分ごとに僕たちが連絡しなければ刑事さんが来てくれる約束だ。何分経った? 男がアキちゃんの身体に馬乗りになっているのが見えた。叫ぼうとしたが口がガムテープでふさがれている。
「ぐううっ」くぐもった声が出た。
男がこっちを見た。
「もう気がついたのか? まあいい。そこで見てろ。おまえも男なら見たいだろ? 女は二人とも眠らせてあるから心配しなくていい。ゆっくり楽しめるぞ」
刑事さんはどうした? まだ30分経ってないのか? 30分ってそんなに長いのか?
男はアキちゃんの制服の胸のボタンに手をかけた。なんでアキちゃんが先なんだ? 僕の大好きなアキちゃん。ここでレイプされるのか? やめろ。やめてくれ。いきなりアキちゃんの蹴りが炸裂して男が吹っ飛んだ。刑事さんが飛び込んできた。
「くそっ、また見逃したか!」だらしない格好でのびている男に目をやった。
「わたしの方が可愛かったから先だったんだよね」アキちゃんはそこにこだわっている。
「美味しいものは最後にとっておくタイプだったのよ」ユカちゃんが張り合う。
「もうちょっと早かったら見れたのに」刑事さんもそこにこだわるか。
「今度から連絡は10分ごとにしましょう」僕はそこにこだわった。
「いくらなんでもあやしまれるだろう。それに忘れずに連絡できるのか? 一度でも忘れたらオレがとびこんで恥をかくんだぞ」
「それで少女は発見されたんですか?」
「ああ、トイレと一体型のユニットバスに閉じ込められていた。なかなかいいアイデアだ。獲物が自分で清潔さを保ってくれるからな。風呂にフタをすればベッド替わりにもなる。バスローブでも着せておけばいい。エアコンも完備。それなら食事の世話だけですむ」
「自分の風呂やトイレは?」
「自分も使ったかも知れん。手すりに繋いだ獲物の目の前でな。風呂もいっしょに入ったかも知れん。もともと家にもバストイレはあった。ユニットバスは監禁用に購入したのかもな」
「でも助かってよかった」
「だが本当に出るんだな、アキちゃんの無意識の蹴り」
「だったらクマ男に縛られた時になんで出なかったのよ」ユカちゃんが言った。
「そんなことわたしにもわかんないよー」アキちゃんが言った。
「レイプする気がなかったからじゃないのか?」刑事さんが言った。
「じゃあイヤらしいことされそうになった時だけ?」
「わたしに聞かないでよー」
「初夜もそれでダメだったのかー」
「言わないでよー」
僕はユカちゃんの別荘でアキちゃんに蹴り飛ばされたことを思い出した。思い出したくなかったのに。やっぱり今度いい思い出で上書きしよう。




