第八十話 蹌々踉々
マリーゴールドスープ地獄からなんとか抜け出し、遊園地へやって来た。
あまり混んでいないので嬉しい。
氷のコーヒーカップ、氷の回転木馬、氷のジェットコースター……。
この遊園地は、乗り物が全部氷でできていてツンデレ地帯らしい。
僕の個人的な感想としてはアトラクションに乗らなくても、氷の遊具たちを見てるだけでも楽しい気がする。っていうか乗らない方が楽しい気がする(別にアトラクションが怖いわけじゃないからね!? ほ、ホントだよ!?)
それにしても遊園地なんていつぶりだろう。
中学生の修学旅行で行ったきりかな。
夢の国を自称しているテーマパークだったなぁ。
広すぎて1日じゃ回れるようなところじゃなかった。
それにムダにお土産代や食べ物が高かっ……(以下略)。
意外と帰って思い出してみると、夢を与えてるとか言いつつ現実を与えてくるなぁ。
「あれ乗りましょう」
思い出に浸っている僕にルロは声をかけた。
「あれって……?」
「あれよ」
ルロが指さすのは高いところから真下に落ちていくジェットコースター。
乗っている人が「うぎゃぁぁぁぁぁ」って絶叫してる声が下からでも聞こえる。
「あれに、乗るの?」
「ええ」
当然のようにうなずかれ、ルロはジェットコースターの入り口に並ぶ。
わーん。乗りたくないよー。
なんて泣いても足掻いてもルロに効果はない。
それに一応ルロのお礼として来てるから、僕に拒否権はないんだよね。HAHAHAHAHAHA
悲しい現実を思い知り、とぼとぼ入り口に並んだ。
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みちっ……みちっ……みちっ……
ベルトコンベアの噛み合う音が僕の恐怖心を煽る。
ジェットコースターは傾きながら上昇してく。
あぁぁぁっ。
これどこまでのぼるんだぁぁぁっ?
上まで続くレールが遠く遠く感じる。
心配になってなんとなく隣にいるルロを見たら、なんかめっちゃ楽しそうな表情をしていた。
怖がってない、だと!?
からかうチャンスだと思ったけど、そんな要素は何一つ見当たらなかった。
くそぅ……って、頂上来る!?
ゆっくりゆっくり頂上に向かう。
かと思いきや!
ジェットコースターは頂上の一歩手前で急に速度が弱まった。
待って! 降りたい!
レールの先も下にいる人の大きさもも見えないから降りたい!
うぅぅっ。アーメン。
ガダンッ
ジェットコースターはもったいぶるように斜めを向いた。
恐怖心が襲いかかってきて、思わず安全バーを握りしめる。
ルロがどんな表情か確認しようとした、そのとき。
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ
優しさを見せない急降下のしかたっ。
文字通り真下に落ちていく。
「うぎゃああああああああ」
体が浮き、内蔵がひっくり返るような感覚に陥った。
Gがかかるって言うんだっけ?
うぅぅっ。気持ちが悪い。
吐き気がする僕に構うことなく右回転し、左に上がり、下がり。
「きゃぁぁぁっ」
隣からルロのはしゃぐような声が聞こえる。
おいぃぃっ。ひとりだけ楽しんでずるいぞぉぉぉぉっ!
そして数回転したあと、ジェットコースターは速度を弱めていき、発着場に着いた。
「はぁ……」
シートベルトと安全バーを外し、発着場を出る。
ルロはすっかりご満悦。
「はーぁ。楽しかったわね」
「ノーコメントで……」
スキップで移動するルロを、光の宿らない瞳で眺めた。
あぁぁぁっ。酔いそう。っていうか酔った。
次はゴーカートとか回転木馬とかおこちゃま向けのものに乗りたいな。
「コーヒーカップに乗りましょう」
ルロは僕の右手を握り、コーヒーカップの方へと引く。
コーヒーカップかぁ。微妙。
ルロに連れられ、氷製のコーヒー茶碗に乗る。
正面にいるルロは意地悪そうな表情でハンドルを握った。
うわー、嫌な予感しかしない。
「では、動きまーす」
とぅるるるるるるっ
動く合図が聞こえ、身構えた瞬間っ!
ルロはハンドルを豪快に回しだす。
うあああっ。周りが見えないよ。
残像と化した景色に吸い込まれてしまいそうだ。
前を見るとルロは歯をくいしばって回してる。
そんなに頑張らなくてもいいのに。
コーヒーカップのふちに捕まりながら、遠心力で首がもってかれそうになる。
とぅるるるるるるるっ
終わりの合図が聞こえ、コーヒーカップはゆっくり停止していく。
……僕らが乗ってるやつは止まることを知らない。
ずぅっと回転してる。
そんな僕らを見て、スタッフの方は「あとで止めますんで」と回ってるままのコーヒーカップから僕たちをおろした。
「はー、楽しいわね」
ルロが満面の笑みでため息をつく。
いや、全然楽しくないよ! なんでわざわざお金を払って半自殺行為をしたがるんだよ
と言い返そうとしたら、
「うわあああああっ。たすけてよぉぉぉっ。ママぁ、パパぁ」
小さな女の子の鳴き声が聞こえた。
声の方を見ると、四歳くらいの女の子が黒ずくめの人に連れてかれていた。
「行くわよ」
ルロは真剣な面持ちに切り替えた。
ルロちゃんにコーヒーカップでぐるぐるされたい!!
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