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第八十三話 価値

「あー、つかれたぁー」


 楽しかった(?)遊園地も終わり、ルロとディナー中。

 結局のところ誘拐犯は白だった。

 詳しく言うと、女の子が三歳にしてすんごいドMで、お金を払ってまで被害者役をやりたかったらしい。

 だから誘拐犯役を雇って、誘拐される女の子を誠意一杯演じたんだって。

 いや、どっちも演技が上手すぎるのよ。

 観覧車まで止められたら信じちゃうって。

 ホントにさ! なんなのって感じでルロは遊園地にいる間、ずっとピリピリしてた。

 もちろんツンデレ地帯の雲行きが怪しかったのは言うまでもない。

 とかなんとか言ってるけど、結構楽しかった。

 すごく楽しかった。

 もう一生こんな感じで暮らしたいくらいだ。


「手が止まってるわよ」


 ルロに言われて、フォークをにぎり直す。

 ……そう言われても、お皿の上にあるのは超高級料理っぽい。

 なんか食べるのを思わず遠慮してしまう。

 料理名が……なんだっけ?

 確か『ローストドラゴン』みたいな感じだった気がする。

 異世界ではドラゴンも食べるんだね。

 捕ってくるの大変だっただろうなぁ。

 やっぱり感謝の心は忘れずに食べないとだね!


「……う、うまっ!」


 一口食べて驚く。

 ローストドラゴンは思った以上に美味しかった。

 表面は固いんだけど、内側に行けば行くほど柔らかい。

 肉汁はさっぱりしていて、甘くとろけるような味がやみつきになる。

 後味にほんの少し辛味を残したのがとてもいい。

 あー、美味しい。美味美味。


「美味しそうに食べるわね」


 ルロは少し嬉しそうに笑った。


「うん」


 完食してしまうのがもったいないので、ゆっくりゆっくり食べる。

 なんならルロよりあとに食べ終わりたいから、ルロの食べるペースをチラッと確かめる。


「……またこんな風に遊べたらいいわね」


「えっ」


 ルロが素直だったもんだから思わず目を見開く。

 黄昏効果みたいな感じかな。

 判断力が鈍って……みたいな!

 いや、お酒に酔った?

 でもルロはりんごジュースしか飲んでない。

 さすがにりんごジュースで酔うなんて聞いたことないし……。

 おろおろしてるとルロはいたずらっぽく笑った。


「あたしだって正直なときは正直よ」


「そ、そうなんだ」


 それでもルロが甘えてくるときなんて、見たことなかった。

 ちょっと反応に困った。

 僕が笑顔を作っていると


「好きです、結婚してください」


 隣の机でプロポーズが行われていた。

 男の人はひざまずき、小さな箱に入った指輪を女の人に見せる。

 そして女の人は泣きながらうなずいた。

 温かい拍手がお店を包み込む。

 ここにいるみんながこの状況を祝福した。

 おめでとう、とみんな微笑みあう。

 しかし、僕の向かいに座っている人だけは苦々しい表情で夫婦を眺めていた。


「あたしに見せつけるなんて、嫌がらせがすぎるわ」


 悪態をつけてため息をこぼすのはルロだ。

 彼女はうつむき、口を開く。


「どうせあたしなんかを愛してくれる人なんていないのよ。あたしなんか、最後は政府に解体されて終わりだわ。あたしだってダレかと愛し合って暮らしたいのに。大好きな人と毎日を送りたいのに……」


「ルロ」


「あたしだって欲しくて天気神の能力をもってるわけじゃないのよ! あたしだって好きで天気を操ってるわけじゃないのよ! なのに、なんであたしが……!」


「ルロ」


「あたしもみんなと遊びたい。みんなと友達になりたい。なのにどうして差別をするの? ……当たり前よ! 天気神だからよ。高圧的だからよ。偉そうだからよ。ひねくれてるからよ。あたしの嫌なところなんて、無限に出てくるわ。だからダレもあたしと仲良くしたがらないのよ!」


「ルロ」


 ルロにやっと僕の(こえ)が届いた。

 その瞬間ルロは怒ったように涙が一筋流れた。


「あんただって、あたしを助けてくれない!」


「そうだよ。ごめんね。僕は優しくないからみんなを幸せにはできない。僕は僕として生まれてきたから、一回しかない人生だから自分の幸せを一番にしてるんだ」


 ここはどうしようもない。

 僕だって他人のためばっかりに生きてられない。

 ルロは僕の言葉を聞いて悲しそうに肩を落とした。


「そう、なのね」


「そうだよ。だからルロにも自分を大切にしてほしいな」


 僕の言葉に、ルロは「え?」と首をかしげた。


「それは、どういう……」


「これ」


 僕はお財布から千円札と五百円玉を出してルロに見せた。

 ルロは食い入るようにお金を見る。


「なにこれ」


「僕がすんでた世界のお金だよ」


 でも僕は圧倒的キャッシュレス決済派だから、あんまり現金を持ち歩いてなかった。

 ニコニコ現金払いのお店で、お財布をもってないとすごく泣きたくなるような気持ちに襲われる。

 ……そんなことはともかく!


「ルロはどっちが好き?」


「この丸いのとおっさんが書かれてる紙のどっちが好きかって?」


「うん」


「もちろんこの丸いほうよ」


 ルロはそう言って五百円玉を指した。

 やっぱり。


「僕の世界ではこの丸いほうより、こっちのペラペラの紙のほうが価値が二倍高いんだ」


「え!?」


 ルロがいい反応をしてくれたので、嬉しい。

 純粋に嬉しかった。


「ウソ! だってこっちのほうが金キラキンでキレイじゃない! おかしいわよ。丸いほうが価値があるに決まってるわ」


「……でも、それはルロがつけた価値でしょ?」


 ルロはハッと息を飲んだ。


「ルロも自分自身の価値のつけ方を変えると楽になるんじゃない?」


「え?」


 彼女はポカンとして僕を見る。

 そんなルロに僕は会心の笑みをお見舞いした。


「僕はルロのこと嫌なやつなんて思ってないよ。……いや、たまに思うけど。ま、そんなことはおいといて! 僕から見えてるルロはカッコいいよ。自分の意見をはっきり言えて素敵だし。だから少しだけでもいいから、自分の価値をつけ直してみてよ」


 僕はニカッと笑って見せた。

 ルロの時間が一瞬が停止したようにフリーズした。

 それから彼女はつり目を細め、瞳の奥から込み上げる温かいものをこぼした。

 そしていつものようにちょっとだけ気取ったようにした。


「わかったわ。仕方ないわね、あんたがそこまで言うならやってあげてもいいけど?」


「やってよ。ルロが笑ってくれると僕も嬉しいんだ」


 深くうなずくと、ルロは「バカ」と僕を見て笑った。

 僕も気がつけば奥歯を噛み締めないと危うい状態だった。


「レン」


 ルロはためらうことなく僕の名をつぶやいた。


「……やっと、だよ。まったく」


 ルロと僕ははにかみあった。

 それがただ嬉しくてどれくらい経っていたかはわからない。

 でも、確かなのは僕が感動に浸ってる間にルロにローストドラゴンを食べられたことだ。

ルロちゃんが笑顔でいてくれたら風音も嬉しいです!!!


お読みいただきありがとうございます!

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