第三十二話 凍える山のなかで
フルーフ……。
いなくなったのかな?
フルーフがいた場所は煙がもくもくとあがっている。
「いなくなったみたいだわ」
「わーっ! ルロちゃんお手柄ですよ!」
「あんたがフルーフを追い詰めたからよ」
「じゃぁ、二人のお手柄!?」
「僕って存在する意味ある……?」
楽しそうにハイタッチしている姿を僕は一人寂しく眺めてる。
……そりゃそーですよね、庶民を代表できるくらいの庶民が悪者退治なんてそんな簡単にできるわけないよね。
自分で言ってて悲しい。
「終わってると思ってるの? ふふふ、のんきなこたちね」
「「「!?!?!?」」」
煙の中から人の姿が出てくる。
だけど、服がビリビリで髪型もぐちゃぐちゃ。いや、そんなことより顔がもう違う。白目だし、口が切れて血がでてて痛々しい。歯は鋭く何百本もはえている。
怖い! 夜トイレに行けなくなる!
っていうかこんなの一般公開したら多分道化恐怖症が加速すると思うんだけど!
「フルーフさんですか!? お顔がヘンですよっ? 大丈夫ですか? 怖いですよ」
「こんな顔にしたのはあなたたちのせいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「それでも怖いものは怖いわよね?」
ルロの問いかけにミランスは首を縦にブンブンふる。
……二人そろって失礼すぎるぞ。
「あああああああああ! うざったい! 視界に入るだけでイライラするわ」
「ま、まぁまぁ。怒りすぎると肌に良くないんだって」
「もうとっくに良くない肌になってるわよ」
ド正論……。
なにもフォローできなくなり沈黙が訪れる。
「フルーフさんはナゼ生きのびてたんですか?」
「簡単よ? 魔王の加護があったの」
魔王っ。やっぱり手下だったんだ。
勇者の職業意識ってやつだろうか? ミランスは魔王という単語を聞くとすぐに体を身構えた。
「待ったほうがいいと思うわよ?」
フルーフは意地悪な笑みを浮かべた。
そして右手にリスの尻尾を持ってプラプラさせる。
「は! それはっ!」
「ふふふふふ。天気神の焦ってる顔。面白いわ」
ルロは眉が下がって目をおもいっきり見開いてる。焦りの表情だ。対象的にフルーフは楽しそう。
「ルロちゃん、大丈夫? どうしたの?」
「あれ……あたしの妹……!」
え。えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
いや、小動物っぽいって、リスっぽいって聞いてたよ?
でもさ! あれ、まんまリスじゃん!
リスっぽいコって小柄でかわいくって、ルロに似ても似つかない純粋な女の子だと想像してたんだけれども!
小動物っぽいとかリスっぽいってなんだ!?
もうぽいとかじゃなくてリスそのものじゃん!
……なんてツッコミはあとにしよう。
「やめてください!」
「そうねぇ、条件付きだけどいいかしら?」
「ダメ」
「えーっと条件は、あなたを殺すか妹を殺すかのどっちかよ」
「話聞いてた? 条件ナシよ」
「そんな自分だけ得するような話は嫌いだわ」
「あたしもあんたが嫌いだわ。──エレクトロキュート!」
フルーフの頭にカミナリがふる。が、またあっさりとよけてしまう。
「そっちが戦闘態勢に入るなら、こっちも入るわ」
不敵に笑みを浮かべるフルーフ。
あーあ、僕もいっちょやりますか!
ミニアンブレラをかまえる。
「とりゃぁーっ!」
「甘い! 甘いわ! クラブジャムンよりも甘い!」
僕の攻撃はすぐふさがれる。
それどころか僕が攻撃されている。
強いよ! 怖い。
「レンさんをいじめないでください!」
ミランスが剣を持ってフルーフに突撃する。
しかしフルーフは光の壁のようなものでミランスをはじきかえした。
魔法もつかえるのか。厄介だなぁ。
ルロが小さな氷の塊を何個もなげるが、それも踊るように楽々とかわされてしまう。
「あぁ! もう! ちょこまかちょこまかと……イラつくわ!」
「ルロ、あんまり感情的にならないで! 天気が悪くなる」
ここでカミナリとかおきたら戦いどころじゃなくなるよ。
僕の言葉を聞いたフルーフはニンマリ。
……なんか悪巧みしてる。
嫌な予感がしてちょっとだけ顔がひきつった。
「見てて」
フルーフがルロの前にリス──ララをつきだす。
ララは寒いのか怖いのかガタガタ震えている。
「あんた! ララを返しなさいよ!」
「まぁまぁ、少し見ていて」
フルーフはララに手を伸ばすルロを蹴って倒れさせる。
こんな黙らせかた……。
「さっきの条件覚えてる? あなたを殺すか妹を殺すか」
フルーフはナイフをララに突きつけた。
「ララ……! ララを返しなさい! 早く! 殺さないで」
「ムリよ。だってあなた……」
フルーフはニッコリ嗤った。
こんな楽しそうな嗤いかたがあるだろうか。
こちらとしては恐怖でしかない。
「自分が生きることを選んだのでしょう? それってつまり妹はいらないってことじゃないかしら?」
「なんでそうなるわけ? あたしの命もララの命もどっちも同じくらい大切よ!」
「ふふ、でも約束は約束ね」
フルーフはナイフをララの首にゆっくりゆっくり入れた。
「やめて! ねぇ、やめて! やめてよ! やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ルロが声をあげたときにはもう遅かった。
ララの首がとれてたのだ。
ララの頭がボトッと血液とともに真っ白な雪を汚していく。
「ウソ」
「いいえ、現実よ」
ルロの絶望を楽しそうに煽る。
ミランスも衝撃で動けない。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ルロの叫び声だけが響く。
「なんでなんで! ララ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
ルロは倒れこんだまま動かない。
「これはあなたのせいよ?」
「あたし……?」
「そう。妹さんを守っていればこんなことにならなかったのよ」
フルーフはゆっくりゆっくり語りかける。
ダメだ! 洗脳される!
「ルロ! 騙されちゃダメだよ! ララが死んだのはフルーフのせいだ!」
「原因は天気神のほうよ?」
……くっ! あぁ、もう! ああ言えばこう言うの天才だよ!
「聞いて。ララはあなたが殺したのよ? あなたは──役立たず。生まれてきたのが間違いだったのよ」
「……っ!」
ルロはカッと目を見開きフリーズした。
と、その瞬間。
ゴォォォゴォォォゴォォォ
吹雪が僕の顔面を襲い始めた。
ララ……
ルロ……




