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第二ステージ  最狂の君(二)

 実践の一報を知らされたのは試験が終わって三日後の朝だった。いつも通り三人で朝食を摂るため食堂に入り席に着くと、にこやかな表情をしたティファからなんの前触れも無く告げられた。

「明日の午前二時、討伐指令が入ったわ。場所はR504‐A5。まぁ自動で目的地周辺に送られるからそこら辺は気にしないで。まぁ目標も一体だしそこまで大変な相手じゃないと思うわ。他に質問はある?なかったらそのまま訓練に移るわね。」

 明日という言葉を聞いてリオは正直戸惑った。そして自分にまだその覚悟が出来て無いことに改めて気が付いた。しかしそんな生ぬるいことを言ってはいられない。リオは多少なりともそれなりの覚悟をしてMEGAMIになったのだ、いちいち実践なんかでビビッていたら切りがない。

「まぁお前はちょっと離れた所で見てろや。最初はきっとびびって足手まといになるだろーしな。俺らで片付けれる。」

 ゼノンはそう言いながらリオを小馬鹿にした様に見た。普段ならそんな挑発などに乗らないリオだが、ちょっと図星を指されていたこともあり見事に乗ってしまった。

「ゼノンなんかいなくたって余裕だよ。」

 二人が睨み合っているとティファが珍しく仲裁に入った。

「まぁまぁ、そこら辺にしときなさい。馬鹿ゼノン、あんたが喧嘩ふっかけるからリオが珍しく怒ったんじゃない。」

「んだと!馬鹿っつーやつが馬鹿だ!馬鹿!」

 こうしていつもの様に二人の喧嘩が始まる。結局リオの仲裁役に入るポジションは変わらないらしい。

「二人とも、練習行きますよー。」

 リオはそんな二人を無理やり引き剥がし訓練場まで向かって行ったのだった。

いつも浮遊訓練の時間はすぐに過ぎる。5時間なんて本当にあっという間だ。リオは他の人たちと訓練したことがないが、この3人での訓練は揉め事も多々あるが基本とても楽しいと思っていた。それはきっとティファとゼノンがリオのことを受け入れてくれていることが大きいだろう。滅多に声を出して笑わないリオもこの時ばかりは頬が緩むのだった。

今日の訓練は実践を明日に控えているということもあり、そこまでハードなことはしなかった。いつもの訓練に比べると少々物足りなさを感じる。それはリオに体力が付いてきたからだろうか。初めの頃はへとへとになり動けなかったのが嘘のようだ。そんな些細なことからも少し自信が湧いてくる。

 訓練が終わった後珍しくティファとリオが二人きりになった。

「リオ、緊張してる?」

「あ・・・いえ、大丈夫です。」

リオはタオルで汗を拭いつつティファの方を向き直した。緊張していないと言ったら嘘になるが、考えても仕方ない事だしなるべく実戦のことは考えない様にしていた。

「気楽にって言ったって無理だと思うけどさぁ、私たちが付いてるんだし大丈夫よ。ほら、危なくなったらゼノンの後ろに隠れてさ。」

そう言うとティファはあははと笑った。彼女なりにリオのことを考えているのだ。それがリオには凄く嬉しかった。

「なるべく足手まといにならないように頑張ります。」

ティファはリオの頭をポスポスと叩いて訓練場を後にした。リオもこの間の二の舞にならないように今日は大人しく部屋へ戻ることにした。


日付が変わり午前一時。いつもならとっくに寝ている時間だったが今日ばかりは酷く目が冴えている。いつも通り制服に着替え面白くも無いテレビを付けていると、けたたましく部屋の呼び鈴が鳴った。ティファとゼノンが迎えに来るのは久しぶりのことだった。

普段はこのまま食堂に直行だが今日は来たことのないフロアに来ている。ここのフロアには現世界と中央界をつなぐコンタクトルームがある。スタッフは一人しかいないが、よく分からないたくさんのパソコンや電子機械たち。部屋の奥には不思議な形のエレベーターみたいなものもある。

まるでお登りさんの様にリオはぼけっと間抜けな顔で辺りをキョロキョロしている。するとティファはリオに何やら細長い箱を渡した。

「これがリオの武器よ。確かフェンシングやってたわよね?そう思って霊具にはロングソードを用意しといたわ。」

ロングソード。重量は見た目に似合わず意外と軽い。リオがフェンシングに使っていたエペ剣よりは充分重いのだが。しかしフェンシングの剣とこのロングソードの用途はよく似ていた。ロングソードといえば中世の騎士が携えている通り馬上から敵を突くことに優れている。そしてフェンシングの剣も同じく突き専門である。まぁフェンシングの場合は相手を傷つける用途は持ち合わせていないけれども。

いきなり銃や弓矢なんかを渡されたらどうしようと思っていたリオにとってはこれは大助かりだった。防弾チョッキと思われるベスト(かなり薄く普通のベストみたいな)を着て太刀の長いロングソードを背に背負う。ティファは短銃を太ももに装備しゼノンは革のクローブをはめそれぞれに準備が整わせた。準備が出来ると三人は奥のエレベーターのようなものに通され合図を待つ。いざ出発ギリギリになるとリオの緊張はぐっと増して逃げ出したい衝動に駆られた。無理だと分かってはいるが体は正直で自然と膝がガクガクと震える。

「心配すんな、お前には指一本触れさせねぇよ。」

 リオの心境を知ってか知らずかゼノンが言い放つ。言った本人の方を見るとらしくないことを言ったせいか耳まで赤くなっている。その様子を見たら笑いがこみ上げてきてさっきまでの緊張は自然と消え去っていた。

「ありがとう。」

 それだけ言うといつの間にか三人は現世界にたどり着いていた。


 深夜二時となれば町は当然寝静まっている。静かな町の中で遠くのネオン郡だけが不自然にギラギラと輝いていた。三人は繁華街から外れた小さな商店街のアーケード下に立っている。

「ここは・・・。」

 リオにとって中央界とは全く違う懐かしい感じがした。

「今夜のターゲットはもう既にバク化してるはずなんだけど。ちょっとここら辺を探しましょう。ゼノンはあっちを、私とリオはこっちを。なんかあったらすぐに知らせなさい。」

 リオとティファは商店街から西の方へと走った。まだリオはバクを見たことが無い。走りながらとてつもなくグロテスクな姿だったらどうしようと思っていた。

 商店街から少し抜けると二人は開けた場所に出た。緑地公園とでもいうべきだろうか。小さな小川が流れ、木々が生い茂っている。きっと砂漠の中のオアシスをイメージして作られたのだろう。街灯は少なく、月明かりが煌々と輝いている。

「・・・いたわ。あれが今回のバクよ。」

 ティファが見つめる視線の先には熊の様な大きな成りをして角が生え、その目を飢えた獣のように光らせるバクの姿があった。グルルと地に響く唸り声を上げている所を見るとかなり気が立っているらしい。ティファが急いでゼノンに連絡をすると彼はいくらもたたずにやってきた。

「おーおー、ギラついてんねぇ。ティファ、俺がけし掛けるか?」

「そうね、私とリオは後方に回るわ。あんま挑発するんじゃないわよ。」

 ゼノンは「了解」と言うとグローブをギュッと締めた。リオとティファの二人は林を抜けて後方へ回りゼノンの出方を待つ。はじめて見るバクの姿は確かに化け物だった。しかしドロドロとかグチャグチャした感じのグロテスクさはなかったため、リオの内心は少しほっとしている。

 そうこうしているうちにゼノンがバクの前に現れた。瞬間バクは獲物を見つけたかのような俊敏な速さでゼノンに掴み掛かった。それを寸前で避けバクの腹部に鈍い音と共にアッパーをくらわせる。しかしバクはそれをものともせず鋭いかぎ爪でゼノンの体を引き裂いた。ゼノンの体がいち早く避けたから良かったものの彼の服はものの見事に引き裂かれた。

「チッ。」

 ゼノンは体を翻し宙へと飛んだ。一気に加速していきバクに強烈な蹴りを入れる。

大きな音を立ててバクは後方へと吹き飛んだ。

「舐めやがって。」

 しかしそれをものともしないかのように巨大な塊がのろのろと立ち上がった。ティファがすかさず雄たけびを上げるバクの正面に数発の銃弾を打ち付ける。赤い鮮血が走りそれと共にバクは悲鳴を上げその場に崩れた。

「ゼノンあんた詰めが甘いんじゃないの?」

「うっせぇよ。」

 ほっとしているのも束の間、バクは悪あがきと言わんばかりに奇声を発して起き上がり、標的をゼノンから女二人に変え突進してきた。三メートルはあろうかその体があっという間にティファのまん前に立ちふさがる。

「くそっ、間に合わねぇ!」

 考えるより先に体が動いていた。リオは背中から剣を引き抜きとっさに目の前の怪物に向かって突き刺した。その瞬間目の前に赤い鮮血が広がる。

 巨大な体はゆっくりと後ろに傾き大きな地響きを上げてその場に倒れた。バクの体は消滅し、そのまま塵とって消えていった。

 リオはまだ自分が何をしたのか状況がうまく飲み込めなかった。ただ、このままじゃティファを失うと思ったのだ。それは絶対にイヤだった。目の前で大切な仲間がやられる所を黙って見ていれるほど腐った人間ではない。

 荒い呼吸をなんとか鎮めていると、どこからともなく軽い拍手が聞こえた。三人が宙を見上げるとそこには月明かりを背にして立っている鬼神の姿があった。

「お見事だね。とても初めての狩りだとは思えないよ。」

「・・・ハルト、なんでここに。」

 リオはこんなところで、しかもハルトと出会ったことに驚きを隠せなかった。しかし残りの二人はハルトを見るととっさにその身を構える。

「おいてめぇ、なんの用だ。」

 ハルトの尋常ではない威圧的な雰囲気からか、ゼノンが強気に言い放つ。しかしそれが聞こえているのかいないのか、彼の言葉はリオに向けられた。

「きっと君はもっと強くなるね。うん、絶対に。」

 いつもの笑顔で優しく言うとハルトはリオの目の前にいた。一時も目を離さなかったはずなのにいつの間に移動したのだろうか。逆光だからか、リオにはハルトの表情が掴めない。

 ハルトはゆっくりとリオの耳元まで近づきそっと囁いた。

「・・・え?」

 次の瞬間いつもの様に、もうリオの目の前にハルトの姿はなかった。

 バクとの戦闘のせいか、それともこの一言のせいかリオはその場にしゃがみこんだ。それを見てゼノンが急いで駆け寄ってくる。

「おい!大丈夫か?」

「あー・・・全然大丈夫、ちょっと気が抜けただけだから。」

 恐らくこの時のリオは全然大丈夫な顔をしていなかっただろう。言葉は返せても頭はうまく働かせることが出来ない。こういうことは前にもあったような気がする。ゆっくりとゼノンの腕を借り立ち上がるとティファがコンタクトルームに連絡を取っている所だった。

「えぇ、討伐は成功したわ。あと一分で戻れるから。」

 通信を切るとティファはリオの側までやってきて握手をするように手を差し伸べた。

「まずはお疲れ様。それとありがとう。まさかリオに助けられるとはねぇ、私も瞬発力が落ちたわ。うそうそ冗談よ、でも本当に助かった。これであなたも一人前の討伐隊員ね。」

 そう言いウインクをした。リオはティファの手をギュッと掴み笑顔を向ける。頭の片隅ではハルトに言われた言葉がグルグルと巡っていた。それが頭を完全に支配してしまわないように、必死に平静を保つ。

(とにかく任務は無事遂行できたんだ。)

 本当は心の底からこのことを喜びたかった。あの時言われた彼の言葉など忘れて。

『君は俺と同じ、戦うために生まれてきたんだよ。』

 リオの頭上には無数の本物の星たちが瞬いていた。

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