16.マユミ先生
ユカちゃんのお父さんが捕まったという衝撃的な知らせが届いた。
「うそだろ。フェイクじゃないのか?」父が言った。
「でも、でも」ユカちゃんはオロオロしている。
「信じられん。あれほど用心深い人だぞ。どんな手を使ったんだ?」
「わかんない。でもお父さんと連絡が取れないの。アタシの携帯に脅迫メールが届いたの」
「落ち着いて。脅迫メールはいつ届いたの?」
「ついさっき。だからここへ直行したの」
「何て書いてあるの?」
ユカちゃんがスマホを見せた。
『おまえの父親を今夜0時にここで処刑する。助けたければひとりでここに来い』
文面はそれだけで、場所のGPS座標が添えてある。
「これじゃ本当かどうかわからん」父が言った。「こちらをおびき出す作戦だろう」
「でもお父さんと連絡が取れないの」ユカちゃんが泣きだした。
「お父さんを拉致するより、連絡手段を妨害するほうが簡単だろう」
「残り時間が少ないっていうのも、あやしいわね」ユウコさんが言った。
「でも、でも」
「ユカちゃん、落ち着いて。これはどう見てもユカちゃんをおびき出すためのワナよ」
「でも、もし本当だったら」
「それはまずない」
「ワナにかからなければいいんでしょ。ワナだったら逆に仕掛けた奴を捕まえればいいじゃん」
「簡単に言わないでよ。わざわざ危険に身をさらすの?」
「本当だったら助けなきゃだし、ウソだったら腹立つじゃん」
「やれやれ」
GPS座標は港のコンテナ埠頭を指していた。深夜。外灯があるとはいえ暗い。コンテナが積み上げられずらっと並んで迷路のようになっている。身は隠しやすい。だがそれは敵も同じだ。
「あのコンテナの向こうみたい」
「用心して。気をつけて」
コンテナの陰からそっとのぞいてみた。空きスペースの真ん中に椅子があって、男が座らされている。両手を後ろに回され、頭から袋を被らされている。
「お父さん!」
ユカちゃんが駆け出した。
「ばかっ」ユウコさんが追いかける。
僕とアキちゃんも駆け出した。ユカちゃんが近くまで行くと突然男が立ち上がってユカちゃんを捕まえた。ユカちゃんが暴れた。男がユカちゃんを抱きかかえたまま宙に浮きあがった。暗くてよく見えなかったが男はクレーンで吊り下げられているようだ。アキちゃんがジャンプしてユカちゃんにしがみついた。二人は男といっしょにどんどん上に上がっていく。クレーンに吊り下げられたまま闇の中へ消えていった。
僕はユウコさんといっしょにユカちゃんのGPSを追いかけた。港に小型の船が停泊していた。クレーンはその船の甲板に3人を下ろした。船が出航した。追いかけられない。
携帯が鳴った。父からだった。
「ユカちゃんのお父さんと連絡がとれた。やっぱりワナだったぞ。すぐ帰ってこい」
「ごめん。ユカちゃんとアキちゃんがさらわれた」
「ばか。おまえたちは何をやってるんだ」
「ユカちゃんが暴走したんだよ」
「それを止めに行ったんじゃないのか」
「それより船で逃げられた。ユカちゃんのお父さんに伝えて」
「わかった」
(アキちゃんの回想)
「ぎゃー。わー。死ぬー」ユカちゃんがわめいた。
「あばれないでー。落ちたらほんとに死ぬよー」わたしは叫んだ。
わたしたちはクレーンで吊り下げられて移動し、やがて船の上に下ろされた。男がクレーンのワイヤーを取り外した。わたしは男を蹴り飛ばした。男は海に落ちていった。首の後ろに何か刺さった。意識が遠のいた。
気がついたらユカちゃんといっしょに椅子に縛り付けられていた。
「ばかじゃないのー?」わたしはユカちゃんを叱った。
「だってー、似てたからー、てっきりお父さんだと思ってー」
「あとさき考えずに行動するのは悪いクセだよー」
「ところでここはどこ?」
「はいはい。やっと気がついたのね」
女の人が立っていた。胸が大きくてお尻も大きい、きれいな人だ。白衣を着て手に長い針を持っている。
「ここはわたしの鍼灸院」
「シンキュウイン?」
「針で病気を治療するところ。知らない?」
「あ、テレビで見たことある」
「知ってる? 人間の皮膚には感覚点が散りばめられていてね、温点・冷点・圧点・痛点があるけど数で言えば痛点が圧倒的に多いの。痛点が刺激されると、その信号がまず脊髄に伝わり、そこから脳に伝わって、脳が痛みを感じる。ということは逆に痛点を刺激しなければ針を刺されてもまったく痛みを感じないわけ。深く刺せば臓器に穴をあけて殺すこともできるの」
なんかこわいことを言っている。女の人はユカちゃんの首筋をなぜた。
「美人だねえ。肌もきれい。傷つけたくないよねえ。きれいなままでいたいよねえ。拷問して傷つけちゃったら価値が下がるものねえ。でもさあ、傷跡をほとんど残さずに拷問する方法もあるのよ」
女の人がしゃがんだ。大きな胸の谷間が見える。わたしの視線に気がついた。
「何ジロジロ見てんの? これ? なに? うらやましいの?」
わたしはうなずいた。女の人は笑った。
「わたしはマユミ。マユミ先生って呼んでいいよ」
「は、はい」
「胸が大きいのってたいへんなのよ。考えてみなさいよ。こんな重いものずっとぶら下げてるのよ。首と肩に負担がかからないわけがないでしょ。もう肩こりがひどくてまいっちゃう。お友だちも今は若いから平気だろうけど年取ったら絶対肩こりに悩むよ」
「そうなんですか」
「だからアンタくらいがちょうどいいの。わたしのと交換したいくらいだわ」
「できるんですか?」
「できるわけないでしょ」
「なんだ」
でもそうか。うらやましがることないんだ。
「話がそれたわ。そうそう、アンタを痛めつける話」
マユミ先生はそう言ってユカちゃんを見た。
「目とか鼻とか口とか指先には痛点が集中してるの。だから刺されるとすごく痛いんだよ。特に爪と指の間、死ぬほど痛いらしいよ」
ユカちゃんの顔が青ざめた。
「拷問で爪を剝ぐっていうのがあるでしょ。あれと同じくらい痛いらしいよ。しかも爪を剥ぐのは1回で終わっちゃうけど、針は何回でも刺せちゃう。おもしろいのは他の感覚と違って、痛みって慣れることがないんだよね。生命維持に不可欠な機能だから、慣れちゃ困るよね。慣れないどころか痛点の場合、刺激を受け続けるとその部分はどんどん過敏になって、ちょっとした刺激でも痛みを感じるようになる」
ユカちゃんの顔がますます青ざめた。マユミ先生がユカちゃんの背後に回って縛られた指を1本持ち上げた。
「きゃああ、やめて、やめてえ、いたい、いたい」
「まだ何もしてないよ」
「ひいいい、痛いー」
「何もしてないってば」
「きいいいいいい、ひいいいい」
「ちょっと、なんなの。やめてよ」
マユミ先生が立ち上がった。
「いやだそのキンキン声、すっごく頭に響くんだけど」
「ハア、ハア」ユカちゃんは涙を流している。「何でもします。何でもしますから許して」
「なさけないよー、ユカちゃん」
「そ、そんなこと言ったってー」
「もしかして注射きらいな人?」
「好きな人っているの?」
「刺される前から泣く人いないよ」
「子供はみんな泣いてるじゃん」
「わたしたちもう子供じゃないよ」
「まだ子供じゃん」
「わかったわかった。ちょっと脅してみただけ。アンタのお父さんにお願いしたいことがあるのよ。どうせすぐに助けがくるんでしょ?」マユミ先生が言った。
「たぶん」
「じゃ、それまでの間、肩こりを治してあげる」
マユミ先生は針がたくさん入ったトレイを持って来た。ユカちゃんの後ろに回る。
「じっとしててね」
「いや、いいです。結構です。ほんとに」
「もう刺したよ」
「え?」
「痛くないでしょ?」
「あれ? ほんと?」
「ちゃんと刺さってるよ」わたしが教えてあげた。
「ほんと? すごーい」
マユミ先生は慣れた手つきでユカちゃんの首から肩にかけて次々と針を刺していった。
「あ、なんか気持ちいい。肩が軽い」
「そんなに早く効くわけないでしょ。効き目が出るのは1週間後くらいだよ」
「でもなんか、すごくいい」
「暗示にかかりやすいタイプね」
「素直と言ってあげて下さい」わたしが言った。
「縄をほどいてあげてもいいけど、蹴らないでくれる?」
「はい。蹴りません」
「でも驚いたわ。人間って蹴ってあそこまで飛ばせるものなのね」
「お恥ずかしい」
縄がとかれた。わたしは立ち上がった。ユカちゃんは気持ちよさそうに目を閉じている。
ドアが開いて、ユウコさんとカレが入って来た。ユウコさんがダーツの矢を構えた。
「だめー。この人は悪い人じゃないよー」わたしは両手をひろげて止めた。
「ちょっと待ってね。今針を抜くから」マユミ先生が言った。
「お父さん、針はいいよー。効くよー」ユカちゃんが言った。
「中年のおばさんみたいなことを言わないでくれ」ユカちゃんのお父さんが言った。
「毎日やってもらおうかなー」
「いや3カ月に一度で十分だから」マユミ先生が笑って言った。
ここはユカちゃんの邸宅だ。
「ごめんなさいね。でもこうでもしないと会えないと思って」マユミ先生が言った。
「まあな。だがうちの娘もこんな手に引っかかるとは」ユカちゃんのお父さんが嘆いた。
「わたしもまさかと思ったけど」
「ばかなやつだ」
「お父さん思いのいい子じゃないの」
「で、用件は何だ」
「優秀なスナイパーがひとりほしいの」
「誰かを狙うのか?」
「ううん。狙われてるのはわたし」
「どういうこと?」ユカちゃんが口をはさんだ。
「アドバイスがほしいのよ。わたしの知り合いにスナイパーはいなくて」
「ふつういないよ」僕が言った。
「わたし、この頃よく撃たれるの」
「えー?」
「ああでも実弾じゃなくて、殺傷能力のないやつ」
「ゴム弾みたいな?」
「そう。痛いのは痛いんだけど。犯人つかまえて理由を聞きたいのよ」
「犯人はわからないの?」
「さっぱり。これを見て。うちの監視カメラの映像」
マユミ先生はUSBメモリを差し出した。僕はそれを大画面のモニターに映し出した。
まず『マユミ鍼灸院』という看板がある建物の入口が映った。ドアが開いてマユミ先生が出て来た。そこで狙撃された。ミユキ先生があっという感じでひざまづいた。キョロキョロあたりを見回す。巻き戻して超スロー再生をする。弾が飛んできて、ミユキ先生の胸に当たったのが見えた。
「わかった? あれ、わたしの乳首に当たってるの」
「えー?」
あらためて見直すと、確かにそのあたりにヒットしている。当たった時のミユキ先生の表情が、なんかセクシーだ。ちょっとドキッとする。
「偶然じゃないの?」
「毎回必ずピンポイントで乳首に当たるの。すごくない?」
「変態じゃん」ユカちゃんが言った。
「わたしもそう思う」アキちゃんも言った。
「胸が大きいから狙いやすいとか」
「いや、すごい技術だ」ユカちゃんのお父さんが言った。「うちのスナイパーを呼ぼう」
夕食を兼ねた会議に僕の父と母も呼ばれた。二人とも正装でやってきた。
「パーティーの招待じゃないのか?」父が言った。
「ちがうよ」
だがメインテーブルの中央にシェフとノブコお姉さんの料理が盛り上げられている。取り皿もあり、お酒も用意されている。
「立派なパーティーじゃないの」母が言った。
歩けるようになったミユキちゃんとユミさんも参加した。ユカちゃんとユウコさん。そこへマユミ先生とスナイパーさんが加わって10人。ユカちゃんのお父さんを入れて11人。壁の大画面に映像が映し出されている。父は自分のパソコンを開いてコピーしてもらった映像を勝手に編集している。
とりあえず食事だ。僕はステーキとサラダを自分の皿に取った。アキちゃんは鳥の丸焼きを切り分けて取った。みんなもそれぞれの好みで料理を自分の皿に盛りつけている。父はやっぱり酒を飲んでいる。ユウコさんとユミさんが相手をしている。母は厨房へ行ってノブコお姉さんやシェフと話をしていた。
やがてスナイパーさんが説明を始めた。
「普通は狙撃場所の特定から始めます。しかし監視カメラの映像で見ると日によって弾道の角度が違うため、同一場所からではなく、場所を変えて狙撃していると思われます。マユミ先生によれば狙撃される場所もまちまちということですし、それがいずれも特定の個所に命中しているとすれば…」
「乳首でしょ?」ユカちゃんが言った。
「はっきり言うのはおやめください。ですがそうです。しかも通常の銃弾ならともかく、ゴム弾は空気抵抗も大きく、遠距離からの狙撃で標的に命中させることはほぼ不可能です。見つからない範囲でギリギリ近くから撃っているのでしょう。弾もおそらく自家製。銃もそれ用に改造していると思われます。しかしこれは信じられないほどの高等技術です」
「問題はそんなすごいスナイパーが、なぜこんな子供のいたずらみたいなことをしているのか、だな」父が言った。
「そうなんです」
「これだろ」父が自分のパソコンの画面を壁のモニターに映した。
撃たれた瞬間のマユミ先生の顔がアップにされた。眉をしかめ、目が細められ、口が開いて、なんともせつなげで、色っぽい。
「これが見たくてやってるんじゃないか?」
「そんなまさか」
「やっぱ変態じゃん」ユカちゃんが言った。
「わたしもそう思う」アキちゃんも言った。
「マユミ先生が好きなんだろう」
「好きな人にそんなことする?」
「するんだよ」ユミさんが言った。「男はバカだから」
「好きな子にイジワルするのって、ちっちゃい男の子の定番だもんね」ユウコさんも言う。
「そうなの?」
「好きなんだったら告白すればいいのに」
「告白したら絶対にフラれる自信があるんだろう」
「どんな自信?」
「ハゲでチビでデブとか」
「人を外見で差別しちゃいけないんだよー」アキちゃんが抗議した。
「わたしはハゲでもチビでもデブでも気にしないわよ」マユミ先生がさらりと言った。
みんながおーっと感心した。
「脅迫文とかも届いてないんでしょ?」
「全然。まったく。何も」
「見つけてほしいのかな?」
「だったら隠れなきゃいいじゃん」
「そうか」
「むしろこれほどの腕前なら、わたしのものにしたいわ」マユミ先生が言った。
「それは部下にしたいってこと?」
「いえ、恋人でも別にいいわよ」
「恋人いないんですか?」
「特には」
「特には?」
「自分にとって、この人は特別だって人はいないわね」
「わたしにとってはカレがそうだよー」アキちゃんが得意げに言った。
「へえ、そうなの? いいわねえ」
「おかげで使いづらい」ユウコさんがぼやいた。
「使いづらい?」
「アキちゃんの蹴りを借りようとすると、カレがついてきちゃう」
「カレは何の役にも立たないからねー」ユカちゃんが言った。
「悪かったな」僕がぼやく。
「なによー」アキちゃんが怒った。
「はやく別れなよー。そしたらみんながアキちゃん使いやすくなるよー」
「使いやすいって何よー。わたしはモノじゃないよー」
「モノというか、人間兵器?」
「ひどーい」
「まあまあ。その話はまた今度にして」父が言った。
「ホームページにメッセージ載せたらどうですか?『いつもわたしの乳首を狙っているスナイパーさん、一度会ってお話しませんか?』とか」アキちゃんが提案した。
「『乳首』はいらないと思うぞ」
「なんか出会い系みたい」
「効果あるかなあ」
「『わたしのすてきなスナイパーさん、今度お茶しませんか?』にしたら?」
「効果あるかなあ」
「自主訓練をやっているとも考えられます」スナイパーさんが言った。
「どういうこと?」
「自分の技術向上のために、条件や標的を設定して困難なミッションにトライする」
「それがマユミ先生の乳首?」
「やっぱ変態じゃん」ユカちゃんが言った。
「わたしもそう思う」アキちゃんも言った。
「好意を寄せる人の乳首だとより集中できるのかも」
「腕は天才でも頭はガキなのね」
「ますます会ってみたくなっちゃった。さっそくホームページにメッセージ載せちゃおう」マユミ先生が言った。
「こちらは張り込んで捕まえられるかどうか試しましょう」
翌日。僕たちはスナイパーさんといっしょにマユミ鍼灸院に向かった。自宅を改造したような小さな鍼灸院だ。スナイパーさんはあたりを見回して狙撃可能な場所を探る。監視カメラ映像の弾道から近距離で身を隠せそうな場所を何ヶ所か割り出す。そこに何名か張り込ませて姿を現したら確保する作戦だ。
次の日はユウコさんが針治療を受けに行った。同じ針使いとして興味があるようだ。僕たちは付き添いとしてついて行った。待合室で話し合う。他には誰もいない。
「ひまなの?」ユカちゃんがストレートに聞いた。
「一般の人はあまり来ないの」受付のお姉さんが答えた。「どちらかと言えば裏専門」
「マユミ先生も殺し屋なの?」アキちゃんが聞いた。
「そりゃそうでしょ。お父さんのこと知ってるんだもの」ユカちゃんが言った。
「わたしたちのまわりって物騒な人が多いよね」
「アタシのせいだって言いたいの?」
「そういうわけじゃないけど」
確かにユカちゃんのせいとは言えない。僕たちは生まれる環境を選べない。ユカちゃんの環境がいやだからといってアキちゃんが友だちをやめることはないだろう。
若い男が入って来た。黒い帽子に黒いシャツ、肩から黒い鞄を下げている。受付のお姉さんにいきなり銃を向けた。
「せ、先生と、は、話がしたい」
僕たちが立ち上がると、すかさずこちらに銃を向けた。
「う、動くな」
施術室からマユミ先生が出て来た。
「スナイパーさん? うれしい。さっそくメッセージ見てくれたのね」
「乳首の?」ユカちゃんがよけいなことを言った。
「う、うるさい」男がユカちゃんの足を撃った。
「ひっ、痛い」ユカちゃんが足を抱えた。弾がはねた。ゴム弾だ。
アキちゃんが突進した。
「ストップ! 落ち着いて。お茶しに来たんでしょ?」マユミ先生が言った。
男が銃を収めた。
「奥へ行きましょう」
マユミ先生は廊下を先に歩いて行った。男は素直について行く。
ユカちゃんはまだ痛い痛いとわめいている。受付のお姉さんが手当てをしに来てくれた。マユミ先生はどうしているだろう。男とお茶しているのか。
しばらくして、マユミ先生と男が帰って来た。
「話はついたわ。ここの助手として働いてもらう」マユミ先生が言った。
「助手って、鍼灸院の? それとも裏家業の?」
「どっちもじゃない?」
「でもよかったじゃん」ユカちゃんが言った。
「何が?」
「だってもう乳首は見放題さわり放題なんでしょ?」
「そ、そうなの?」アキちゃんが食いつく。
「そうじゃないの?」
「男女の関係はそう簡単じゃないかもよ」ユウコさんが言った。
「名前はマサキくんで、まだ20歳らしいよ。マユミ先生はおそらく30歳くらいだろうから」
「10歳年下」
「そう。まだ20歳じゃガキっぽいのも無理はない。うちの近所の大学生もバカばっかりだからね」
「絶対経験ないよね」ユミさんがおもしろそうに言った。
「マユミ先生が初めてってこと?」
「もうやったのかな?」
「さあどうだろ。じらして遊んでるんじゃない?」
「ああそれおもしろいもんね」
大人の女子トークだ。
「エサをぶら下げられてさ、その下を必死で駆け回ってる犬みたいになるのよね」
「かわいいよねー。当分遊べるよねー」
「でもやりすぎると危険だよ。いきなり反撃くらったりするからね」
「そこの微妙な駆け引きがたまらんのよ。うらやましいなー」
「マユミ先生、経験豊富そうだもんねー」
僕はマサキさんに同情した。マユミ先生、あまりじらさないであげてほしい。




