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第四十九話 タム暴れる

 タムさんが回し蹴りをし、それがルロの美顔にぶち当たる。


「うひゃっ」


 その反動で3メートルほどとばされた。

 ルロを見ると顔が真っ赤に腫れていた。

 ミランスが心配そうにかけよる。


「ミューナ」


 ミランスのかけた回復魔法のおかげでルロは傷ひとつないべっぴんさんに戻った。

 ミランスは大丈夫? とルロの頭をなでる。


「ぅう……、ミランスあたしは平気よ。でも、」


 そこで言葉をきると、ルロはあの高圧的なつり目でタムさんをにらんだ。

 ヤバい、めっちゃ怒ってる。

 ゴゴゴゴゴゴって効果音が聞こえてきそう。


「──あいつのこと、ぶっ飛ばす! 許さないわ。土下座させてやるのよ」


「へぇ? そんなことできるの?」


 タムさんは挑発的に笑う。

 ルロは悪鬼の形相をさらに怖くしていく。


「言っとくけど、あたし強いわよ」


「女の子が強いとモテないんだよ」


「忠告をありがとう。でもそれは偏見よ?」


 微笑みあったルロとタムさんの間には稲妻が走る。

 それが光ったのが戦いの合図だ。

 二人は走りだした。


「レンさん、わたしたちもルロちゃんのお手伝いしましょう!」


「うん」


 うなずきながらミニアンブレラを取り出す。

 ミランスも腰から剣を引き抜いた。

 僕たちも右足のももをあげて走り出す。


「やっ! ふあっ! やぁぁぁぁっ」


 剣を振り上げるミランス。

 それをスルリスルリとかわすタムさん。


「エレクトロキュート」


 ルロの手から電気が発生する。

 それがタムさんに当たる。


「あだだだだっ」


 喘ぎ声をあげ、タムさんはその場で痙攣しだす。


「ふん! あんだけ嗤っておいてもう終わり? よーっわ! 笑えてくるのよ」


 タムさんの前に仁王立ちして滑稽だと言わんばかりの表情で見下ろすルロ。

タムさんはそれでも笑って、


「え? 逆にこれで終わったとでも思ってるの?」


「いーや? じゃぁ、早く立ち上がりなさいよ。ほら! ほら!」


  バチコーン!


 突然だった。

 タムさんは立ち上がるなり、ニヤニヤしているルロのお腹を頭突きする。

 うわっ。

 ルロもタムさんもどっちも痛そう。

 身震いをする僕をタムさんは跳びげりしようとジャンプする。

 ヤバい!

 走ってよける。

 タムさんの攻撃をスルリとかわし、後ろからミニアンブレラを振り上げた。

 しかしタムさんはバク転して僕の攻撃をよけ、その反動でミランスの前に現れる。


「ルロちゃんを傷つけるなんて、わたしが許しません! とりゃー」


 剣を振っても振ってもタムさんがシュバンシュバンと瞬間移動したかのように逃げられる。

 ミランスが右を見たときには左にいて。左を向いたら右にいる、というなんともこざかしいことをされる。

 タムさんは足が速い。ジャンプ力が高い。

 悪の組織に入っているだけあって筋肉質だ。

 殴られたら絶対痛そう。

 魔法とかは使えないだろうけど、運動神経がバリバリ高い。

 これは困ったぞ……。


「ハイドラオクシジェン! ハイドラオクシジェン! ハイドラオクシジェン!」


 ルロが連続で氷の塊をタムさんに当てようとする。

 しかしこれまた楽々かわされる。


「あぁぁぁっ! もう! あんたなんなの?

逃げてばっかでホントにイラつく。……まぁ、攻撃されたらされたで厄介だけど」


「ふはっ。俺の強さを思い知ったか? だから言ったでしょ? 俺を……」


「なんでそんなに自惚れてるかは知りませんが、もう少し周りを見て行動してください!」


「……見てるよ(にっこり)」


 ミランスがタムさんにの死角から剣を振り上げたが、微笑んで逃げられる。

 くっ。あともう少しだったのに。


「どうして?」


「ん?」


 僕の問いにタムさんは首を傾げる。

 タムさんは動かず僕を静かに見つめる。


「どうしてここにいるんですか?」


「時間を巻き戻すためだよ」


 即答だ。

 そんな彼の瞳はとても切ない。

 さっきまで嘲笑っていたような人とは思えない表情だ。

 ……この顔、あのときの……。

 バーで大泣きしていたタムさんを思い出す。

 そういえばあのとき、

『時間を巻き戻せたらいいのにー』

 って言ってたよね。

 もし時間を戻せたらノッカさんと付き合えるんじゃないかって。

 でもルロに無意味だって教えてもらってたはず……。

 やっぱりまだ諦めてないんだ。

 ノッカさんのこと好きじゃん。

 心臓が痛い。キューって全身が悲鳴をあげている。

 そう思うと、ニマニマ嗤うタムさんをとても見ていられない。

 僕にはタムさんを倒せないよ。


「タムさん……もう、やえめよう。こんなの、ノッカさんは望んでません」


「は? さっき言ったでしょう。俺はノッカが大嫌いだ。ノッカがどう思おうと俺には関係な、」


「あるに決まってんでしょーがっ! あんた自分ではノッカさんのこと嫌いだって思ってるみたいだけど、好きなの見え見えよ。ここまで悲しくなるのはダレのせいなの? ここまで辛くなるのはダレのせいなの? ここまで時間を戻したいと思うのはダレのせいなの?」


 タムさんは黙る。

 焦点が定まらない。

 恐れるような表情をする。

 ルロはため息をひとつした。


「ノッカさんが好きだからでしょ! じゃなかったらこんなリスキーなドM行為しないわよ」


「うぐっ」


「認めなさい。現実から目をそらして妄想の自分を肯定し続けてると辛いわよ。ほら、早く」


「俺は……」


 タムさんは口を開いた。

 まだ頼りない表情だった。

 でも、どこか自分の意志があるように感じられた。

 ルロは男前にうなずく。


「俺は?」


「好きだ」


「ダレのこと?」


「ノッカだ。だから、」


 タムさんの顔つきが変わった。

 生気を取り戻したみたいだ。

 でも、ちょっとおかしい。

 嗤ってる。悪魔みたいだ。楽しそう。でも僕には楽しそうなことをするようには到底思えない。


「時間を戻す。ノッカと両想いになってみせる」


「はぁ!? ちょっ、あんたなに言いだしてんの? バカじゃないの」


 ルロが怒鳴りつける。

 しかしタムさんは怯える様子もなく歩き出した。


「なんで? 好きなコと両想いになりたいってのは悪いこと? 恋愛心理学は使っちゃダメなの? おまじないは? じゃぁ、俺もいいよね。みんなとやってること変わんないでしょ」


「でも、それはノッカさんが望みません」


 へらへらしたタムさんの首に剣を近づけたのはミランスだ。

 そして壁まで追い詰める。


「ノッカさんは、自分のために時間を戻してほしいなんて思ってもいません」


「どうして時間をもどしちゃいけないの?」


「人間は前へ前へと進まなくてはいけない生き物だからです」


「はっ。名言決めちゃって。でも俺はノッカのために……」


「ノッカさんのため? 自分のためでしょ」


 ルロが壁に追い詰められたタムさんをにらむ。

 タムさんは首を横に振る。


「違っ。俺知ってるよ。ノッカが振られてること」


 タムさんの衝撃の発言にみんな目を思いっきり見開いたのでした。

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