第三十一話 雪原のなかの純粋
なにこれっ? ダレ? 敵?
頭に次々浮かぶクエスチョンマーク。
道化師(多分)の女はナイフを振り上げた。
ダメだ、ここでおしまいだ。
目をつぶって死を覚悟していたそのとき。
ぼんっ
とってもマヌケな音が聞こえた。
「「「???」」」
僕とルロと道化師(多分)の女はポカンとしてその場に立ちすくす。
えっ?
道化師(多分)の女から雪玉がぼろっと落ちてきた。
……なぜ?
「はっはっはー! わたしの攻撃に参りましたかー?」
「は?」
ミランスのドヤ顔。めちゃくちゃ倒した感あるけど、キミ雪玉で攻撃したの? そんな雪玉で倒せるわけないでしょ? まったく。
道化師(多分)の女は軽蔑するような眼差しをした。
なんかミランスと道化師(多分)の女に温度差あるんだけど!?
「あなたは勇者?」
「はい! もちのろんです!」
「ふぅん」
道化師(多分)の女はジロジロとミランスを観察する。
うわー、なんか嫌な感じ。
「勇者にしては頭悪いんじゃないの?」
「ガァァァァァンッ! ショッキングッ」
ストレートすぎる言いかたにミランスが崩れおちる。
……ミランスがおバカなのは今に始まったわけじゃないから、大丈夫だよ(心の中でフォロー)。
「はっ! そーですそーです。わたしはバカです。I'm fool」
どうしたどうした。急に認めだしたよ。
「あんたホントにおかしいんじゃない?」
「無知の知ですよ! わたしはバカだということを知ってます! だから賢いんです!」
ミランスはえっへんと胸を張る。
どうだ! と言わんばかりの自信ありげな表情。
う~む。ミランス意外呆れておりますが……。
そしてもう自分で賢いって言っちゃってるじゃん。ソクラテスさんに謝りなよ。
「あんたはなんて言うの?」
「フルーフ」
ルロの問いかけに淡々と答えるフルーフ。
フルーフって演技悪くない!?
ドイツ語で確か『呪い』だよ!?
名付けた親の気持ちが全く理解出来ないんですけど!?
まぁ、人の名前に文句つけるのはよくないか。
「フルーフ、あたしの妹を返しなさい」
「嫌よ?」
フルーフは不敵な笑みを浮かべた。
ナイフを持っている道化師がこんな顔してると不気味でしょうがない。
「あなた天気神じゃない? ツンデレ地帯を困らせておいてブースカわがまま言わないでくれる?」
上品な雰囲気でルロに視線を向ける。
とても嫌らしい。
ルロは悔しそうに地面を見ることしかできない。
それを見ている僕も悔しくなる。いや、イライラしてきた。
「そんな言いかたはないでしょ! ルロだって操りたくて操ってるわけじゃないんだよ!」
「ルロってこの子の名前? まぁ! ルナと似てる名前ね。素晴らしいわ」
ルロのデリケートな話題にずかずか入ってくる。
あぁ! 絶対わかって言ってるな!
ホントにヤなやつだ。
「フルーフさん、ルロちゃんを傷つけないでください」
「えぇ? 傷つけてないわよ? 褒めたのよ」
「頭悪いんじゃないの!? あんた人の気持ちもわからないわけ? 学校行って道徳やってきなさいよ!」
「ふふふ、口が達者ね。そういうの好きだわ。でも良く考えてみなさい?」
フルーフは愉快そうに笑う。でも心の底から笑ってるようには見えない。
あぁ、気味が悪い。
「あなたがいなければツンデレ地帯は平和なのよ。突然雨降ることなんてないし、突然カミナリなんてあり得ない。それくらいみんなに迷惑かけてるのよ? そこをわかってる?」
「……わかってるわよ」
雨があがった。
晴れでも雨でもない、なんとも言えない曇りだ。
ルロ……。
「わかってるのなら死んでもらいましょう」
「ルロちゃんっ!」
「ルロ!」
フルーフがナイフを振り上げたとき、
「ハイパーハイドラオクシジェン!」
突如ルロの目の前に氷が現れた。
その氷がフルーフのナイフをガードする。
魔法っ!
「まぁ! 天気神の上に魔法も使えるの? 面白いわ」
「MPすぐ減るからなるべく魔法は控えたいのよね」
「へぇ? そんなこと言われるとますます魔法を使わせたくなるわ」
ナイフをまたルロに振り上げる。
「あんた、しつこい。しつこい女は嫌われるわよ」
「無関心よりましだわ」
「ハイパーハイドラオクシジェンっ!」
氷がまたナイフからルロを守る。
「レンさん。ルロちゃんを助けましょう」
「う、うん」
ミランスは腰についてる剣を抜く。
いいなぁっ、僕も武器が欲しい。
僕にはなにができるだろうか。
運転神経がいいわけでもないのに武器なしとか、鬼に金棒の対義語すぎるくらいの対義語だと思うんだけど。
あまり期待せずに自分のリュックをあさってみると、
……は! これは使える!
僕にもちょうどよさそうな武器があった。
その名も『折り畳み傘』!
いや、言いかたがカッコ悪いか。
えー、じゃぁ、『ミニアンブレラ』!
うんうん! カッコいい!
とりあえずミニアンブレラを両手で持って身構える。
「プロミネンス!」
ルロの手から炎が出た。
フルーフに当たりかける。
「隙あり!」
ミランスが後ろから剣をフルーフに突き刺そうとする。
だがしかし、
「鈍いコね」
と、あっさりかわされてしまう。
「あなた、言動から平和主義者かと思いきや結構応戦的なのね」
「いいえ、友達を侮辱することが平和じゃありません! つまり! フルーフさんがいると平和じゃないんです」
「へぇ? あなたは自分の思う平和のために他人を殺すの?」
「そ、それは!」
フルーフの言葉にミランスは声がでなくなる。
極端な話そういうことだ。
「いじめっこは仲間外れにしていいの?」
「ダメ、です。ですが、いじめっこが反省してない場合は別です」
ミランスが小さく言う。
多分自分の言ってることに自信がないんだろう。
自分の意見は批判されやすい。
当たり前だ。だけど批判されるのは怖い。それでも自分の意見を言いぬくのはカッコいいと思う。
「元いじめっこは仲間外れにしちゃダメです。しかし、いじめっこnowのこは仲間外れにしてもいいと思います。個人の意見ですけど」
ミランスはカッコいい側の人間だった。
それは僕が尊敬する側の人間だ。
「やぁーっ!」
カキンっ
剣とナイフが触れ合う音。
剣のほうが刃が長くて有利なはずなのにナイフが負けるものかと意地を張る。
「なぜそこまでルロにこだわるのかしら?」
「わたしがルロちゃんのことが好きだからです」
「同じようなのはたくさんいるわよ?」
カキンッカキンッと剣とナイフを叩きあいながら話す。
横からはルロの炎と僕のミニアンブレラつんつん攻撃がフルーフにとんでいくがスルリスルリとかわしていく。
「同じようなのはたくさんいますが、ルロちゃんは一人しかいません!」
ミランスがキッパリ言い放つ。
名言だ。
「でも、ツンデレ地帯に迷惑かけてる人よ? 殺しちゃったほうがいいと思わない?」
「思いません!」
これまたキッパリしてる。
ルロの炎がフルーフに一瞬当たり、「あちっ」と喘いだ。
しかし僕のミニアンブレラつんつん攻撃は当たらない。
「迷惑かけてるからって死んでいい理由にはならないです!」
そうミランスが言ったとき、ミランスの剣がフルーフの首に触れた。
間一髪っていうところだろう。
あのフルーフが冷や汗をたらしている。
「迷惑だったら、わたしのほうがルロちゃんの何倍もかけまくってます! だけど、死んだほうがいいなんて思ったことありません! 迷惑かけにように努力しようとしか考えないようにしてます!」
「プロミネンス!」
ミランスの堂々とした声のあとに、フルーフの燃える音が聞こえた。
ミランス名言連発!




