11.10人の敵
僕たちはバーにいる。僕たちはおつまみを前にしてバーのボックス席でコーラを飲んでいた。ユウコさんとユミさんがカウンターでお酒を飲みながら話している。
「最近ひまだねえ」ユウコさんがぼやいた。
「温泉でも行く?」とユミさん。
「こないだ行ったからねえ」
「そうなの?」
「うん。そこであの4人と出会ったんだよ」
「へえ。でもあんな小さな女の子が助けに来てくれるなんて思いもしなかった」
「ああ、そうか。アンタあの子の蹴り見てないんだ」
「蹴り?」
「すごい蹴りだよ」
「ほんとに?」
そこへ10人の男たちがドヤドヤと入って来た。ユウコさんが隠し持ったダーツに手を伸ばそうとした。その手首を掴まれた。
「よう、ユウコ。ひさしぶりだな」その声を聞いてユウコさんがびくっとした。
男の目は片方が義眼だった。男はユウコさんの両手首をつかんで離さない。ユウコさんが振りほどこうともがいた。男は両手首をつかんだままカウンターにユウコさんの身体を押し付け、膝を勢いよくユウコさんの腹にめりこませた。ユミさんは席を離れた。
「ぐはっ」ユウコさんが呻いた。
男はユウコさんの腹に膝蹴りをくらわし続けた。
「ぐええっ、げほっ、がはあっ」
やがてユウコさんがぐったりした。
「よくも俺の目を潰してくれたな。探したぜ」
男は他の男たちにテーブルを持ってこさせ、壁に立てかけさせた。そしてユウコさんの両手両足をテーブルの足に縛り付けた。ユウコさんははりつけの格好にさせられた。猿ぐつわを噛まされ、衣服を切り裂かれてハダカにされた。
ユミさんは僕たちのテーブルに逃げてきた。男たちが取り囲む。
「わ、わたしたちは関係ないわよ。あの人には今日はじめて会ったんだから」
「こんなにガキ連れて何してる」
「親戚の子をあずかってるの。これは社会見学よ」
「何が社会見学だ。てめえが飲みたかっただけだろ。子供をこんなところへ連れて来やがって。なんて保護者だ」
「だから見逃してよ。絶対誰にも言わないから」
「信用できるかよ。そこでおとなしくしてろ」男はちらっとユカちゃんを見た。
「おお、よく見たらすげえ美人がいるじゃねえか。オマエ、名前は?」
「ユ、ユカ…」
「ユカか。いい名前だ」
男たちはハダカにされたユウコさんの真っ白いきれいな肌の下腹部に油性ペンでダーツの的を描いた。ユウコさんをダーツの的にする気だ。ひどい。
ユウコさんが隠し持っていたダーツの矢がひろげられた。
「そいつは使うなよ。毒が塗ってあるからな。しまっとけ」義眼の男が言った。
「倉庫にダーツの矢がいっぱいあったぞ」男の一人が箱を持ってやって来た。
「ここの主人は縛り上げて倉庫の隅に置いて来た」と言って笑った。
「よし、始めよう」
「景品はあそこにいるユカっていう女にしよう。まだ子供だけどすげえ美人だぜ」
「将来のために取っておくのか?」
「飽きたら高く売ることもできるぞ」
「好きにしろ。ただしユウコの目には当てるなよ。コイツの目はオレが潰すからな」
誰かがダーツの矢を投げた。ゲームの時のように軽くではなく、思いっきり力を込めて投げた。ユウコさんの下腹に勢いよく根元まで突き刺さった。ブスッ。
「ぐふううーっ」猿ぐつわをされたユウコさんが悲鳴を上げた。
矢が次々と投げられ、次々とユウコさんの腹に突き刺さる。ブスッ。ブスッ。ブスッ。
「ぐふうっ。ぐふっ。ぐふうううっ」
そのたびに悲鳴が上がる。1本の矢が的をはずれてユウコさんの太ももに刺さった。ブスッ。
「ぐふっ」
「はい、0点」男たちが大笑いした。
ミユキちゃんが立ち上がった。
「もうやめてください! わ、わたしが的になります」
そう言って男たちの中に入って行った。
「おーい。的が増えたぞ」男たちがどっと喜んだ。
ミユキちゃんは男たちによってすぐハダカにされた。
「げっ、なんだこりゃ。すげえ…」
「全身傷だらけじゃねえか。虐待でもされてたのか? こりゃ逆にそそられるぜ」
「よし。じゃあ傷跡の大きいのが10点、中くらいのが5点、小さいのが1点だ」
ミユキちゃんの身体の傷跡に油性ペンで数字が書き込まれた。ミユキちゃんが立たされた。ダーツの矢が飛んできて、ミユキちゃんの乳房の無傷な場所に刺さった。ブスッ。
「きゃああっ」
「はい0点」男たちがまた大笑いした。
次の矢がこの前のボウガンの傷跡に刺さった。ブスッ。
「ぐわあああ」
「お見事。10点」
男たちがダーツ投げに夢中になって、ユウコさんとミユキちゃんの悲鳴が続いている間に、僕たちは気付かれないようおたがいの顔を見ないようにしてうつむいたまま小さな声で作戦を練っていた。見張りの男たちもダーツに気を取られている。
「アキちゃん、何人倒せる?」ユミさんが聞いた。
「やってみないと…」
「じゃあ蹴るときはできるだけ他の男たちに向けて蹴って。当たって倒れた男たちは私がやる」
「わかった」
「まずそこの銃を持った男、蹴り飛ばして銃を奪ってユカちゃんに渡して。ユカちゃんはそれで自分に近づいて来た男だけ撃ちなさい。遠くの男はだめよ。はずれるから」
「わ、わかった」ユカちゃんが答えた。
「わたしはまずそこのナイフを持った男をやる。そのナイフを坊やに渡すから、それでユウコを縛っているロープを切ってあげて」
「わかった」僕が答えた。
ユウコさんとミユキちゃんの身体にはすでにダーツの矢が何本も突き刺さっている。
「行くわよ」ユミさんが合図した。
全部で10人。アキちゃんが男の銃を掴んで義眼の男の方に蹴り飛ばした。1人目。銃をユカちゃんに渡した。ユカちゃんが銃を受け取って構えた。ユミさんがナイフの男の首を折った。2人目。ナイフが僕に渡された。僕はユウコさんの方へ走った。アキちゃんが3人目の男を、男たちの集団に向けて蹴り飛ばした。3人の男たちが倒れた。ユミさんが次々に首を折っていく。4人目。5人目。6人目。僕はまだユウコさんの右手を縛っているロープを切るのに手こずっている。アキちゃんが7人目の男を蹴り飛ばした時、義眼の男に捕まった。義眼の男はアキちゃんをカウンターの向こうに投げ飛ばした。アキちゃんの身体が奥の棚にぶち当たった。並んでいた酒瓶が大量に落ちて床に当たって砕け散った。ロープがやっと切れた。ユウコさんは猿ぐつわを右手で取って、僕からナイフを受け取った。自分で左手のロープを切り始める。バン! 8人目の男が撃たれて倒れた。ユカちゃんが銃を手に震えていた。義眼の男がユカちゃんの銃を取り上げた。ユミさんの手が義眼の男に伸びた。義眼の男は回し蹴りを放った。ユミさんが吹っ飛ばされた。アキちゃんがカウンターを乗り越えて9人目の男を蹴った。義眼の男がアキちゃんの肩をつかんで腹に膝蹴りをくらわせた。
「ごぼっ」
アキちゃんの身体が空中でくの字に折れ曲がって、べちゃっと床に落ちた。
「ねえ!」ユウコさんが叫んだ。
義眼の男が振り向いた。ユウコさんは自分の腹に刺さったダーツの矢を引き抜くとすばやく投げた。矢は義眼の男のもう片方の目に命中した。
「ぐわっ」男は何も見えなくなって、見当違いの方向に銃を撃った。
ユミさんが義眼の男に飛びついて首を折った。10人目。
「なんでその時殺しておかなかったのさ」ユミさんが言った。
「わたしも若かったんだよ。片目を潰しただけで許してやろうなんて、つい情けをかけちゃってさ」病室のベッドでユウコさんが言った。
「ちゃんと殺しておかないと、あとで必ずこういうことになるよね」
「ほんと。おかげでお腹を穴だらけにされちゃった」
「気を付けなよ」
「うん。こりゃまだまだ狙われるかな」
「うそ。そんなにいっぱい情けをかけてたの?」
「ムダな殺生はしたくないっていうか」
「バカだね」
「だから若かったんだよ。というより幼なかった。この稼業で中途半端な情けは命取りだってことがわからなかった」
「情けをかけても感謝されることはないからね。恨みを買うだけ」
「まったく」
二人はこわい会話を続けている。ユウコさんの隣のベッドではミユキちゃんが寝ている。
ユカちゃんのお父さんの部下と刑事さんが駆け付けた時、十数本の矢が二人の身体に刺さっていた。僕たちはすぐにユカちゃんの邸宅に運ばれ、男たちは刑事さんにまかせろと言われた。どうせ男たちは悪党ばかりだ。また刑事さんの手柄になるだろう。
「ミユキちゃん、だいじょうぶ?」アキちゃんが声をかけた。
「うん…かなり気持ちよかった」ミユキちゃんがうっすら微笑んだ。




