第八十二話 ルロ
きぃ……きぃ……
観覧車に乗って揺れる揺れる。
今さらだけどさ、僕って高所恐怖症気味なんだよね。
あはは、まぁ、うん。ジェットコースターがいけたし大丈夫でしょう。
「あんた、気になってるんじゃないの?」
向かいに座っているルロが聞いてきた。
ちょっと怒っているようだった。
「……気になってるってなにが?」
「そういうしらばっくれて気を使われるの大ッ嫌い」
えー、なんか怒られた。
ホントにわかんないんだけど。
ポリポリ頭をかく僕を見て、ルロはため息をついた。
「政府の話よ」
「政府? ……あ、トネさんが脅されたっていうやつ?」
ルロは無言でうなずいた。
確かに、政府に脅されるってどういう状況か少し気になるけど……。
「でもそこまで気になってないよ」
「え? ウソでしょ?」
「ウソじゃないよ」
だって前回ルロと旅をしたとき、そんな情報がなくても普通にやっていけたもん。
だから別にいいかなーって思ったけど……。
いや、もしかしたらよくないかも。
ルロの自己肯定感が低いことに関係してるかもしれない。
どうしてルロが愛されたいと思ってるのか。
それに関係あるかもしれない。
「やっぱり今さらだけど気になる」
「……あっそ」
ルロは素っ気なく僕から視線をそらした。
そしてまた僕に目をあわせた。
「教えてあげてもいいわよ」
ルロの瞳は揺るがない。
僕の目を射貫くように、真剣に向き合っている。
その気持ちに僕も答えたくて、深くうなずいた。
「天気神の話って知ってる?」
「ルナさんのこと?」
「よく知ってるわね」
ルロに珍しく褒められ、自分でも頬に熱を感じるのが伝わってくる。
「あたしもルナとおんなじ能力を引き継いじゃったみたいなのね」
ため息をつき、ルロは困ったように笑った。
ルナと同じ能力ってあれだよね。
ツンデレ地帯の天気を、文字通り『気分』で操れるっていう。
「だから政府があたしを狙ってるの。ツンデレ地帯が迷惑だからって、殺そうとしたり、解体しようとしたりしてるって」
「ひどい……」
「でも一応大丈夫よ。政府と、ある契約であたしの自由は保証されているから」
ルロは笑って言った。
でも彼女の表情は、楽しそうのいうよりかは寂しそうだった。
「天気神の能力は、ダレかと愛することができれば消えるのよ」
『愛』。
絶対今からルロの核に触れる。
そう思って身構えた。
「だから政府は、相思相愛になれる人を二十歳までに見つけなさいってあたしに言ったの。それが契約」
なるほどね。
そういう契約で結ばれていたのか。
「だからあたしはダレかに愛されなくちゃいけない。ツンデレ地帯のみんなに迷惑かけてるんだから、早くダレかに愛されないと……! もとから存在意義がないあたしが相思相愛になれるわけがないのよ。あたしを愛してくれる人なんているわけがない。そんなあたしをダレか早く愛して、愛して、愛して!」
ルロの相思相愛作戦は、あれだ。
『愛してくれたらこっちも愛します』作戦かな。
きっと自分がアプローチをしても振り返ってもらえない。
だから自分を愛してくれる人を愛す。
そういうことじゃないかな。
……だから愛に餓えてるんだ。
僕に愛して欲しかったのも、そういうことだったんだ。
ダレでもよかったんだなぁ。
ちょっと切ない。
ルロが軽々しく『愛』について語ろうとしないのは、そういうことだったんだ。
これまでのルロの行動に合点がつく。
「あ、跳び移るわよ」
隣の観覧車に、黒ずくめの人と小さな女の子がいた。
観覧車の扉を簡単に開け、ルロは隣の観覧車へとジャンプする。
えぇぇぇぇっ。僕運動神経皆無だから落ちる気しかしないんだけど。
っていうかこれ運動神経とかの問題じゃないよね!?
下をみれば、人はみんな豆粒サイズ。
ヒィィィッ。怖い。
「あんたはそこで待ってなさい。少女を受け取ってもらうから」
は!? 女の子を投げるってこと!?
ルロさん! あなたがクレイジーなことは知ってたけど、まさかここまでとはね。
でも力強く指示するルロはカッコいい。
「ルロ大丈夫だよ。じゅうぶん素敵。キミならダレかに愛してもらえるよ」
僕の言葉に、ルロは驚いたように目を大きく開いた。
「感謝するわ。ありがと」
そして誘拐犯がいる観覧車に入っていった。
……どうしてこんなにも楽々とできるもんかねぇ。
そう感嘆の息をもらす僕には、
「──でも、あんただってあたしのことを愛さなかったくせに」
といたずらっ子のように笑うルロを知らなかったのでした。
ルロちゃーん、風音はキミのこと大好きだぁぁぁ
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