17.女子高生レイプ事件
「あなたたちにしか頼めないのよ」マユミ先生が言った。
「どういうこと?」ユカちゃんが聞いた。
「うちの患者の娘さんがね、レイプされたらしいの。まだ高校生なのにかわいそう。相談されちゃって。犯人捕まえて懲らしめてくれって」
「警察には?」
「届出したらどうなると思う? 聴取でイヤなこと根掘り葉掘り聞かれて、結果犯人捕まったとしてもまず起訴はされない。示談で片付けられちゃう」
「そうなの?」
「日本人は世間体を気にするからね。親としては娘の将来を考えたらそうなるよね。本人も早く忘れたいだろうし、裁判で何度も追体験させられるのは辛いよね。よほどの覚悟がないと戦えない。犯人は深く反省してるフリさえすれば刑も軽くなるし」
「ひどーい」
「女の子が一生トラウマを抱えちゃうってこと、軽く考えてるのよ」
「で、どうするの?」
「その高校に潜入してもらって犯人を捕まえる」
「アタシたちが?」
「わたしじゃムリでしょ? でもがんばればいけるかな?」
「いや、ムリはしないほうが…」
「でしょ? おねがい」
「でもわたしたちももうすぐ高校生だから見た目は問題ないけど、ユカちゃんは地元の高校でも知られた美人中学生だよ」アキちゃんが言った。
「じゃあユカちゃんはダメね」
「えー、残念」
「わたしが行くよ」ミユキちゃんが言った。「本当は高校生だし、レイプされても平気だし」
「平気なの?」マユミ先生が驚いた。
「うん。ミユキちゃんはね、みんなにレイプされまくったから、脳が上手に処理してくれるんだって」
「ユカちゃん、言い方が無神経だよー」アキちゃんが注意した。
僕たちはマユミ先生にミユキちゃんの事情を説明した。
「そうなの。たいへんな人生を送ってきたのね」マユミ先生はため息をついた。
「でも今はみんなのお役に立ててる充実感があるし」ミユキちゃんが言った。
「売春組織壊滅の立役者だもんね」アキちゃんが言った。
「だからわたしが行きます」
「わかった。被害者の娘さんの話によれば、放課後トイレで襲われて個室に連れ込まれ、気絶させられて夜までそのまま個室に閉じ込められていたみたい。その後ゆっくりと」
「レイプされたの?」
「朝までされ続けて、その後放置された」
「ひどい」
「顔は見てないの?」
「仮面マスクをかぶっていたそうよ」
「でも女子トイレでしょ? どうやってそんなことができるの?」
「そうだよね。まず誰もいない隙を見てトイレに入ることはできるとしても、その時中に誰もいないとどうしてわかるのか。運よく中に入って個室に籠ることはできても、自分以外でトイレ内にいるのが一人だけという瞬間がどうしてわかるのか。それに襲っている時に誰かが突然入ってきたらどうするのか。リスクだらけだ」
「隠しカメラがあるか、共犯者がいるか」
「なるほど」
「まずは隠しカメラの有無を確かめるところから始めましょう」
(ミユキちゃんの回想)
わたしは名前を変えて転校生として潜入した。被害者の子が襲われたというトイレにやって来た。隠しカメラがあるとしたらここだろうという場所をそれとなく見る。入口を含めトイレ内全体が見渡せる場所。あった。たぶんあれだ。そこにあると思ってみないとわからないような巧妙な隠し方だ。気づいていないフリをして個室に入った。レイプの現場だ。わたしは盗聴器を便座の裏にセットした。さすがにカメラは設置できない。盗撮になってしまう。レイプの状況は音だけで十分わかるだろう。水を流して、個室を出た。
放課後、遅くなってからトイレに向かう。犯人はもう潜んでいるだろうか。ドアを開けて入った。問題の個室だけが閉まっている。いるのか。突然個室のドアが開いて男が飛び出て来た。スタンガンを当てられた。
どれだけ時間が経ったかわからない。気がついたら縛られていた。まだトイレの個室の中だ。わたしは服を脱がされて、便座に座らされている。仮面マスクをかぶった男がわたしを見つめている。息が荒い。気持ち悪い。でもレイプされたい。いやなのに。わたしが男に捕まったらすぐ助け出すとマユミ先生は言ってくれた。でもわたしはせめて1回レイプされてからにして下さいとお願いした。どうかしている。
「気がついたか?」男が言った。
「誰? いや。やめて」
「おまえ虐待されてるのか?」
「ち、ちがいます」
「隠さなくていいよ。すごい傷跡だな」
「ちがいます」
「ひどいよな。どんなことされたんだ?」
「やめてください」
「オレにもやらせろよ」
え? どうしてそうなるの? かわいそうだとは思ってくれないの? もうすでに誰かにされているなら自分もやっていいと思うの? どうしてみんなわたしを傷つけたがるの? 傷つけてもいいという理由があれば、遠慮なく傷つけてくる。ボウガンで射抜かれた。ダーツの的にもされた。バットでめった打ちにもされた。わたしのせい? わたしがそうさせてるの? 男がカッターナイフを取り出した。あれ? レイプするんじゃなかったの? わたしの胸をスパッと切り裂いた。血が流れ出た。
「きゃあああ」
男は笑いながら次にわき腹を切り裂いた。また血が流れ出す。
「ひえええ、やめて、もうやめて」
男は楽しくてしょうがないというふうにカッターを振り回す。わたしの太ももを切り裂いた。血が吹き出した。
「ひいいい、痛い、あああ」
男の手が血まみれだ。わたしも血まみれになって死ぬの? このまま切り刻まれ続けるの? 血がドクドク流れ出るのがわかる。ああ、すぐに捕まえに来てもらえばよかった。わたしがわがままを言ったせいだ。ばかなわたし。
トイレのドアが大きな音を立てて開くのが聞こえた。
「やめなさい! 今すぐ出て来なさい!」マユミ先生の声だ。
「来るな! こいつを殺すぞ!」男が叫んだ。
「このまま殺人犯になりたいの? 今なら見逃してあげるから出て来なさい」
男は迷っている。
「すぐに逃げなさい! でなきゃドアを蹴破るよ!」
男は飛び出した。マユミ先生が飛び込んで来て止血してくれた。でももう…意識が…。
「ごめん。ほんとごめん。まさかああいう展開になるとは…」
マユミ先生が両手を合わせてベッドで寝ているミユキちゃんに謝った。ミユキちゃんはあの後すぐにユカちゃんの邸宅に運ばれて治療を受けた。
「あいつ、ミユキちゃんの傷跡見たとたんに変なスイッチが入っちゃったのね。まさか切り刻んでくるとは…そうとうヤバイ奴だったね」
「逃がしちゃったんですか?」ミユキちゃんが聞いた。
「まさか。あの時は一刻も早く止血したかったから、逃がすフリをしただけ」
「でも…」
「フフ。あの男はトイレを出たとたんに狙撃されたよ」
「狙撃? ああ、あの乳首スナイパーさんが…」
「乳首はよけいでしょ。ちゃんと仕留めてくれたわ」
「こ、殺しちゃったんですか?」
「麻酔銃で眠らせただけ。殺すのはこれからよ」
「これから?」
「身体中の痛点に針を刺して、地獄の苦しみを味わわせるの」
「ひえ」
「それから旦那様に渡してあげる」
「え?」
「旦那も拷問好きなんでしょ?」
「いえそれは…ちがうかも…」
復讐で問題が解決することはない。被害がなかったことになるわけでもない。だがそうしないと気が済まない。本能は自分の遺伝子に危害を加えたものを許さない。復讐を願うということは未来に目を向けず、過去にとらわれ続けるということだ。それに被害者と加害者どちらも愛さなければたぶん問題は解決しない。それが無理だというなら同じ事件が起こり続ける。悲しい話だ。




