第七十話 渇愛
ウソ、でしょ?
だってあのルロが……。
純粋に信じられない。
ミランスも軽く眉間にシワを寄せてルロを見ている。
「どうだ、あの二人婚約しているんだろう? 我にはお見通しだ」
僕とミランスのこと?
なんで知ってるんだろう……。
思い当たるふしを探しても探してもない。
「辛いだろう?」
ルロは首を横に振る。
断固否定。
「トゲトゲしている自分を受け入れてくれた千葉なら愛してくれると、そう思っていたんだろ? でも結局ミランスとくっついた。……あぁ、辛いなぁ」
「それはちがっ! あたしは二人を祝福してる! お似合いだもの!」
「お似合い、か。余計に悔しいな」
堂々としていた表情とはうってかわって、ルロは顔を真っ赤にして顔を振る。
彼女は今にも泣きそうな顔で僕たちを見た。
「あたし、あんたとミランスをお祝いしてるわ。ガチの話よ」
なんて言えばいいのかわからず、ミランスと顔を合わせた。
ミランスも困り顔だ。
ルロの気持ちが、本音が見えない。
この状況を見る限り、五十嵐くんが言ってることが本音なのかな?
でもわからない……。
「ひどい顔。ミランスのことが憎たらしいのに、千葉を恨んでいるのに、綺麗事をならべるからだ」
「あたしは二人のこと……好きよ」
肩を震わせながら蚊のなく声をだした。
……ビックリした。
だってルロが素直に好意を伝えたから。
嬉しいけど驚きのほうが強い。
「でも愛憎じゃないのか?」
「……じゅ、純愛に決まってるじゃない!」
ルロは怒鳴りつける。
しかし五十嵐くんは表情を変えない。
「ミランスが勇者じゃなかったら、お前は素直にミランスが嫌いだろう?」
「は、はぁ!? ミランスを嫌う理由がないわ」
「そうか。……では教えてやろう」
五十嵐くんは一呼吸ついた。
ルロはゴクリと唾を飲む。
僕とミランスはなにも言えない。
「我はな、人の心を読む能力をもっているんだよ」
人の心を読む?
……やっかいな能力だな。
ゾクッと鳥肌がたった。
しかし僕が鳥肌がたった理由はこれだけじゃない。
……ルロだ。
今まで五十嵐くんが言っていたことはルロの心を読んで言ったのではないか?
ルロはずっと図星をさされていたのかな……?
顔だけルロに向ける。
彼女は耳をふさいで下を見ている。
これは、そうなの?
……ルロは僕たちのこと、憎悪の目で見ていたの?
心臓が冷えた気がする。
めまいが起きそうだ。
「……わたしはそんなの信じません」
絶望が漂うこの空間で、ミランスはキッパリ言い放った。
「ルロちゃんはわたしたちのこと好きです。いつも悪態つけてますけど、好きだからです。わたしは知ってます」
堂々としたミランスに、ルロはポツリと彼女の名前をつぶやく。
どうしてミランスはそんな確信できないことを言えるのだろうか。
……いや、簡単だ。
だって、だってルロは僕らのこと好きだから。
「でも愛憎だぞ? 同時にお前らを憎んでいる」
「それのなにが悪いんですか? 相反する感情を抱くのは当たり前です」
言いきった。
五十嵐くんを黙らせた。
でもルロも黙ったまんまだ。
「相反……ふぅん。お前に言い聞かせるような言葉だな」
「え?」
五十嵐くんはミランスをいじわるく眺めた。
ミランスはキョトン顔になる。
「だってお前、自分に自信をもっておきながら、自分のこと大ッ嫌いであろう?」
「……っ!」
ミランスは息を飲んだ。
五十嵐くんはミランスの反応を見て口角があがった。
「自分なんか生まれなければ……。お姉さんだけが生まれていれば十分だったなって」
五十嵐くんは言葉をまくしたてる。
言われている当のご本人は顔を真っ青にして唇を震わせていた。
「……お前は素直だな。批判しないなんて。きちんと自己受容ができてる証拠だ」
満足そうに手を叩く音。
それはとても嘲笑の音にしか聞こえない。
ミランスの本音を祝福するようなものだった。
「でもつまらん。こっちとしては批判してこないと楽しくない」
ミランスは聞こえてるのか聞こえてないのかわからない。
ちっとも返事も相槌もしない。
「そして……千葉はどう思う?」
五十嵐くんは首をかしげた。
そして目線を僕に移す。
「こんな自己肯定感低めのチームで魔王退治なんて。笑わせるなよ」
笑わせるな、と言いつつもクスクス嗤ってる。
嫌みだなぁ。
「千葉も自己肯定感低いよな。知ってるぞ」
「……うん」
ここをヘンに否定してもなにも変わらない。
とりあえず正直にうなずく。
「このメンバーでいいのか?」
「え?」
「魔王討伐はとても危険で重大だ。それをこんな自己評価低いやつらにまかせられるか?」
「それはっ」
この問いは世間的に見たら圧倒的にノーだ。
でも……、とても身勝手だが僕はこのメンバーで世界を平和にしたい。
だってこのメンバーが好きだから。
「我の意見としては今すぐこいつらを殺すことだ」
「なっ!」
五十嵐くんの発言に僕は眉毛がピクッとあがった。
恐ろしいことをこんなに簡単に言ってしまうなんて……。
「それぞれみんな消えてまいたいと思っておる」
「「「……」」」
三人とも否定しない。
だって……それが本音だから。
「じゃあ、我が消してやろう。これでキレイサッパリ解決であろう?」
「それはダメです!」
ミランスはすぐ否定した。
「ルロちゃんやレンさんはいなくなってほしくありません」
ミランスの言葉に五十嵐くんは「はっ」と鼻で笑う。
「消えたい人に向かって消えないで、はエゴじゃないのか?」
この質問にはダレも答えられない。
だって言い返せない。
五十嵐くんが言ってることは反社会的で、不道徳なことだ。
しかしなにも言えない。
僕も五十嵐くんが言ってることなんとなくわかるから。
本気で消えたいときに「消えないで」はとてもイラッとくる。
でも冷静に考えれば消えていい人なんていない。
それでも消えたいと思う人はいる。
もう本格的になにも言えなかった。
それをいいことに五十嵐くんは話しを進める。
「消す、それでいいな?」
ミランスたちはなにも言わない。
……僕はエゴだとしてもミランスたちには生きてほしい。
それに、ミランスたちが生きるなら僕も生きたい。
五十嵐くんを見た。
彼はバランスボールほどの大きさの火のかたまりを頭の上で待機させている。
ダメだ。あんな炎を当てられたら一発だ。
「くっ……!」
間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え!
僕は巻いた。
使い方がよくわからない。
けど巻いた。
とにかく間に合ってほしい。
だから僕は──タイムマネジーのゼンマイを巻いた。
間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!
十分にゼンマイが巻けた気がしてゼンマイをはずす。
とたん視界がぼやけてきた。
ミランスやルロの顔が歪んで見える。
「ミランス、ルロ絶対また会うから、待っててね!」
力のある限り叫んだ。
絶叫に近い。
それに対してミランスが答えてくれたのだろう。
唇が動いていた。
けれどなんにも聞こえない。
聴覚がおかしくなった。
辺りがどんどんどんどん歪み、ぼやけ、ついにはなにもなくなった。
目の前のものが全てなくなった。
五十嵐くんも、ルロも、ミランスも。
全部全部消えちゃった。
周りは真っ白だ。
自分はどこにいるのか、浮いているのか、沈んでいるのか……。
方向感覚が全くない。
白の世界が広がっているので居場所がわからない。
「あ」
落ちた。
下に引っ張られるような感覚がした。
そう思った瞬間、記憶が……とおのいって、い……、
過去にいっきまーす
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