第二十三話 幸福からくる冷水
数十年前。
争いもなく、差別もなく、経済も周り、お菓子が全品五円安くなっていた。
まさにドルーゴーリマ王国は絶頂にあったのである。
しかしある日、これまでにない悲劇──隕石が落下してきたのだ。
隕石の火で一軒の家が燃えるとその家の炎は風にあおられ燃え広がり、街が火の海になってしまった。
隕石による被害はこれだけではなかった。
隕石の衝撃で地震と地割れが起こったのだ。
地震もかなりの影響があった。
震度六は簡単に越えただろう。
揺れるに揺れ、立っていられなかった。
その揺れは数分続いたという。
そして地割れもひどかった。
稲妻のように裂かれた大地は村をまるごとのみこんだところもあったようだ。
さらに、地震の影響で火山噴火も起こった。
火口からは溶岩がどろどろ垂れ、噴火で舞い上がった火山灰は国に雨となって降ってきたのである。
こうしてドルーゴーリマ王国はあっと言う間に悲惨な姿に生まれ変わってしまった。
湖は濁り生き物が住めるところではなくなっていた。
森は焼け、草木は枯れた。
辺りは火山灰とガラスや家の破片が積もっている。
以前の幸せな世界など存在していなかった。
それから数年後。
国は魔法の力によりだいたいは修復していた。
そして隕石について調べていた者たちが、あることに気がついた。
あの隕石は人工物であったのだ、と。
もちろんダレがそんなことをしたのか追跡しようとした。
そのときだった。まっていましたとばかりに元凶が現れた。
そいつの周囲は黒い霧のようなものがまとわりついていて姿はよくわからない。
しかし、縄文人でもわかるほどのいかがわしく、好ましくないものだった。
そして
「我は魔王である。人はみな愚かだ! 愚かな者は存在する意味がない。このため全員残らず滅ぼしてやるわ」
魔王と名乗る者の楽しそうな声のトーンから男性だとわかった。
普通の人が言えば厨二病くさい、痛いセリフだが、魔王は違和感もなにも感じさせずに平然と言った。
「では、早速………!」
魔王はそこで言葉をきり、ある人物を見て固まった。
その人物は女性だった。
細身でコバルトの瞳。20代そこそこのぴちぴち美女だ。
魔王は女性に見惚れてしまったのか? いいえ、その女性には勇者の遺伝子があったのである。
「おい! お、お前! 何者だ?」
身の危険を感じた魔王はすぐさま女性のチェックに入る。
女性は動揺せずに、……いや、動揺を隠して魔王を見つめた。
「わたくしは農民です。ただの庶民であります」
半分ウソだ。しかし半分はホントだ。
確かにこの女性は庶民だった。
今はこの国の王に求婚されている、ただの庶民とは言えない者だ。
ナゼ求婚されているかは国家機密らしい。
しかし自分が人間として生まれてきたのに魔法が使えたり、運動神経が尋常ではないくらいに良かったりしたことに違和感があった彼女は、なんとなく察していたらしい。
──自分は普通の人間ではないと。
きっと国は、そんな自分のことを調べるのだろうと思っていた。
話は戻すとして、この魔王に求婚の話がバレたらただ事ではすまないだろう。だから女性は庶民のフリをした。
「なにか御用ですか?」
「いや……。ただの人間なら問題ない。ただ、お前の近くにいると疲れるんだ……」
そりゃぁそうだ。勇者の遺伝子がある彼女は魔王にとっては抗体のようなものである。
しかし、彼女は勇者の遺伝子をもってはいるが勇者ではない。
なので魔王は徹底的に彼女を怪しまなかった。
「静まれ」
そこにヨボヨボのおじいさんが現れた。
その人は黒いフード付きのローブに、ゼンマイのような1mほどの木の杖を持っていた。
「わしは大賢者である。そんなわしから予言じゃ。このままだと、魔王によって世界は闇に染まる」
「そんな!」
周りにいた人々が口に手を当て悲しんだ。
しかし大賢者は全く動じずに魔王に近づいた。
「安心せい。影のあるところには光が存在するように、魔王が現れたなら勇者は現れる。……すぐにな」
おおっ! 民衆は拍手して大喜び。
それに反して魔王はきまり悪そうに見おろした。
しかしその表情に余裕の笑みも見えた。
「ふん、勇者など大したことあるまい。……我は一刻も早く世界を滅ぼす準備をしよう」
魔王はそう吐き捨てると帰って行った。
街では慌てる者、魔王を非難する者、家族と励まし合う者など、いろいろな姿が見られた。
しかし大賢者の姿は見えなかった。
それからまた数年後。
ドルーゴーリマ王国の王と勇者の遺伝子を持つ女性は結婚して、子供が二人生まれた。
一人目はマランス、二人目はミランスと名付けられた。
ミランスは勇者の遺伝子がどっぷり入っていた。
しかしマランスのほうは不思議なくらい勇者の遺伝子が入っていなかった。
そして……国に悲報がでまわった。
なんと出産時に王の妻──すなわちミランスの母親が亡くなってしまったのだ。
……が、勇者が生まれたことが嬉しい国民は、とくに悲しんだりしなかった。
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「ということがあってなぁ」
静かに王様は語り終えた。
目にはうっすら涙を浮かべている。
……タイヘンなことがあったんだなぁ。
「まぁ、その魔王とやらをやっつけてほしいのだよ」
「はい……僕にできるでしょうか」
今更不安になってきた。
いくじなしだ! って画面の向こうから言ってきた人もいるけどさぁ………。
僕、ホントにホントの正真正銘の一般ピーポーなんだよ!
不安にくらい思うし、思わせてよ!
「レンさん、焦ったりしなくても大丈夫ですよ。できるかはともかく、レンさんはやってくれると信じています。それにミランスがついておるではないか」
「……そう、ですよね」
「なんだ? その返事は。もしやミランスが信用できんか?」
ギクリ(図星)。
「そそそそそっそんなことありませんっよ?」
必死に隠そうとするけどあからさますぎる気がする。
「ふぉっふぉっふぉ」
焦る僕に王様は笑みを浮かべた。
楽しんでるみたいに見えるけど、大人のよゆーってやつ?
「レンさん固くなっておりますぞ? ほら、笑って笑って」
「あ、はい……あははぁ」
一応話しているのは王様だ。大爆笑なんて見せられない。
僕のバレバレの作り笑いを見て、王様は安心したような顔をした。
「では、行くがよい。平和な世になるために進むのだ」
「はい」
僕は一礼して玉座の間を出た。
廊下に出ても相変わらずレッドカーペットがしかれている。
「レンさん」
「うわっ!?」
びっくりしたぁ。
だって急に隣からミランスが声かけてくるんだもん。
不意打ちだよ、まったく。
「どうしたの?」
「なにを話していたんですか?」
「あー、魔王の話だよ」
「そうですか」
……………………。
シーン。
気まずい沈黙。
ミランスが、元気……じゃない?
「ミランス、どうしたの?」
「とくになにもありません」
素っ気なく返すミランス。
いやいやいや、
「なにもないわけないでしょ」
いつものミランスじゃなさすぎる。
わかりやすいくらい意気消沈してるよ。
「………偽善者」
「え?」
「偽善者です」
ミランスは悲しそうに言った。
うつむいてボソボソ言う姿はメランコリー患者そのものだ。
偽善者ってあれかな? ミランスが執事に言われた………。
「あんなやつのこと気にしなくていいよ。ミランスは偽善者じゃない」
「でもっ! でもわたしは人を救いたいと言いながら、ダレかを傷つけています。それって、自分の救いたいものだけを救って、あとは救わないって言っているようなものです」
ハァハァ、と息ぎれしながら説得してくるミランス。
………こりゃ執事の思うつぼだわ。
「あのね、ミランス。みんなに幸せになってほしいっていうのはすごくステキだよ? でもそれだけじゃダメなんだ。ダレかが幸せになるためにはダレかが不幸にならなきゃいけないこともある」
「そ、そんな!」
「よーく考えてごらん。LIVEチケットが当選した人がいるなら落選者だってでてくる。試合で勝ったチームがいるなら敗北したチームがある。こんなふうに幸せには不幸もセットされていることがほとんどなんだよ」
「………」
完全に黙り込んでしまった。
もしかして僕の説得力あった!?
えへへ、嬉しいなぁ。
「それにキミが言ったように優しい人が勇者とは限らない。勇者は魔王をやっつけるために生まれたんだから」
「……。では、魔王が生まれてきたからわたしは生まれることができたのでしょうか?」
…………。
「さぁ? どうだろうね。でも、いいんじゃない? キミはキミのやることをすれば。僕はついてくから」
「……そう、ですね」
少し戸惑い笑いをしたあと、ミランスはワハハッと大笑いした。
なんだなんだ?
「ウジウジやってるなんて、わたしらしくないですよねー! さぁさぁさぁ! 魔王討伐しましょーう!」
ミランスは僕に僕のバックをわたすと走り出した。
「ちょ、まって!」
「まちませんよー!」
アハハと豪快に笑い僕をおいてきぼりにする。
ミランスの足の速さにも気持ちの切り替えにもついていけないよ!
このとき僕は、王様にもらったガチャガチャみたいなものがスゴいものだなんて思ってもいなかった。
またまた結構遅れました。すみません。
そして、今後も結構遅れることが多々あるかもしれません。




