第十話 形見の仇
そう、形見っていうのはすごく大切なものなんだ。
その形見をネコは………………!
「返してください!」
「何回言ったらわかるにゃ? やーにゃこ…………」
ネコがいつものようにおどけたように話している途中だった。
ベチンッ
「返せっつってんだろ! この生物として負け犬、いや、負けネコが煽ってんじゃねーよ」
気がついたら殴りかかっていた。
お腹の下の方から重たいものがズブズブ喉まで上がってくる。
頭もズキンズキンしてとてつもなく痛い。
でもそれより、ネコのことがただただ気に食わなかった。
「人間のクセになに調子乗ってるにゃ」
へらへらネコは嗤う。
ああああああ!?
「調子乗ってんのはオメーだろ! っていうか盗みをやってるやつなんて調子乗ることも偉くなることも許されるわけがねーんだよ!」
バチンッ! ベチンッ!
ネコの顔をおもいっきり叩く。
本来の僕なら絶対こんなことしない。
でも今日は別だ。
もう感情のままに生きる。
この後どんなに怒られたっていい。相手が納得しなくたって怒りを理由にする。
「レンさん!」
ミランスの驚いた顔が僕の瞳に映る。
いや、驚いたというよりかは怖がっているように見えた。
「お前は世界征服したいって言ってたよなぁ? ムリだよ、お前は──己の弱さに向き合え!」
ずどぉぉぉん
最後にネコを投げつける。
そして落ちたマリーゴールドを拾った。
ネコは完全にのびちゃってる。
はぁ………スッキリ。
「レンさん!」
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
マリーゴールドをカチューシャにつけ直してミランス安心したように少し笑った。
………やっぱりこの飾りがなくちゃ、ミランスじゃぁないね。
ミランスにとって、このマリーゴールドはおばあちゃんそのものみたいなものだよね。
よかったよかった。
ミランスは顔を上げると不審そうに僕を見た。
「レンさん……………ですよね?」
「うん、そうだよ」
「で、ですよねぇ。レンさんの生き別れのお兄さんかと思っちゃいました」
アハハ、と失笑するミランス。
確かに。さっきの僕らしくなかったね。
思い出してちょっと恥ずかしくなる。
「でも、めっちゃカッコよかったですよ! それに、すっごく嬉しかったです。ありがとうございます」
ありがとうございます ありがとうございます ありがとうございます
ミランスの声が心の奥でエコーする。
ドキッ
な、なにこれっ。
彼女の笑顔を見たとたんに、孤独だった胸に優しく暖かいなにかがくっついたような感覚におちいった。
そして急に心臓が止まりそうなくらい激しく動き出す。
おかしいな………疲れてるのかな?
「レンさん…………?」
「な、なにかなっ!?」
顔をのぞきこまれておどおど。
…………み、ミランスさん、顔が近いですよ!?
「大丈夫ですか? ヘンですよ?」
「う、うんうん、大丈夫大丈夫! ノープロブレムッ!」
動揺しているのはバレバレかもしれないけど平静を装う。
うぅぅ、どうした、今日の僕…………!
「うにゃぁ………」
「「はっ!」」
ネコが起きた!
僕とミランスは身構える。
「お、おいおい! そんにゃ怖い顔で見にゃいでほしいにゃ。もう降参にゃ」
「ホントですか?」
「神に誓うにゃ」
「また暴れたりしたら、殴りますよ! …………レンさんが」
ぼ、僕がなんですね。
戸惑っている僕を横に、ネコはうつむいた。
「俺は………世界征服にゃんてしたくにゃかったんだにゃ」
……………へ?
じゃぁ、なぜあんなことを?
「はーい! はいはいはーい! わたし知ってまーす」
でしゃばるようにミランスは手を挙げる。
ミランス、知ってるの?
「ふふふふ、さみしがりやさんですよねぇ?」
イジワルっぽくネコをつっつく彼女。
ど、どういうことでありましょう?
「ネコさん、かまってほしくってわたしたちにイジワルしてたんですよねー」
かまちょ…………ってこと?
ミランスは楽しそうにネコを膝の上にのせてなでまわす。
「そうにゃ…………」
なでられてるネコは嬉しそうに答える。
不本意ながらもネコがかわいく見えてしまう。
「………でも、どうしてネコがかまちょだってわかったの?」
僕は首をかしげる。
「それはですねー」
会心の笑みをうかべて彼女は仁王立ち。
ネコはミランスの腕から落ちてしまって、うにゃっ! とヘンな声をあげる。
「図書室の本のおかげです!」
「?」
……………ますます意味フメーだ。
「そ、そんな睨み付けるような目で見ないでください! えぇとですね、心理学の本を読んだんです」
心理学? ミランスが? なんか意外。
「なにか言いたそうですけれど、進めますね。………自分に自信がない人は誰かにかまってもらうことで愛されていると感じようとする、と本にあります。つまりネコさんは、かまってほしくてメイワクかけたんですよね?」
「そのとーりにゃ」
恥ずかしそうにネコは顔をかく。
あぁ、なるほどね。僕も『死ね』とか言う人は劣等感を感じてるっていうのは聞いたことあるかも。
…………それから、僕を仲間にしようとしたのはそういうことだったんだね。合点がつくよ。
僕がうなずいていると、ネコは急に歩きだした。
「あの、悪いんにゃけど、俺やることができたにゃ」
「やることって殺ること?」
「そんにゃバカにゃ! 縁起でもにゃい」
その縁起でもないことをあなたはやろうとしてませんでした?
「俺は…………」
真剣な面持ちで空に目をやるネコ。
な、なんだろう?
「ネコとネズミが追いかけっこをするアニメをつくるにゃ!」
デーンと胸をはるネコ。
えぇーっと、とても言いずらいんだけど…………もう似たようなアニメは…………………、
「すっごいですね! 面白そうです!」
「そうにゃろ? しかもしかも、普通はネコはネズミより賢いにゃろ? でも、違うにゃ。いつもネコはネズミにボコボコにされて終わるんだにゃ!」
自分の種族を自分でボコボコにしちゃう設定をつけるのって心苦しくないの?
「そして、題名は、にゃんとにゃんと………………トマトゼリー!」
「わぁっ! 美味しそうでかわいい名前ですねー!」
楽しそうに話している2人には悪いけど、僕はため息をつかせてもらった。
………本家を知らずに、よくこんなに似たようなものが思いつくね。
呆れを通りこしてもはや感心するよ。
ま、まぁ夢をもつことはとても素晴らしいことだよね。
「それにゃ! アディオス!」
ネコはそう言って姿を消した。
ネコさん、まさかのかまちょ(笑)
かわいいとこありますねー。
そして、およよよ?
レンくんが少しミランスへなにかを抱きはじめてますね。
うふふふ、我もこんなアオハルがしたいであります。
わたしを愛してくれる方募集しておりまーす!




