第七十三話 記憶のカケラ
レンくんは高二になってまーす。
「あー、疲れた」
学校が終わり、ベッドに飛び込む。
その瞬間、温かく優しい毛布が僕を癒した。
いいよねぇ。溶けちゃいそう。
親に提出しないといけないものとかそれなりにあるけど、いいんだ!
ダラダラしたいときはダラダラするの!
快楽主義者だ。
は! そういえばまだやってないプラモデルがあった気がする。
確かここらへんに……。
ベッドの下をゴソゴソする。
スルッ
「……っ!」
ベッドの下にあったリュックをつかんだら心臓が一瞬凍った。
恐怖心で手をひっこめる。
……多分リュックはあれだ。
高校一年生始まってすぐ使うのをやめたやつだ。
今は新しいのを使ってるんだけど、前使ってたリュックはちょっとヤバかった。
なにがヤバいかっていうと、体がおかしくなるんだ。
頭痛がしたり心臓が急にバクバク早くなったり……。
しまいには女の子たちの声が聞こえる。
女の子たちの声を聞くたびにとても胸が熱くなる。
その声は怖いより切ない。
なぜかわかんないけど、胸がジュワワってなって泣きたくなる。
だからあのリュックは捨てようかなって何回も思った。
だけど、ダメだ。
どうしても捨てたくない。
僕の意思が言っている。
あのリュックは大切なんだ。
根拠はないけど、大切。
だからとっておいてる。
「……なにかあるなら、知りたい」
僕はリュックを膝の上に乗っける。
そうしたら脳の中心がガギンガギンと痛む。
なにこのリュック。
呪いがかかってるんじゃ?
恐る恐るリュックを開く。
中は一回全部取り出したから空っぽのはず……。
手を突っ込んでみると、固い感触がした。
「これ……」
折り畳み傘だ。
普通に折り畳み傘だ。
でも……違う。
普通の折り畳み傘じゃない。
うーん。自分でもなに考えてるのかよくわからない。
でも、なんかすごい……わかんない。
ホントになにこれ。
すごい大事だってわかるけど、なんなのかわかんない。
なのに……
「ミニアンブレラ」
よくわかんないことつぶやいた。
なにミニアンブレラって。折り畳み傘のこと? ダッサ。ネーミングセンスなさすぎじゃん(特大ブーメランよ by風音)。
「うーん……」
まだまだあさる。
頭痛にはなれてきた。
なれたからと言って、決して痛くないわけじゃない。
むしろ痛みは加速している。
「そういえばっ」
八つ橋のストラップってどこにやったっけ?
このリュックにつけたはずなのに……。
『ありがとうございます! 宝物にしますね! 名前は…………もちもちなので……………もっちー! よろしくお願いしますね、もっちー』
そう八つ橋のストラップに語りかける女性が脳裏に映る。
この情景からみて「少女」と言いたいところだ。でも違う。この人はれっきとした「女性」だ。それをなぜかわかっている。
ダレかわかんないけど知ってる。
苦しいくらい切ない気持ちがこみあがってきて、頭を抱える。
胸が疼く。
でも考えるのをやめたくなくて、さっきの記憶を鮮明に思い返す。
あどけないコバルトの瞳。
ミルクチョコみたいな色の髪についた、マリーゴールドのカチューシャ。
雪のように透明感のある肌。
少し低くて丸い小さな鼻。
お餅みたいに思わず食べてしまいたくなる、やわらかいほっぺた。
「ダレ?」
忘れちゃいけない、大切な人。
わかってるけどわからない。
彼女が微笑んでくれて、笑顔を向けてくれてどれだけ僕が救われたか。
そんな状況にあったはずないのに、なぜかあったように思える。
ホントにダレ?
友達?
いや、違う。
『友達になりたいなら、勝手に友達だと思いこんでたらいいじゃない』
また脳内に声が聞こえる。
なにこの図々しい考え方!
そう言いたいけど、なぜか頼もしくて頼りたくなってしまうこの声。
弱音も吐かせてもらって……。
いや! なんの記憶?
そもそもダレなの?
『愛をなにかもよくわからずに語っちゃって、なんか正義にでもなったつもり?』
正論でいつも罵倒してくる。
強くて仲間想いで、心に穴が空いている。
ホントは甘えたいはずなのに強がって……。
重症のツンデレだ。
……ホントになんの記憶?
あふれでるあるはずのない想い出の数々に胸と頭が混乱する。
「ぁう……」
最後にリュックを逆さまにしたらお守りがでてきた。
手縫いで形が荒い。
だからこそ温かい。
焦点が定まらない。
だって、
『レンさんが自分に酔うだけの人間じゃないことくらい知ってます』
『そうですよ! 告白成功率は50パーセントと言われているなかでよく公開告白を選びましたね! ホント、心配したくなるくらいの度胸と頭ですよ』
『迷惑かけてるからって死んでいい理由にはならないです!』
『わたしは優しくない。偽善者なんだよ。ごめんね』
『レンさん! あなたは抽選でわたしのお供になりました!』
「み、ミラ……ン、ス……」
怒涛の勢いで駆け巡る想い出に、さっきまで痛かったところ全てが癒えていく。
しかしまだ全ては癒えていない。
だって多分まだ完全には思い出していない子がいる。
キンパツインテール。
ヒス女。
センスのあるノーデリカシー。
様々なあだ名で愛された……、
『中二病は終わりよ。青二才』
『大切なことは一回しか言わない主義なの』
『いつまでうぬぼれてるつもり?』
「ルロ……」
頭痛も胸の痛みも全て消えて、罪悪感でいっぱいになる。
時間を移動したときに記憶が、消された?
……あぁ、そうだ。
最後は魔王にずたぼろ言われてやられて。
もう、歯が立たなかったんだ。
みんななんにも言えなくて、やられそうで……。
よかった。思い出せてよかった。
天然とツンデレのはにかんだ顔が浮かぶ。
二人とも僕の大切な大切な仲間。
……会いたい。
会いたいよ! 会いたい会いたい!
それに、探しだすって一方的に約束したんだから!
「で、」
……異世界にどううやっていけばいいんだろう。
一難去ってはまた一難。
頭を悩ます問題かと思いきや、案外簡単に解決した。
だってリュックの中には……
「王様からもらった異世界から帰れる魔法具」
があった。
異世界から帰れるってことは、こっちの世界から行くことだって可能なはずだ。
いける! いけるぞ!
会心の笑みを浮かべた。
でもこのとき、僕が絶望の絶頂まで落とされることなんてまだ知らなかった。
いやはや。思い出しましたね
安堵
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