第四ステージ 前略飾り物の王様につき
月明かりの下、先ほど討伐したバクの欠片が消滅しようとしている。
ハルトはバクの討伐にほとほとうんざりしていた。バクなんて簡単に倒せて張り合いなどなにもない。元々ハルトはバクに関してそれほど興味などなかった。
ただまともに戦える相手が欲しいだけなのだ。
自分が強くなればなるほどこの生活がつまらなくなっていく。
誰もハルトに敵わないし近づこうともしない。それはハルトが周りとの関係に距離を置いていたからという理由もあったが、その理由の大半は誰しもが怖がって近づかないというものだった。
しかし彼はつい最近面白いものを見つけた。偶然出会った自分と同じ匂いのする少女。
戦うことしか考えていなかったハルトにとって初めて興味の湧いた相手だった。
最初の出会いはたまたま通った訓練場で、彼女は偶然空から降ってきた。避けようかとも思ったがただの気まぐれで受け止めてしまった。
彼女はハルトのことを知らなかった。
MEGAMIの本部に自分を知らない人間がいるとすれば思い当たるのは一人だけ。
先日呼ばれた局長室で新たに加入した人物のことを聞いた。現世界にいたMEGAMIの能力を持つ女。なんでも特別な人物だそうで局長はハルトに手を出さないようにと注意を促した。
局長に呼ばれたことは気に食わなかったが、この話には少しばかり興味を示した。
そんな特別なやつなら当然自分より強いのではないか。
その日からハルトはその『特別』に会いたくて仕方がなかった。そこにたまたま出会いが重なり、ハルトの目の前に彼女が現れた。
『名前・・・教えて下さい。』
助けた彼女はそう言った。正直自分の素性を知られたら逃げられるのではないかと心配になったが、逃げる獲物を追うのも悪くない。
その場で戦いを挑むのは簡単だが、さらに強くなってから倒す方が楽しみが増すだろう。ハルトはそう考え自分の名前を教え彼女を生かすことにした。
「リオ・クロディオールか。」
局長に呼び出された時は名前など覚えていなかった。しかしコントロールセンターに問い合わせればそんなもの簡単に分かる。もちろんそれはハルトの特権なのだが。
リオのことを考えるとワクワクしている自分がいた。それは誰にも邪魔されたくない。
ハルトにとって一人になれる場所といえば思い出されるところは少なかった。
MEGAMI本社ビルは最新のハイテクノロジーを駆使したビルでなんでも揃っていたからどこに行っても人に会ってしまう。
その中でもプラネタリウムは絶好の場所だった。なぜこんなところにあるのかは知らないがきっとMEGAMIの中で知っているものは極わずかだろう。それに薄暗いという環境も気に入っていた。
実はハルトはあまり明るい場所が好きではない。明るい場所には自然と人が集まってくる。そんな場所は自分には不釣合いな気がしていたのだ。
その日もなんの考えもなくドーム状の建物に入った。本当は仮眠をとるために入ったのだが、入ってみて気が変わった。
少ない座席の中央で星を見上げている女が目に入ったからだ。普段なら気が変わりそのまま立ち去るのだが今回は違った。そこにいたのは一度会ったことがある人物であり、ハルトが興味を持った人物だったからだ。
まさかこんな場所で会うだなんて予想もしていなかっただけに自然と気分が高まる。声をかけるとリオはハルトの顔を見るなり酷くびっくりした顔をした。そしてやはりハルトに関する情報を入手していた。
ハルトにしてみればそんなことどうでも良かった。
ただ関心があるのはリオが強くなったのか、それだけ。
しかしそこで思いもよらぬ情報を得ることが出来た。リオが明日討伐に行くというのだ。つまりその場に行けば彼女の戦いっぷりが見れる。
ハルトはその情報を得ただけで満足し、何もせずその場を去った。
MEGAMI本社ビルから少し離れた中央界の一角に、とても洗練されているとは言いにくい場所がある。商店街からは活気が消え、あるのはネオン管が所々切れたゲームセンターやパチンコ店やコンビニ。
そのさらに奥に行くと古びた薄暗いビルが建っている。中にも外にも強面の男たちがごろごろとたまっていてとても善良な市民が立ち入ろうと思う場所ではない。そのビルの最上階にハルトはいた。
あれからのハルトは毎日ご機嫌だった。彼の力に憧れて周囲をうろうろしている取り巻きたちもその変化には気が付いていた。
「ハルトさん、なんか良いことでもあったんっすか?」
スキンヘッドの目つきの悪い取り巻きAがニヤニヤしながら質問する。ほかの取り巻きBCDも同様に興味の目を向けた。
「良いことねぇ。そうだな、これから起きるかもしれないね。」
ハルトの機嫌が良いというだけで周りの男たちのモチベーションは上がった。なんせ機嫌の悪い時のハルトといえば自分たちですら殺しかねない。
「それじゃあ俺はちょっと出かけてくるから後のことはよろしくね。」
取り巻きたちの声をよそにハルトは現世界へと出かけていった。
実はハルトは中央界の一自治区を任されており、取り巻きたちはその部下でもあった。統括している自治区というのも元々柄の悪い連中の溜り場で政府が手が付けられずにいたのをハルトに押し付ける形で治めさせたのだ。
全くもってやる気のないハルトだったが統括している以上多少のことは多めに見られる。そう、ハルトの機嫌で人の一人や二人消えようとも。
彼の恩恵にあずかろうとする輩はたくさんいた。それが形となりこの自治区には不良という名のごろつきしか集まらなくなった。政府にしてもごろつきたちにしても絶好のたまり場になっていったのだ。
しかしハルトにとってそんなことどうでも良かった。自治区のことに関しては取り巻きたちの中でも幹部(ABCD辺り)がやってくれる。自分は飾りものの王様でしかない。もちろん誰もハルトには逆らおうとしなかったし、そんなやつはハルトにかかれば瞬殺できた。
だからこそ彼はつまらなかった。もっと強い相手、バクよりももっと張り合いのあるやつと戦いたい。それだけが常にハルトの頭の中を締めていた。
リオが初めて討伐する日、ハルトもいつものごとく討伐に出かけていた。もちろん簡単に討伐し終え、手応えのなさに不満を覚えつつ中央界に戻ろうとした。
その時ふと今日がリオの討伐初日が今日であることを思い出した。
中央界に戻るなりすぐアレンに言い同じ場所まで送って貰うと(これももちろん特権)調度リオがバクを討伐したところだった。
ハルトは自分の感情が高まるのを感じ高揚感を覚えた。自分にもまだこんな感情があるのかとびっくりしたが、それこそどうでも良いことだ。
そして気が付くとハルトはリオの前にたたずんでいた。彼女は絶対に強くなる。なぜだかその自信があった。
「君は俺と同じ、戦うために生まれてきたんだよ。」
自分と同じような匂いのする少女。ハルトがやっと見つけた生きがいでもあった。
リオの前から立ち去るとプラネタリウムのような万遍の星空がハルトの頭上を覆っていた。
「早く強くなってよ。楽しみにしてるからさ。」
あの夜リオと同じ星空を見上げながらハルトはその野心に胸を弾ませていた。




