第一ステージ 未完成な天使(二)
この超高層ビルはリオなんかが考えてる以上に物凄いものだった。ビルの中にはレストランに映画館、ジム、プール、美容院、ショッピングモール、飛行場、温泉にボーリング場などなど。そしてMEGAMIの宿舎が入っていた。
MEGAMIの宿舎は地上120階より上にあり、そこは他のフロアとは違い頑丈なセキュリティによって守られていた。そんなに危険なことがあるのだろうかと思うくらいだが、セキュリティが厳しいに越したことはない。ティファは120階に着くとカードキー、声帯認証、指紋認証、暗証番号をクリアしてエレベーターを降りた。
エレベーターを降りるとそこはたくさんのドアがズラっと並んでいた。
「このフロアには20室の部屋があるわ。リオの部屋は一番端の1220号室よ。私の部屋は125階だから何かあったら訪ねてきてね。はい、部屋とエレベーターのカードキー。また夕飯の時に迎えに来るからあんまり遠出しちゃダメよん。」
そう言うとまたいつものウインクをした。
「癖・・・ですね。」
ティファは面食らった様な顔をして「なにが?」と言った。
「・・・ウインク。」
リオが申し訳なさそうに言うとティファは顔をくしゃっとして笑った。
「あは、そうかも。分かりやすいでしょ?じゃ、また後でねーん。」
なにが分かりやすいのかは分からなかったが、ティファはそう言い残し手をひらひらさせながらエレベーターの中に消えていった。彼女といるとなんだか安心する。そう思ったのはリオが新しい部屋に入りすこし落ち着い頃だった。
リオの為に用意されたこの部屋は、リビングルーム、ベッドルーム、バスルーム、トイレ、キッチンの1LDKである。しかしリビングはおそらく15畳近くあり、一人ではとても広く感じた。家具も家電も備え付けてあり、特に自分で用意するものはないようだ。
洋服もクローゼットの中に用意されていた。ティファが着ていたものとデザインが似ていたから、おそらくそれが制服なのであろう。ずらっと並んだ同じ服の中の一着を手に取りとりあえず着替えてみる。
全身鏡の前に立ってみると、そこにはリオにとてもよく似た女が映っていた。まだ真新しい制服に身を包み、どっちかというと服に着られている。その女が真っ直ぐこちらを見ている。
リオは鏡の中の女に向かって手を振ってみた。そうすると同じ様に女が手を振り返してくる。
そこにいたのは紛れもなく自分自身であった。それを確認したのと同時に、何をやっているんだろう、というため息がこぼれた。自分は自分であって何者でもない。そんなこと分かっているはずなのに、リオには今自分が何者なのか分からなかった。
この世界で自分は何者なのだろう。なんのためにここにいて、死んだはずなのになぜ生きながらえたのだろう。テレビの向かいに置いてある黒いソファに力なく倒れこむ。「特別」ノアの言ったこの言葉がいつまでもリオの心に引っ掛かっていた。
軽くシャワーを浴び、大してよくわからないテレビを見て時間を潰していると部屋のチャイムが鳴った。急いでドアを開けるとそこにはティファともう一人、この世界に来て初めて見る人種が立っていた。
「リオ、遅くなってごめんねー!こいつがいつまでもぐずぐずしてるからさぁ。」
「んだよテメェ!俺のせいかよ!俺は別に行きたくねぇっつただろうが。」
ティファの隣には背が高く、すらっとした男が立っていた。銀色の若干伸びた髪と深い碧眼を持ちとても綺麗な顔立ちをしている。この世界には顔の整った人間しかいないのだろうか。しかしそんな綺麗な容姿から想像できないほどに口が悪い。
「いつまでも怒ってんじゃないわよ。リオ、紹介するわね。こいつは私たちと同じMEGAMIのゼノン。ほら、あんたも自己紹介しなさいよ。」
ゼノンはティファに促されて渋々リオの方を向いた。
「チッ・・・ゼノン・ナノ・マクディケイドだ。」
それだけ言うとまたリオから視線を外した。
「あっ、リオ・クロディオールです。よろしくお願いします。」
リオも名前だけ簡単に言うとティファが間に入った。
「ごめんねー、こいつ口悪いし人見知りなもんだから。慣れてくれば結構べらべらと喋るのよ。」
ティファが笑ってそういうと、怒ったようにゼノンが割って入った。
「うっせぇぞババァ!余計なこと言ってんじゃ・・・」
ガコンッ。
鈍い音と共にゼノンがしゃがみこんだ。ティファが銃のおしりでゼノンの頭を思いっきり殴ったのだった。床でゼノンが悶えている。
「ゼノン、言っておくけど私まだピッチピチの28才ですからね。さっ、リオ行きましょ。」
そう言い、ティファはすたすたとエレベーターに向かって歩いて行った。リオはティファって28歳なんだ、と思うと同時に怒らせると怖いということを悟った。
三人は所謂社員食堂に入った。そして各々に注文を済ますとまずリオが口火を切った。
「それにしてもびっくりしました。」
ティファがアイスコーヒーを飲みながらハテナな顔をした。
「MEGAMIっててっきり女の人しかいないかと思ったから。男の人でもMEGAMIなんですね。」
そう言うとゼノンがまたチッと舌打ちをした。そして自ら説明し始めた。
「あんた何も聞いてねぇんだな。・・・MEGAMIっつーのはな、女に神の女神じゃねぇんだよ。局長も最初から説明しとけっての。MEGAMIはmeasureless mindset gatheringの略称だ。まぁ語呂良く頭文字は並び替えてあるけどよ。無限の可能性持ったやつらの集まりって意味らしいぜ。別に俺はそんなつもりでここにいるわけじゃねぇけど。ったくなんで俺がこんなこと説明してんだか。」
ゼノンはMEGAMIの意味を言い終わると何かぶつぶつと言いながらタバコを吸っていた。リオはてっきりそのままの女神の意味を考えていたからこれには少し驚いていた。それじゃあ男の人がいても全然不思議ではない。ティファが「よく言えました」と微笑むとまたゼノンが「うるせぇ」と悪態ついている。二人にとってはこれが最大限のコミュニケーションなのだろう。ティファがゼノンを輸すと今度はリオに話しかけてきた。調度頼んでいた食事が来た頃だった。
「MEGAMIはね、この三世界を上手く回していく重要な役割をしているのよ。リオがMEGAMIに選ばれたこと、胸張っていいわ。そりゃバクとの戦いは壮絶だし、大変なこともいっぱいあるけど私たちはもう家族同然なんだからね。私たちの他にもMEGAMIはたくさんいるからこれから順次会えると思うわ。まぁ多分一番多く会うのはこの三人だけど。」
「どういうことですか?」
リオは頼んだハンバーグを切る手を休め話に食い入る。
「私たち三人はチームだからよ。私は一応リーダー。こいつと二人だとどうもいがみ合いになっちゃってねぇ、リオが来てくれて助かったわ。」
なんとなくその意味は理解できた。今までの流れを考えてみるとティファとゼノンじゃ話が前に進まないだろう。ゼノンは確かに口は悪いが根っからの悪いやつという感じはしなかった。だって悪いやつだったら色々説明とかしてくれる訳がない。
リオはどっちかというとあまり感情の起伏がない方だから調度中間に立てるのだろう。まぁそれもそれで大変だと思ったが、リオは不思議と嫌だとは思わなかった。
「明日はもっと詳しいMEGAMIの説明と、浮遊の仕方を教えるからね。ゼノンも復習がてら付き合いなさいよ。」
「はぁ?まじかよ。ったりーな・・・」
そう不満を漏らすゼノンにティファのパンチが飛ぶ。リオは自分にせいで説明につき合わせてしまうことが申し訳なくなってゼノンに謝った。
「・・・別に、あんたを責めてる訳じゃねぇよ。あとチームでやる以上まどろっこしーからタメ口にしろ。俺口わりぃからよ、なんか言われてもあんま気にすんな。」
ゼノンはそう言って明後日の方向を向いた。やはり悪いやつではないらしい。その言葉を聞いてリオは少し安心した。なんとなくこの時はこのチームでやっていける気がしたのだった。
食事を済ませ、三人は各々の部屋へ戻った。ティファが明日は朝早いからよく寝ておくようにと念を押す。リオは今日は色々なことがあって疲れたからよく眠れるだろうと思い布団に入った。元々寝つきは良い方で、枕が変わると眠れないなどという人が理解できない程だ。しかし今日聞いた色んなことが頭を巡りなかなか睡魔が襲ってこない。寝なければと思えば思うほど目は冴えていく。結局眠りにつけたのはアラームの鳴る二時間前だった。




