第六十九話 嫐る
五十嵐くんは、あれだ。
僕の高校の同級生だ。
運動も勉強もできるリアル出○杉くんだ。
高校に通っていた当時の僕は、五十嵐くんはモテると思っていた。
確かにモテる。
だけどガチ恋勢はいなかった。
女子からも人気はあったが、どちらかと言うと眺めてるだけの人が多く、行動に移してる人は手で数えられるほどだったと思う。
五十嵐くんは完璧だった。
それが長所で短所なんだ。
そんな五十嵐くんが、どうして?
「ミランス、あれが魔王なの?」
「はい。間違いなく。昔本で見ました」
ミランスは断言する。
冷や汗が一筋流れた。
心臓のドクンドクンいう音が新鮮に聞こえる。
「そうだぞ、我は魔王である。なにか問題でもあるのか?」
堂々と自分が魔王であることを白状した。
横目で僕を見て問いかける。
この爽やかで凛とした声は完全に五十嵐くんだ。
「あぁ、お前は千葉だね。地味で影が薄すぎて忘れてたぞ」
ガハハと嗤う五十嵐くんは五十嵐くんじゃない。
高校のときに見ていた五十嵐くんは怖すぎるほど礼儀が正しかった。
しかし今は最低な魔王になっている。
「レンさんを悪く言うのはやめてください」
ミランスが僕の前に立ってかばう。
ミランスの目はマジだ。
そんな彼女を五十嵐くんは嘲笑った。
「はっ。千葉のいいとこを十個あげてみるがいい。ぶっちゃけなんにもないだろう?」
「いいえ! あります。穏やかで、なのに熱いものを胸の内に秘めていて、冷静で、わたしの失敗も笑って受け入れてくれて、個性というものをわかっていて、いざというときに勇気をもつことができて、笑顔がかわいくて、謝罪と感謝をわすれなくて、キッパリ言ってくれて、そしてなによりレンさんだということです」
心臓の裏からあったかいものがこみあがってくる。
純粋に優しい気持ちになれる。
だけど五十嵐くんは逆だ。
カリカリしだしている。
「千葉が千葉であることくらい当たり前だ。それを長所だと? 笑わせるな」
「いいえ、レンさんという存在が好きなんです」
「……ふ。重い女は嫌われるぞ」
「? 自分で言うのもなんですが、痩せてるとは言いませんけど、太ってはないと思うのですが……」
真顔で言い返した。
五十嵐くんの皮肉が通じていない。
思わず笑ってしまう。
「……プロミネンス」
「おっと」
五十嵐くんが油断している内にルロが炎をだす。
しかしあっさりと避けられてしまった。
「攻撃魔法か。それは我も使えるぞ」
五十嵐くんは軽蔑的にルロを眺めた。
「プロミネンス」
「はっ!」
五十嵐くんも炎をだした。
しかしルロのだす炎より何倍も大きい。
ルロがマッチくらいの炎だとしたら、五十嵐くんは焚き火の炎くらいの比だ。
魔王であるだけ、威力も尋常なのか。
「やあああああっ」
ミランスも剣を抜く。
ガキンッ
剣と剣が擦れあう音。
二人の剣は十字を描き続けている。
「我の剣が見えていないのか? お前の剣よりでかいだろ」
「だからなんですか? わたしは最質の剣さばきをして見せます」
カキンッ カキンッ カキンッ
かっこいい啖呵を切ったものの、やはりミランスが不利だ。
ずっとミランスは守りに入ってしまう。
「ハイパーハイドラオクシジェン」
ルロが五十嵐くんを凍らせる。
しかし秒で割られてしまう。
強い、強い……。
これが世界を脅かす魔王の力だ。
「はああっ!」
僕もミニアンブレラで対抗する。
ミランスに前から攻めてもらい、僕が後ろを攻める。
しかし魔王は僕にまったく相手をしない。
「千葉、お前の武器は弱すぎる。武器とも呼べぬぞ」
「え?」
「つまりだな、我にそのちんちくりんを当てても変化は見られんのだよ」
え、え、え、えぇぇぇ。
確かに折り畳み傘だけど!
魔王となると効かないの!?
そ、そんなぁ……。
でも塵も積もれば山となる!
いつかは効くさ!
ぽん ぽん ぽん
ちりつも理論で攻撃するが、かわいい音しか
でない。
いや、でもとりあえずやっておこう。
「エレクトロキュート」
ルロの手から電気が走る。
しかし五十嵐くんには感電しない。
「こんなちゃっちいもの、静電気にすらならんわ」
五十嵐くんは悪人顔でルロを見下ろした。
ルロは瞳を大きくして、口を開ける。
「あたしの魔法も効かないなんて……」
絶望している真っ最中、五十嵐くんはルロに驚きの質問をした。
「──お前……愛されたくて仕方がないのか?」
ルロはますます開いた口が閉じない。
瞳孔も広くなる。
そのままフリーズする。
……これはいわゆる『無言の肯定』だ。
僕も直立不動だ。
だってだって、
自信満々で自立している、あのルロが。
他人からの視線を気にせず歩み続ける、あのルロが。
あのルロが、愛されたくて仕方がない?
そんなの冗談じゃ……、
「その通りよ」
ルロはいつも通りキッパリと言いきった。
いやー、五十嵐くんかい!
そしてタイトルの嫐るなんですけど、私は人をおもちゃみたいにするひとが許せません。
なぜなら昔おもちゃにされた経験があるのでね!
お読みいただきありがとうございます!




