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第一ステージ  未完成な天使(三)

 頭上で甲高い電子音が聞こえる。布団の中から手を伸ばし音の主を探すが見つからない。結局寝ぼけ眼で体を起こしきっちりとボタンを押した。リオは知らない部屋で目を覚ました。一瞬頭の中が動転したがすぐに昨日の出来事を思い出した。

(そうだ、私は昨日死んで今ここにいる。)

 変な表現だと思ったがリオにはその表し方しか出来なかった。

顔を洗い、綺麗にクローゼットに掛けてある制服を身にまとった。そしてしばらくするとティファとゼノンが迎えに来た。

「おはよう、リオ。昨日はよく眠れた?」

そう言いティファはリオの肩をポンと叩く。

「ティファさん、おはようございます。はい、しっかり眠れました。」

 リオは無理して笑ってみせた。実はこっちに来たばかりでドキドキして中々寝れませんでした。なんて恥ずかしくて言えるはずもない。リオがあははと笑っていたらゼノンが「ばーか」と頭を殴った。

「そんなでっけークマ作って何がよく眠れましただ。」

 ゼノンにはリオの嘘がばればれだったようだ。

「そうなの?そうよね、いきなり知らない世界に来て爆睡出来るほど誰かさんと違って図々しくないわよね。」

「おいこら、その誰かさんを言ってみろや。」

 二人は今にも取っ組み合いそうな程火花を散らしている。本当に仲がいいんだか悪いんだか分からない。リオが間に入って「まぁまぁ、あっ朝食なに食べましょうねぇ」などと本当にどうでもいいことを聞いて二人をなだめた。

 その時ふとリオの中でデジャブを感じる。こんなこと前にもやっていた。リオがまだ生きていた頃、そう現世界でも確かにこの光景をよく目にした。

 あちらでは喧嘩をする父と二番目の兄の仲裁をする、それがリオの役回りだった。父と兄は二人とも負けん気が強く、頑固だったためよく言い合いになっていた。そう、ティファとゼノンの様に。リオはなんだか懐かしいことを思い出した様にふっと笑った。

 そんなことをしてるうちにいつの間にか三人は食堂についていた。

 食堂にはティファたちと同じ制服の人たちと、もう一つ別の制服の人たちが多かった。ティファと同じ制服の人たちがMEGAMIの討伐隊(実際に現世界に行き戦う人)で、もう一つの制服の人たちはMEGAMI本部(機動隊に指令を出すコントロールセンター)の人たちだ。リオはMEGAMIにはこんなに人がいるのかと少しびっくりしたが、この規模のビルを抱えているのだから当然と言えば当然である。

リオは朝食のトーストとスクランブルエッグを早々に食べ終えた。横を見るとゼノンももう食べ終えてタバコを吸い始めている。最後に食べ終わったティファの「じゃあ行きましょうか。」の一言で三人は食堂を後にした。

 エレベーターを乗り継ぎ三人はある部屋に入った。そこは会議室の様な所でティファはホワイトボードの前に立ち、リオとゼノンは椅子に座った。隣にいるゼノンが小さな声でリオに耳打ちする。

「あいつ人に教えるときはまじ鬼だから逆らわねぇ方がいいぞ。」

 リオはゴクンと生唾を飲み込む。まぁ元々逆らう気など毛頭ないのだが。その様子を見てティファがいつの間にかけたか分からないだてメガネをクイッとあげた。

「それじゃあ今からMEGAMIについてみっちり教えていくわね。まずリオ、この前簡単に人間とMEGAMIの違いは説明されたわね。人間と違いMEGAMIは特別な能力を備えているの。まず浮遊することが出来る、それは私たちに備わっている氣によって出来る業よ。人は誰しも体の周りにはオーラがまとっているの、まぁ知らず知らずのうちに垂れ流しちゃっている感じなんだけどね。その氣を止め集中させれば氣の圧力だけで浮遊することが出来るわ。氣を上手くコントロールするの。普通の人間にはそんなこと出来ないんだけどMEGAMIなら簡単にやってのける初歩中の初歩の技よ。」

 オーラ?氣?そんな目に見えないものの話をされてもリオにはさっぱり訳が分からなかった。

「まぁ多分口で説明しても分からないと思うし、実際見せましょっか。ゼノン、氣を全開にしてリオの隣に立ってちょうだい。」

「ったく、俺は実践台かよ。これやると腹減るんだよなぁ。」

 ぶつぶつ文句を言うゼノンにティファの鉄拳がとんだ。

「・・・ってぇ。くそ、リオ一回で覚えろよ。」

 そう言うとゼノンの周りにはとてもぴりぴりとした空気が立ち込めた。空気の圧が下がっていくような、とても側にいれる雰囲気ではない。リオは息さえするのがやっとだった。そして彼女は初めてゼノンのことを怖いと思った。

「よーし、そんなもんでいいわ。ありがと。どう?なんとなく氣ってものが分かったかしら?まぁゼノンの氣には邪気が満載だからねぇ、ちょっと嫌だったでしょ。」

 リオはいつの間にかその場で腰を抜かしていた。そんなリオにティファは手を差し伸べて椅子に座らせる。

「ティファてめぇ馬鹿か。氣をしらねぇやつに俺が氣をぶつけたらどうなるかぐらいわかんだろ。手加減しなきゃこいつ今頃死んでるぞ。」

「あら、ゼノンだったらちゃんと加減してくれると思ってたわよ。それにこうやるのが一番氣について分かるじゃない?」

 氣についてはティファのスパルタでよく分かった。確かにもっと強い氣を飛ばされていたら私は死んでいたかもしれない。リオはそう考えると少しぞっとした。

それからリオは氣を止めたり開放したりの練習や、バクについてのことを勉強した。毎日毎日朝から晩まで練習をし、一週間もすれば自然と氣を操れるようになっていた。まぁそれはティファの激しいスパルタ教育とゼノンによる酷い罵倒による賜物だと思うけれど。そのせいで体はボロボロだったがなぜかリオの心は満たされていた。思い返せばこんなに何かに没頭したことってないかもしれない。練習を始めて七日目にして初めて浮遊訓練場に案内された。浮遊訓練所は体育館程の大きさの所だった。しかし天井は物凄く高く、至る所にネットや障害物が置いてある。

 なんでもここと現世界以外で浮遊することは固く禁じられているらしい。

「さぁて、リオも随分氣のコントロールが上手くなってきたわね。今日からはさっそく浮遊訓練を開始するわ。」

「・・・ったく、かったるい座学にも飽き飽きしてたとこだ。っかぁー久々に飛べるぜ。」

 ゼノンはそう言いとても嬉しそうな顔をした。

「それじゃあリオ、氣を自分の真下だけに集中させて。その氣を下だけに放出させて浮くのよ。」

 リオはティファに言われた通り自分の真下に氣を送った。足元が熱くなってくることを感じる。そしてより強く氣を解き放った。その瞬間リオの体は少し地面から離れ、浮いた。

「よしよし。上手いわよ、浮遊の基本はそんな感じね。もっと強靭な氣を送ることによってより高く飛ぶことが出来るわ。あの馬鹿みたいにね。」

 ティファが見上げている先を見るとゼノンが空高く悠々と飛んでいた。それも物凄いスピードで。「すごい」リオは思わず賞賛の言葉を口にしていた。そして体を浮かせるだけでも物凄く体力を消耗してる自分自身がみっともなくなった。

「ゼノンは実践においてはピカ一なのよ。まぁ、あれも才能ね。きっと浮遊に関してゼノンの右に出るものはいないわ。」

 珍しくティファがゼノンを褒めている。その顔はとても優しく微笑んでいた。

「さっ、リオもあそこまではいかなくていいけどもっと練習しなきゃね。」

「はい、頑張ります。」

 リオはそれから五時間ずっとティファの厳しい訓練を受け続けた。



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