第八十七話 おもい
「わはぁ!」
ミランスは手を叩いて喜んだ。
瞳がキラキラ輝いている。
ダレ?
扉の前には青年が立っていた。
その青年はスタスタとこちらに向かって歩いてくる。
「ミランスはオレのパートナーだZO! なにを寝言を言っているんだYO」
青髪マッシュ。
丸いサングラス。
真っ白な布マスク。
薬局の人みたいな白衣。
……めちゃくちゃ怪しいんですけど。
顔もほぼでてないから、どんな表情なのかがわからない。
反論しようとしたが、言葉がでてこない。
青髪男は僕の前に立って手のひらを前にだす。
「オレはディートだYO! ポロゼ出身のモテ男だZE☆ よろしく( ´ ▽ ` )ノ」
握手を交わし、笑顔を見せ、大団円!
……にはならなかった。
「ミランスのお供はオレDA! だって抽選で選ばれたからNA!」
HAHAHAと高笑いするディート。
その周囲では
「ディート様さすがです!」
「ディート様イケメン!」
「ディート様かっこいい!」
などとディートを支持するような声が聞こえる。
……こいつが、ミランスのお供なの?
ポロゼ出身って言ってたし、僕の記憶が正しければきっと悪の組織のメンバーだった人だよね。
そしてノッカさんの想い人……。
「ミランスのお供は僕! だって実際僕がミランスと冒険したんだ! ミランスのことは僕のほうが知ってる。……そしてディートを支持してる人たち、よく考えてみてよ。この人をイケメンと支持するのはおかしくないですか!? だってマスクとサングラスで顔のパーツ見えてないんですよ!? だったらまだコ○ンの犯人の方が顔見えてるからね!?」
僕の脳裏には探偵物のアニメに出演していた、真っ黒なあいつがでてきた。
玉座の間は静けさに包まれる。
「僕はレン。噂のゲーム好きとは僕のことだよ。攻撃はミニアンブレラっていう天下一の武器を持っているんだ!」
「……なんか、いろいろ盛ってない?」
後ろにいたルロがボソッとなにかを言っていたが、気にしない気にしない。
「ディート。キミはミランスのことをどれだけわかっているの? 多分その知識は僕のほうが上だ」
「オレも知ってるZE! 女、勇者、王様の娘、双子の妹、回復魔法しか使えない……こんなところDA!」
ディートはフンッとふんぞり返るような態度をとったが、そんなんじゃミランスをわかったとは言えない。
「ミランスはかりんとう饅頭が好きなんだ。あと山吹色が好きで、卵焼きはしょっぱい派。そしてコーヒーが苦手で……」
「なんで知ってるの……」
しゃべればしゃべるほどでてくる。
それだけミランスのことを知っているんだ。
ミランスのことは僕が一番わかってる。
ミランスを一番想っているのは僕だ。
誇らしくなってなんだかドキドキしてくる。
「レンさんお見事です。しかし見てください、ミランス様のことを」
執事が僕のことを見つめて言った。
彼の瞳には温度がない。とても軽蔑しているようだ。
ミランスに目をやると、心臓が大きく跳ねた。
だって、──怖がってる。
それも僕を怖がってる。
僕と目が合うと、怯えたように目をそらした。
「あなたがミランス様のことが好きなのは伝わってきました。でも、重い。これは一途でもなんでもなく、重たいんです」
「別に、そんなっ」
「あなたにそんな気がしなくても、こちらはみんなそう感じているんです。重いですよ、レンさん。必死さが伝わってきて嫌です」
そんなつもりは……っ。
周りを見るとみんな僕を気まずそうに眺めている。
兵士も、ディートも、執事も、王様も、ミランスも。
なんだか急にいたたまれなくなってきた。
そんな僕に王様は釘を刺した。
「お前さんのミランスへの愛は回り回って、結局はエゴなんじゃないのか?」
なんにも言えなかった。
だってその通りだから。
ホントにミランスのためを願うなら、ここで一歩引くのが愛だ。
でも僕はミランスと旅をしたいというワガママでまだ玉座の間に立っている。
これは紛れもなく自己愛だ。
「ちょっと訂正」
凛とした声が後ろから聞こえた。
……ルロだ。
ルロが僕の前にでる。
「確かに、この人は必死よ。あんたらが恐怖を感じるのもわかるわ。でもね」
ここで言葉を切って、僕を指差した。
「こいつは……、レンは! 本気でミランスに会いたがっていた! レンはドルーゴーリマに向かうとき、ずっとニコニコしてた。たまに『大丈夫かな』とか不安な表情になったりして、ずっとあんたのことを考えてたのよ」
ルロはミランスを見つめた。
ミランスは驚いたような顔をしてうつむいた。
「レンはケルベロス車に乗ってる間、ずぅーっとあんたのことを考えてたわ。悔しいくらいよ! あたしは嫉妬でどうにかなっちゃいそうだった!」
「ルロ、ごめっ」
「今さら謝らないで! もう遅いのよ。そんなことより、レンはエゴだけじゃないのよ。あいつはずっとあんたにどうしたら喜んでもらえるかをずっと考えてた。『ミランスはドルーゴーリマで売ってるナルトッツォが好きだから、買ってあげたいな』とかずっとあんたを喜ばせようとしてた!」
ルロは止まらない。
彼女の放つ言葉に複雑な気持ちになる。
「あんたは、それを重いって言って突き放すんでしょう? 必死さがあって嫌だって言ってあいつを絶望させるんでしょう?」
「うぅ……」
ミランスは悲しそうに声を漏らした。
それがとても申し訳なくて見ていられなくなった。
「ルロ、ありがとう。もう大丈夫だよ」
そう言ってミランスに近づいた。
「あの、ミランス……ゴメン」
「わたしこそ、ごめんなさい」
「ミランスは謝らなくていいよ。僕が悪い」
ニカッと笑って見せた。
作り笑いだとバレてしまったのだろうか?
ミランスは黙ってうつむいた。
それがなんとなく嫌で、ルロには申し訳ないが回れ右をしてルロと玉座の間を後にした。
……なんか気がついたらエゴに走ってるときってありますよね。
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