第五十九話 エゴ
うぅ………。いででで。
体を起こして辺りを見回す。
二度目の天井。
あぁ、ここはオーライバーさんの穴の中か。
うろ覚えの部屋を見て確信する。
「レンさん」
扉が開き、ミランスが入ってくる。
そこらじゅう傷だらけで見ているだけで痛々しい。
真っ白な肌が赤くひび割れ、鮮血が流れている。
「ミランス、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。いたたたっ」
僕のいるベッドにミランスも腰を掛けて腕を抑える。
いやいやいや、大丈夫じゃないよ。
「回復魔法は使えないの?」
「……はい。昨日ルロちゃんたちを治癒するのにマジックポイントを使い果たしてしまいました」
あはは、と笑うミランス。
……今のは完全に作り笑いだ。
僕にはわかる。目線が下がっていて、全然たのしそうじゃない。
それに、あれだよね。
ミランスがマジックポイントを使い果たしたのって、ルロを治癒しただけじゃないよね。きっと僕も治癒してくれたんだ。
僕やルロに全部マジックポイントを使っちゃったんだ。自己犠牲で。
「ごめん」
「えっ! なななな、なんでレンさんが謝るんですか!? 悪いことしてませんよ」
首を横に振って不思議そうな顔をするミランス。
しかし僕は再度頭を下げる。
「ううん。ごめん。僕が弱いから……」
「そ、そんな! レンさんのおかげでわたしたちは助かったんですよ」
「僕の……おかげ?」
ミランスの言っていることがわからず、おうむ返しする。
そうしたらコクンとミランスはうなずいた。
「レンさんが急に光だしたんです。その光を浴びた瞬間、ぬいぐるみがぜぇーんぶ吹き飛んじゃったんです」
スゴかったんですよ、とミランスは熱弁。
僕……魔法使えたっけ?
う~ん。まぁ、ピンチだったしね。神様が助けてくれたのかもしれない。
ややうなずきがたい話だが、あのミランスが言っているんだ。きっとホントにちがいない。
「ミランス……マジックポイントはどれくらいで回復しそう?」
「えーっとですねぇ。少し眠れば回復しそうです。ほんの十分くらいあれば大丈夫ですよ」
「十分!? もっと寝なよ」
僕が心配しても、ミランスはいやいやと否定。
「寝てる時間がもったいないです。だからパッと寝てパッと起きますよ」
「……でも、あれ、じゃない? 一晩寝たらマジックポイントだけじゃなくて、ヒットポイントも回復したりするよね」
「そうですけど……」
沈黙が訪れる。
みんなのために早く復帰したいミランスと、ミランスのためにゆっくりしてほしい僕。
どっちも悪いことをしているわけではない。
だからこそ、申し訳ない。
「きっと寝て回復したほうが気持ちいいよ」
「うぅん……。それでも、早く行かないといけないって良心が言うんですよ」
「いいよいいよ。たまには良心に従わなくたっていいんだ」
ミランス的にはグリスたちを早く倒したいんだろう。
でも、今回は休んでほしい。
「いえ、わたしは勇者です。怠惰に生きちゃダメです」
「休むことのどこが怠惰になるの? それに勇者が怠惰に暮らしてなにが悪い」
僕の発言にミランスは黙る。
あ、そうだ。今回は休んでもらって、僕とルロでグリスたちを捕まえよう。
「ミランス、今回は僕にまかせて。ミランスにはゆっくりしてほしいな」
「わたしも行きます!」
ううん、と僕はミランスを抑える。
「ミランスはダメだよ。外に出たら、危ない。ぬいぐるみたちの襲いようを見たでしょ。最悪死ぬかもしれない」
「どうして、レンさんはいいんですか?」
「僕は必要ないからだよ」
僕はいなくなっても問題ない。
社会的地位も、顔面偏差値も低い。
僕が異世界に転移して、悲しいって思ってくれた人はいない。
そもそも僕が異世界に転移していなくなっていることに、みんな気がついていないんじゃ?
それくらい僕はみんなから必要とされていない。
両親も仕事から帰ってくるのが日付が変わってからだ。
もうずっと顔を会わせて話していない。
夜ごはんも別々で、家族ですかこれ? って感じ。
多分僕がいなくなったことに気がついてない。
唯一の話し相手は二次元。もちろん僕がいなくなっても問題ない。
「ミランスは必要なんだよ」
「なら、どうして」
「ミランスは社会的に必要なんだよ。だからここで死んじゃいけない」
僕が説明してもミランスはハテナ顔。
「それはレンさんも同じじゃないですか」
「いや、違う。僕は必要とされていない」
ここは即答できる。
僕はいらない。
そのことは受け入れているから、今さら悲しいとかは思わない。
「ミランスは社会的地位も顔面偏差値も高い。でもそれだけじゃない。みんなミランスが好きだから。もちろん僕も……その、一人だけど……」
後半ゴニョゴニョしちゃったけど、最後まで言えた。
そんな僕をミランスは不思議そうに見る。
「レンさんのことみんな好きですよ」
「それはない。まず、大前提として僕は好きも嫌いも評価してもらえる立場じゃない」
僕の言葉をミランスがいや、と否定。
「そんなことないです。少なくともわたしが好きですよ」
えっ。
胸の奥が一瞬ふわっと浮いた気がした。
純粋に嬉しかった。
だけどミランスの表情を見て気がついた。照れていない。つまり友愛だ。
僕を友達として見ている。それだけでも喜ばしいことだが、切ない。
「違うんだよミランス。僕はキミが心配なんだ」
「それならわたしもレンさんが心配ですよ」
違う。ミランスはわかっていない。心配の大きさが僕とミランスじゃ違うんだ。
「ミランス、お願い。今回は来ないで」
「どうしてそこまで……」
「──好きだから」
ミランスは驚いたような表情をした。
しかし拒絶するような感じはださず、ただビックリしているだけだ。
その後、ミランスは不満そうな表情をした。
「なんですか、それ。矛盾してます。わたしがレンさんのこと好きだっていうのは理由にならないんですか?」
「うん」
静かにうなずいた。
するとミランスはもっと眉間にシワを寄せた。
「どうしてそんなに矛盾したことを堂々と言っているのかがわかりません」
ミランスは突き放すような言い方をした。
僕はそれにイライラしてきた。
どうしてわかってくれないんだろう。
「ミランス、お願い。危ないんだよ。キミが傷つくところを見たくない」
昨日のミランスの襲われている様子を思い出し、頭痛がする。
もうあんな風にさせたくない。
ボロボロのミランスの肌を見てその思いがイッソウ強くなる。
「……それでも、わたしは勇者なんです。わたしは魔王軍を倒すことが、世界を平和にすることが、生き甲斐であり、生きる意味なんです」
ミランスは引かない。
行く、の一点張りだ。
「でも、ダメだよ。危ない」
「……わかんないです。どうしてそこまで言うんですか?」
ミランスは本気で不思議そうにする。
「ミランスのためを思ってるからだよ」
「じゃぁ……、わたしのためを思ってくれるなら、一緒に行かせてください。ダメならもう」
──レンさんが一人で好きなことしてよ。
ミランスが敬語を使わないときは心の底からの本音を話すときだ。
呆れられた。見捨てられた。
いつも笑顔で優しいミランスに、だ。
悲しいし僕の気持ちをわかってくれないミランスに憤りを感じた。
「……わかった。もう、いいよ」
僕はベッドを出て扉に手をそえた。
そして振り返ってミランスを見る。
彼女の瞳は失望の二文字で霞んでいた。
苦しくなって、また前を向き、無言で部屋を後にした。
すみません、定期テストの関係で投稿遅くなります
お読みいただきありがとうございます!




