第六十八話 階段の果てに
中も薄暗かった。
でも小さな青い炎がいくつか灯してあるので、意外と見える。
中央に階段が堂々と置いてあり、その両脇には槍をもった鎧がいくつもならべたあった。
とりあえず階段をのぼり、上へと向かう。
「トーキョー、みんなで行きましょうね」
「そうね」
「どうせならオーサカにも行こう」
大阪は天下の台所って言われてたくらいだし、ミランスの大好きなお食事がたくさんできそうだ。
トーキョーはオシャレ好きそうなルロに向いてるかな。
「なんなら、日本を全部冒険しよ」
「はい! 喜んで」
尻尾を振る犬のようにミランスはうなずいた。
ルロも声にはだしていないが「行ってあげてもいいけど?」の表情。
よぅし! ちゃっちゃか魔王を倒してやるぞー。
「……階段長くない?」
「魔王城だし、こんなもんじゃない?」
ルロはヘーゼンとしているが、僕は全然そんなんじゃない。
だって足ガクガクしだしてる。
汗もダラダラどころじゃくて、ジャバジャバながれてるもん。
凡人の僕なら言えるのは、この階段は長すぎる。
「きっとあれよ。たくさんのぼらせて体力を消耗させる気なのよ。ま、あたしたちは? そんな小細工効かないけど」
いや、僕がめちゃくちゃ効いてます。
「それにしても魔王城ってどこにあるんだろう」
「あー、死の地帯と言われるあたりですね」
な、なにそれ!? すっごく物騒。
っていうか生の地帯はどこだろう(どうでもいい)。
「死の地帯は魔王に支配されていて、入ると二度と戻れなくなるって言われているんです」
「は?」
僕たち今、死の地帯にいるよね?
いや、確かに危ないところだとは知ってたけど!
でも違うでしょ!
「大丈夫よ。あたしたちが初の死の地帯脱出者になってやるんだから」
た、頼もしすぎる……。
ゴクリと唾を飲み込み、深呼吸。
そして僕が言いたいことはただひとつ。
「階段長いって!」
「だから言ったわよね? 体力を削るためにって」
「それでも長いよ。疲れた……」
ネガティブ発言をして、休もうかと思ってたら。
「ナチュラルフレッシュ」
ありゃ?
疲労が抜けていく。
体があったかい。
「回復魔法です」
「あ、ありがと」
ミランスのおかげで疲れがとれた。
回復魔法ってやっぱ便利だなぁ。
人間も魔法使えたらいいのにね。
……なんていう中二病思考は捨てよう。
「あ、あの」
ミランスは慌てたように口を開いた。
「よかったらなんですけど、これ……」
ミランスは僕とルロそれぞれにお守りのようなものを渡した。
手縫いなのか少し形が乱れている。
その不器用さが愛らしく、ミランスの優しさが滲み出る。
「なにかがあったときのために……です」
なにも起こらないのが一番ですけど、と小さく付け足した。
僕はなくしたくないのでリュックの奥の奥にしまった。
……ミランスがいつ作ったのかも気になるけど、こっちの世界にも『お守り』というものがあることのほうに驚きだ。
「なにかあってもそれがあれば大丈夫です! って作ったわたしが言うのも図々しいですけど」
たははー、と笑いミランスは照れ隠しのようにスタスタのぼっていく。
「絶対やっつけるわ。……ララ、お姉ちゃんが仇をうつから待っててね」
後半独り言のようにつぶやいて、儚げに口角をあげた。
天国にいるララはきっと幸せ者だったんだね。
妹想いの優しいお姉さんがいて。
ルロもスタスタのぼっていく。
「僕も、僕のために……」
最終決戦になるんだ。
絶対……勝ってやる。
これまでの敵も今思えば、言うほど強くなかったんだ。
……いや、強かったな。
けど、僕たちは倒せたんだから大丈夫だ。
右こぶしに力を入れて僕もスタスタのぼる。
「は! 見てください! もう少しで階段が終わりそうですよ」
ミランスが嬉しそうに上を指差した。
確かにもう階段がなくなっていた。
よしよし! やっと階段地獄から解放されるー!
ラストと聞くと人はやる気をだしてしまうもの。
僕たちはさっきのペースより倍速く階段を駆け抜けた。
「……あれ」
階段が終わり、進む場所があるはずなのに……。
なんにもない。
僕たちはバルコニーのようなところについていた。
大きさは教室一個分はありそうだ。
しかしこのバルコニーには柵がない。
扉もないし、はしごもない。
ホントにこのバルコニーは床しかない。
えー、なにここ。
来る場所間違えたかなぁ。
眉間にシワを寄せて顔を合わせあう。
「戻りますか?」
「……でも、怪しくないかしら? あんなに階段をのぼらせてバルコニーしかないなんて」
ルロが鋭い目付きでバルコニーを見渡す。
「そうだけど、これはダミーなのかもよ」
「ダミー? こんなにでっかく?」
ルロはバルコニーは意味ある説を推す。
うーむむ。
このバルコニーはなんなんだ?
頭をひねっても答えはでてこない。
悩んで悩んでいたそのとき、
「このバルコニーは意味があるぞ」
後ろから声が聞こえてきたので、思わず三人一斉にふりかえる。
とたんミランスは顔を青ざめた。
僕もワンテンポ遅れて顔を青くした。
「魔王……っ! 今すぐわたしが成敗してやる」
ミランスが言う『魔王』は
膝まである鉄のブーツを履き、
プレートアーマーを顔意外に着用していた。
剣も大きく、僕より身長が高い彼にも大きすぎるほどのものだ。
それよりなにより僕が問題だと思ったのは、首より上だ。
日本人らしいツヤのある黒髪に、ビー玉のようにすんだ黒い瞳。
真っ白な肌に、キリッとしているがしつこく感じさせない眉毛。
高めの鼻と薄めの唇。
これは完全にダレが見てもイケメンだ。
そして、
──これは完全にダレが見ても五十嵐くんだ。
うぉぉぉい! あいつかぁぁぁぁっ!
お読みいただきありがとうございます!




