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(この件が済んだら、心おきなく進めるのだが)
頭中将も、さすがに落すのに手のかかる姫と、恋敵を追い落とすのを同時進行させるのは、やりにくい。
だから、美香子には家に来てもらってから、あまり会いに行ってない。家移りしたのを気づかってと、という言い訳をしてある。
(最近も、挨拶程度しか行ってない。あの美しい顔が見たいのに)
分厚い神経ではある頭中将だが、繊細な部分も持ち合わせているのである。
「あら、兄様、何をしてなさいますの?」
頭中将が北の家屋で、その人物が来るのを待って、渡り廊下で庭を眺めていた時だ。
頭中将のいる渡殿を通りかかったがいる。
妹の亜子だ。毎日、この渡殿を通って、お琴のお稽古室へ行く。その途中だった。
「いや、ちょっとな」
兄の不審な背中を見つけて近づいた妹は、渡殿の端まで来て、兄を観察した。右大臣家の息子として、目立つ兄者の姿は常に見ていて飽きないからである。
その時、ふと目をやった時に、頭中将の向こうで立っている受領の姿に目を止めた。
「あら、あの方、誰?すごく素敵な人」
遠目からでも凛々しい若者だった。若い娘の亜子が気に入るのも当然だった。
「ああ、近江の地方官なんだ、一応、私の知り合いと言えば知り合いだ」
「いいじゃない、兄様のお知り合い。私にも紹介して」
「はっは。何を言っている、亜子。お前は右大臣家の娘、大納言殿の御子息に気に入られてたじゃないか。お前の家の格式は軽々しくない。下級貴族などに嫁ぐことなど出来やしない」
「いいえ、違うわ。どの方とも私はお付き合いしない。私が気に入る者しか付き合わないの。あの男性なら、私はいい」
「と、言ってもな、さすがにあの下位の者となると」
「私は右大臣家の娘。欲しいものは何でも手に入る、右大臣家の娘なのだから」
「まあ、うちが高級官吏に取り立ててやれば、いいが」
さすが、頭中将の妹である。気に入ったものは必ず手に入れる。頭中将と同じである。さすが我が妹、さすが右大臣家の血筋と言おうか。
(よし、やった。これで一つ、カタつけられるかもしれない)
亜子が受領を見て、すっかり気に入ってしまったのを見て、しめしめと頭中将は思った。
こうなったら、これを利用するまでである。
その日から、亜子が「あの受領が欲しい」と言い出した。頭中将は亜子のするままにさせておいた。
亜子が父である右大臣に要求するのを知っていたのだ。
右大臣も可愛い娘の言うことだ。日々訴えるものだから、最初は反対したのだが、せっかく亜子が結婚する気になっているのだからと、前言を翻したのだった。




