第七十一話 春愁
光が目に差し込んできた。
眩しい。
日差しが暖かい。
どこにいるんだ?
辺りは桜が満開で、風に吹かれて花びらがなびいてる。
僕は……なにをしていたんだ?
記憶が繋がらない。
「おーい、れん!」
後ろから僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
お母さんだ。
珍しく仕事を休んでいたのだろう。
僕と一緒にいる。
お母さんが僕の隣にいるなんていつぶりだろう。
でもどうしてお母さんがいるんだろう?
ハテナマークを頭の上にたくさん浮かべる。
「ええっと……」
今日は高校の入学式……だよね。
身にまとっているのは高校の制服。
立っているのは高校の校門前。
新しいはずのリュック。
……そう、新しいはずのリュックだ。
高校で使うリュックだということで、先週買って部屋に飾ってただけなのに……。
でもなぜかリュックには土や傷がいくつかついている。
なんで……?
思い当たるふしを探してもまったくわからない。
うーん。不良品を気づかずに買ってたのかな?
考えても考えても出てこないので投げ出す。
「れん。お母さんあともう少しで帰らなくちゃいけなくなったから、写真一緒にとろうよ」
「あ、うん。いいよ」
「やったー」
お母さんは無邪気に喜んだ。
おいおい。もう大の大人が恥ずかしい。
僕は少し顔をうつむかせて写真を撮った。
理由はお母さんに恥を感じただけじゃない。
……だって見たことある気がしたんだ。
僕より年上の女の人が子供みたいにはしゃぐところを。
ダレだっけ?
わからない。
思い出せない。
モヤモヤ気持ちが悪い。
「れん。早く体育館に行きなさい。入学式早々遅刻とか恥ずかしいわよ」
お母さんが手をヒラヒラ横に振るので、静かに行くことにした。
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入学式が終わり、教室で教科書が配られるというので、みんな教室に戻っていく。
うーん、密だなぁ。
『密はよくないわよ。感電するからね』
「……っ!」
急にそんなセリフが出てきた。
思わず心臓が跳び跳ねる。
気がついたら額は冷や汗がスーッと一筋流れていた。
なに、これ。
思い出したいのに思いだせない。
頭を抱えても出ることはない。
むずむずしてイライラしてとても嫌だ。
ヘンな気分のまま教室に向かって、席に着く。
先生が来てなにかを話し出した。
もちろん大切な先生の言葉とか全然入ってこない。
だって、もっと大切なことを忘れている気がしたから。
ぼんやりしすぎたのか、もう帰る時間になっていた。
そのままぼんやり歩く。
「ねえねえ」
「……」
「ねえねえ」
「……」
「ねえねえってば!」
後ろから怒声が聞こえ、振り向いた。
見るとそこには美青年が立っている。
制服が僕と同じだ。
僕と同じ高校だろう。
「なんでムシしたの?」
「いや、ねえねえじゃ僕のことかなんてわからないんで」
僕の人見知りスキルが発動し、彼に冷たい態度をとってしまう。
「……まあ、いいよ。それでさ、」
「部活動勧誘ならお断りです」
「違う違う。そういうんじゃないよ」
と僕をまっすぐ見つめてから彼はフリーズした。
どうしたんだろう。
貧血?
心配になって彼の前で手をヒラヒラさせる。
「……変わる」
「え?」
彼は急に真剣な面持ちでボソッと言い捨てた。
その深刻な雰囲気に思わず緊張してしまう。
「お供は、お前じゃない」
「え?」
この人はなに言ってるんだ?
理解不能で一歩後ずさり。
「ごめん。キミにはもう用がなくなっちゃったよ」
気がついたら彼は笑顔に戻っていた。
そして再度「ごめん」と言うとこの場から姿を消した。
……えっ。
なになになになになになにぃ!?
あの人ワケわかんないんだけど。
恐怖が全身を襲う。
よくわかんないこと並べて、勝手にどこか行くって……。
ホントにちんぷんかんぷんだ。
それにしても……あの人、なんか会ったことある気がする。
胸がザワザワした。
とっても大事で大切ななにかを僕は見落としている気がする。
思わず目を下に向けた。
まあ、いいや! 今日の夕食は唐揚げだ! たらふく食べてやる!
僕は軽快な足取りでバス停に向かった。
わお!
レンさん記憶喪失しちゃってますね。
お読みいただきありがとうございます!




