第四十二話 自覚
カツカツカツ
バーへと戻る道、静かすぎて足音しか聞こえない。
ただひたすらシーンとしてる。
周りのせいだけではない。
『私はディートの一番になれなくても、私はディートが一番なの。だから、ディートを笑顔にしたい』
さっきのノッカさんの声が僕の体内でずっとエコーして、そのたびに五感が失われているのだ。
……僕はわからない。
好きな人ができたら付き合うことを目的にするんだと思ってた。
でも、ノッカさんは違った。
ディートさんを笑顔にすることが目的で……付き合うことは二の次くらいだった。
それでもふられたとき泣いてたよね。
やっぱり悲しいのかな?
思考回路をグルグル回しても答えがでてこない。
わからないわからないわからない。
悔しい!
「レーンーさんっ!」
「ぐわっ!」
急に後ろからミランスが飛びついてきた。
「えへへっ。ドッキリ大成功です!」
ミランスは誇らしげに胸を張ってみせる。
今はそんな子供っぽい仕草が僕の精神を落ち着かせてくれた。
「どうしたんですか? 暗い顔ですけど。頭痛いですか?」
キョトン顔で僕に接近してくる。
わ、わぁぁっ! 近いよ!
僕のすぐそばでミランスの甘く優しい匂いが広がる。
ビー玉みたいな透き通った瞳が僕を映した。
心臓から流れた熱い想いが体中を駆け巡る。
その証拠として顔が真紅にそまっている。
「だ、大丈夫だよ! のののの、ノープロブレム!」
「ノープロブレムの意味知ってますかー? 問題ないってことですよ? そんな顔真っ赤になったら風邪だとしか思えません」
「いや! ホントに大丈夫! 対処法はミランスがソーシャルディスタンスすればいいの」
「……ほへぇ?」
僕に言われて、ミランスが大きく一歩後ずさり。
ふぅ。安心!
さっきは近すぎて呼吸困難になるとこだったよ!
そっと胸をなでおろす。
「レンさん。……体調管理は大切に、ですよ」
ミランスに忠告された。
……それだけ。それだけなのに。
なぜか急に愛おしく思えた。
いつもは意識をするはずのないぷっくりしたピンクの唇が、小さくて頼もしい手のひらが、心配そうに僕を見上げる表情ひとつひとつが大切にしたくなった。
もっとミランスと一緒にいたい。
もっとミランスのこと教えて欲しい。
もっとミランスに僕のことを教えたい。
もっともっとミランスに……!
溢れ出したミランスへの想いが止まらない。とどまることを知らない。
あの夜もそうだ。
ミランスを一番に守りたいって思ったはいたけど、覚悟できてなかった。
今ならできるだろうか。
……できるに決まってるじゃん。
ギュッと手を握る。
僕はミランスを一番に守りたい。一番に笑顔にしたい。
だから、
──僕はミランスが好きだ
僕はミランスを笑わせるって決めた。約束だ。
覚悟したとたん鮮やかなミランスとの思い出がキラキラ輝きだした。
思い出せば思い出すほどワクワクする。
ノッカさんの言葉も今なら理解できないくらい理解できる。
「……レンさん?」
ミランスが本気で心配そうにしてくれてる。
「あ、ゴメン。自分の世界に入っちゃった」
「もう! わたしを置いていかないでくださいね! いや! 仕返しとしてレンさんを置いてきまくります」
「大丈夫。絶対ついていきまくるから」
「うひゃー! ストーカー発言っ! 電話! 110番に通報ですよー」
「……本気で言ってるのが怖いしスゴいよね」
「わたしはレンさんが怖いです」
ミランスが本気で僕を怖がっているのは言うべきにもあらず(古文風)
こんにちは、風音です。
お読みいただきありがとうございます
気付きましたね(笑)
こっからの二人にぜひご注目をよろしくお願いします。
今回は大事なところしか書いていないので(茶番もあったような……)短めです!




