第二十九話 ツンデレ地帯の秘密
ルロがいなくなって辺りがウソのようにシーンとなる。
この静かな雰囲気には真っ白な雪景色が似合ってしまう。
ミランスの表情は悲しみで凍っている。
ミランスだけじゃない。ただただここは悲しみで包まれている。
「レンさん」
ミランスのやっとふりしぼった重い重い声。
すごくガッカリしているのが伝わってくる。
まぁ、ムリもない。ツンデレ地帯を氷に閉ざしたのはルロだということだ。僕だって正直ガッカリしている。
「ルロちゃんは魔王の一味なんですかね?」
ミランスの震えた声が僕の心をギュッとつかむ。
なぜなら僕が一番信じたくない言葉だったからだ。
少し信頼を寄せていた相手が魔王の下部なのだとしたら、もう僕はダレも信じられなくなりそうだ。
……ルロはあの感じだと僕たちの敵の可能性が高い。
だけどルロの根っこはすごく優しいのを僕は知ってる。話を聞く限り妹思いの優しいお姉ちゃんなのもよくわかってる。
もしそれも全部演技だったら……?
ああああ! なにを信じたらいいんだろう?
もうなにもかもがぐしゃぐしゃで頭が痛い。
「レンさん……」
僕の葛藤を横で見ていたミランスは心配そうに白い息を吐く。
あぁ、もう! なにミランスに心配かけてるんだよ。ミランスのお供をさせてもらってるんだからミランスの役に立たないといけないのに!
「大丈夫、ミランス。ルロが僕たちの見方か敵かはわからない。だけど僕がいるから」
「レンさん……! そうですね! レンさんがいますもんね!」
「定期テスト学年八十位の僕にまかせなさい!」
「……レンさんの学年って百人じゃありませんでした?」
ミランスの痛い一言はスルーして胸をはる。
大丈夫だ。世界が終わるよりは全然ましだ。うん。
「レンさん、あそこにお家がありませんか?」
「お家?」
ミランスの指差すほうにはちっちゃなログハウスがたっていた。
灯りもついてるし、煙突からは煙もでてるから多分ダレかしらはいると思う。
しかし窓にはカーテンがついていてこちらからでは中の様子がうかがえない。
「行ってみましょうよ! なにか手がかりがつかめるかもしれません。それに温かいココアがもらえるかもしれませんよ!?」
「ミランス、図々しい」
まぁ確かに手がかりはつかめるかもね。
……人に言っておいてだけどココアも欲しいし!
「行ってみるか」
こんこんこん
この家にはピンポンがないのでノックしてみる。
ピンポンっていうとどうしてもピンポン犯の顔がちらつくんだよねぇ(チラッ)。
「はい~。なんでしょうか?」
そう言って出てきたのは五十代そこそこのひょろっとしたおじいさんだった。
優しそうだ。ココアをくれそうな顔をしてる。
「その服は……冒険者! さぁ、中に入りなさい」
僕の服を見るなり僕らを家にあげてくれた。
物分かりのいい方だ(内心 : ココア! ココア! ココア!)。
「温かいコ……」
「「ぜひお願いいたします!」」
宝石の目でヘッドバンギングする僕とミランスを引いてる気がしたが、まぁまぁ、大丈夫だろう(←なにが?)。
ココアは高級食品だって言われて育ってきたから、楽しみだ。
「はいどうぞ」
わぁぁっ!
真っ黒な液体が入ったコップを渡された。
「お砂糖はいりますか?」
ココアに砂糖って糖質をとりすぎでは?
そう思いながらココアを口にする。
あんまり甘くなかった。
ちょっと砂糖が欲しいなって思った。
味わえば味わうほど酸味がして、
甘い香りというよりはツンとした香りで、
口当たりはサラサラしていて……。
率直に言うとコーヒーを飲んでいた。
驚いた僕らは酸っぱい顔をして向かいあう。
あぁぁっ。舌がキューンってなる。
ミランスなんか舌をだして涙目になってるし。
「砂糖、欲しいです」
観念して砂糖をもらうとコーヒーはさっきよりまろやかになった気がする。
「……ぼくはトネと言います」
「トネさんですね! わたしはミランス、お隣はレンさんです」
よろしく、と会釈。
優しそうな人でよかった。
「ミランスさんたちはルロの知り合いですか?」
「えっ、あ、はい、そうです」
ここでルロの名前が出るとは思ってなかったので少し動揺する。
「なんでわかったんですか?」
「その冒険者の服はルロのご先祖様のものなんですよ」
……へぇ。
僕の着ているのって魔王のなにかじゃないよね? 少々不安。
「ルロちゃんを知ってるんですか?」
「あぁ、この地じゃ知らない人はいないと思います。なにせツンデレの天気神ですからね」
「「………!」」
天気神!
「その話詳しく教えてください」
「……わかった」
トネさんは少し困ったような顔をした。
だけど真顔になって僕らを見つめた。
「五百年前に天気を操れる人が生まれてきたんです」
***********************************************************
この年ツンデレ地帯は干ばつがおきていて、とても深刻なときに生まれた子がいた。
その生まれた子はルナと名付けられ、きっとこの国はすぐに滅びるだろうと思いながらもルナの両親はルナにたくさん愛情を注いだ。
そんな危機的状況などわかるはずもないルナはニコニコと母の腕の中で幸せそうに暮らしていた。
そして数年後。
ルナは数も数えられるようになり、文字だって少しは書けるようになっている歳になった。
しかし干ばつはまだひどかった。
もう一年ももたないだろうと言われていた。
その事実を知ったルナは絶望した。
『死』というものの存在を知っていたルナは恐ろしくてたまらない。
夜な夜な母がこっそり泣いているのを知ってしまったルナはすごく悲しくなった。
そんな日が何日も続き、ルナはもう我慢が出来なくなった。
嫌だ、と言っても避けられない現実。
悲しくて恐ろしくて涙がこぼれた。
いや、もうこぼれるどころの量じゃない。大号泣だ。顔は涙という水でぐしゃぐしゃだ。髪も涙でびしょびしょになった。
……ホントに涙だけだろうか?
──雨が降っていたのだ。
何年ぶりだろう。どしゃ降りだ。大雨が乾きすぎていた大地をよみがえらせる。
ルナはこの事実を知って狂ったように喜んだ。控えめに言ってキャラ崩壊するくらい喜んでいた。
しかし、雨があがってしまった。
快晴だ。青天井だ。
ルナの気分と同じくらい明るい天気になった。
賢いルナは気がついた。
自分の感情と天気は相関性がある、と。
ためしに転んでみた。
痛くて痛くて泣きだした。
すると、さっきほどではないが雨が降った。
あぁ、やっぱりそうだ。
ルナは確信した。
こんな大事なこと、早く知らせないと!
ルナは走って町長に知らせた。そして実際にやって見せた。
町長はほうほうとうなずいて、うっすら笑みを浮かべた。その笑みには優しさの欠片もない。大人の嫌らしい笑みだった。
こんな便利な物は存在しない。
良いもの見せるよ、と町長は笑ってルナを集会所のようなとこにつれていった。例えるならアゴラのようなとこだろう。
ルナは椅子に座らさせてもらった。
腕と足を椅子にくくりつけられ、なんかヘンだなと感じていたそのとき。
ルナの両親がつれてこられた。
しかも十字架に二人とも張り付けられていた。
え、どういうこと?
理解が追い付かない。
そんなルナに町長は選択肢を与えた。
両親を助けるために自分は涙を流し続けるのか、自分を助けるために両親を殺すか。
究極の二択だ。
しかしルナは迷うことなく自己犠牲を選んだ。
両親が大好きだったのだ。
それでは、と町長がルナに涙を流してもらうために絶望を用意した。
町長は嫌なやつだ。ルナの大好きなものを無くして絶望を与えようとした。
大好きなもの──そう、両親だ。
両親を殺したのだ。
これまたひどいことにすぐには殺さなかった。
腹部を刺し、じわじわと痛めつけられているところを見せながら殺したのだ。
これを見たルナは案の定絶望した。
両親が死んでしまったことはもちろん、町長に裏切られたような感覚におちいったからだ。
反抗するパワーもなく、ルナは涙を流すしかなかった。もちろん天気はどしゃ降りだった。
そしてまた数年後。ルナは立派な少女になっていた。
この数年間ずっと絶望という闇にルナは閉じ込められていた。たまにルナを喜ばせたりして、天気を管理していた。
でも操られること自体がルナは気に入らなかった。
しかし転機が起こる。
いつものようにルナはいじめられ、泣いていた。
田植えの季節だったのでたくさんいじめられていた。
そこに冒険者が現れた。
たくましい腕がルナを救ったのだ。
ルナを見るなりおんぶをして町長から逃げた。
逃げた先は森だった。
真っ暗でシーンとしていたがナゼかすごく安心できた。
町長たちは追ってこない。
いつしか二人は愛し合い、ここで暮らすことになった。
愛の力だろうか?
ルナの天候を操る能力、いや、ルナについていた呪いがとけたのだ。
ルナと冒険者の間には子供が生まれ、その子供に天候を操る能力はなかったが、とてもルナに似ていた。
その子はツンデレ地帯で暮らすことにした。お父さんから冒険者の服をもらい、町長からいじめられないように対策をしたのだ。
ホントにルナの呪いはとけたのだろうか?
ツンデレ地帯は温かい優しい天気になっていた。
ルロちゃんがでてこなかったよぉー。
さみすい。
話変わりますが、みなさんコーヒー好きですか?
わたしは好きか嫌いか以前に飲めません。
だって苦いんですもん!
大人の味ですよねぇ。




