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第五十話 ハンカチ

 えっ。

 その場が凍りつく。


「なんで知って、」


「盗み聞きした」


 盗み聞き……?

 あっ! あのとき! 三人しかバーに人がいなかったときだ。

 ミランスとルロにノッカさんが失恋したって打ち明けたとき。

 もしかしてあのとき爆発した地雷って、タムさんだったの?

 タムさんを見たらにっこり笑った。


「どうせ振られるならノッカをディートに出逢わせないようにする。どう? ノッカと俺は失恋しないですむ。名案でしょ?」


「いや。ちっとも名案じゃない」


 そう言い放ったのは僕だ。

 ここは譲れない。


「ノッカさんはディートさんをまだ愛してる。ディートさんの一番になれなくてもノッカさんは自分の一番にしたいって言ってました」


「あぅ」


 タムさんはうつむいた。

 泣きそうだ。悔しそう。切ない。

 僕の心まで冷たくなる。


「ノッカさんはディートさんに出逢えて幸せそうでしたよ」


 これは彼女と話した僕が断言できる。

 絶対だ。


「俺は、そんなこと思えない。だってノッカに愛されたい。ノッカを俺のものにしたい」


「それはノッカさんも思ったと思いますよ」


 僕だってそうだ。

 チラッとミランスを見た。

 彼女と目が合う。

 どうしたの? と微笑んできた。

 僕は首をふって口を開いた。


「好きな人を独り占めしたいって気持ちはわかります。でも、」


 僕は泣きそうなタムさんと目を合わせた。

 ここはしっかり向き合いたかった。


「タムさんは独占欲に傾きすぎですよ。それはもう愛じゃなくて支配欲になりかけてます」


「愛じゃない……」


 タムさんは決まり悪そうにうなずいた。

 気がついたら彼の目からは水がこぼれていた。

 ぼろぼろ大きなものだった。

 顔は液体でぐしゃぐしゃだ。


「まーったく! せっかくのイケメン顔が台無しよ。ほら、涙ふきなさい」


 そう言ってルロはタムさんにハンカチを渡した。

 タムさんは嗚咽をあげながらハンカチに顔をこすりつける。


「……ん? 待って。そのハンカチ、まさかだけど僕のじゃ……」


 見覚えのありすぎる布に嫌な予感を覚える。

 青ざめる僕の隣で、ルロがヘーゼンと口を開いた。


「そうよ。あんたのよ」

 

「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 見事涙と鼻水で潤ったハンカチはグショグショの重たい布と化した。

 あぁー、ぼぐのバンガヂがぁ(泣)。

 悲しむ僕を見てもルロはとくに同情する様子もない。

 人の心がないやつめっ。


「あの、みなさんごめんなさい。俺のせいで巻き込んじゃって……」


「いえ、反省したなら大丈夫です」


 ミランスは剣を腰に戻した。

 そしていつもの優しい笑顔を浮かべる。


「では、償いということでわたしに協力してくれませんか?」


「協力……ですか?」


 タムさんはハテナ、と首をかしげた。

 ミランスはコクコクあかべこのようにうなずく。


「はい。教えてください。タムさんは、魔王に関連する方にお会いしたりしましたか?」


「……イエスかノーだったらイエスです」


「「「!!!!」」」


 バッサリ言ってくれたタムさんに僕らは声にならない悲鳴をあげる。

 ミランスは腰についてる剣をいつでも取り出せるようにしてるし、ルロは右足を後ろに下げて警戒モードだ。


「あ! みなさん大丈夫です。僕はもうミランスちゃ……ミランスさんの……」


「ミランスちゃんでいいですよ」


 キョドるタムさんにミランスはニッコリ顔。

 笑顔を向けられたタムさんは嬉しそうにほっぺたをかいた。


「俺はミランスちゃんたちの仲間です。これはウソじゃありません。ノッカに誓います」


「ノッカさんに誓うなら本気みたいね」


 ルロはちょっと呆れたみたいに笑った。

 タムさんのなかでノッカさんの存在は大きいからね。結構信頼してもいい発言かもしれない。

 タムさんは照れたように顔を朱に染めた。

 ふわふわした雰囲気のなかミランスが話を進める。


「どんな会話をしたんですか?」


 質問した彼女の瞳は真剣だ。

 鋭くひたむきな色が映っている。


「俺が話したのは魔王の手下っぽいんですけど……」


「いいですよ! 教えてください」


食いつくミランスにタムさんは少しためらう様子が見られる。

 ……まぁ、そうだよね。

 魔王関連のことを話していいのかなって戸惑うよね。しかも勇者に。


「俺がノッカに振られてすぐ、そいつと出会いました。多分公開告白を見ていたんでしょう。状況をすごくよく理解していました」


 タムさんの声はカタコトだ。

 緊張してるのがビンビン伝わる。


「で、俺に言ったんです『すぐ行ったところに時間を巻き戻せる時計──タイムマネジーがあるから、とってきな』って。でも最初はルロさんにも諦めてって言われて、とらないでおこう。そう思ったんです」


 タムさんの言葉を聞いてルロは鼻息を荒くした。

 さすが自信満々な女だ。


「でも、次の日ノッカも失恋したことを知りました。ショックですよ。ノッカも叶わぬ恋なら俺と付き合ったほうがいい。本気でそう思いました。だから過去に戻ってノッカとディートを出逢わないようにするって決めました」


「ずいぶんバカな思考ね。もう一回告ろうとかおもわないわけ?」


「辛辣ッ。でも正論すぎて言い返せません」


 容赦無さすぎるでしょ。

 タムさんは悪いことしたけど、なんか同情したくなる。


「それで今ここにいる、ということですか?」


「そうですね。いやはや申し訳ないです。俺の煩悩のせいで」


「わかればいいのよ」


 ルロはツインテールの右側をかきあげて言った。

 最初から最後まで偉そうだな。

 タムさんもめんどくさそうにうなずいてるし。

 ルロの仲間として申し訳ない。

 一応心の中でタムさんに土下座しておいた。


「……役立たずで困りますね」

わー! 五十話! 百の半分ですー!


お読みいただきありがとうございました

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