第九話 おばあちゃん
「連」
おばあちゃんは僕を呼んだ。
おじいちゃんは僕が産まれる前にはいなくなっていた。
おばあちゃんも、もう80代後半でお母さんはいついなくなるかわからないって言っていた。
小学生の僕にはお母さんの言っていることがよくわからない。
おばあちゃんはどこに行くんだろう? おじいちゃんもどこへ行ったんだろう?
………うーん。やっぱりよくわかんないや。
「なに?」
「いいものあげるよ」
おいでおいでと手招きして僕を和室に入れた。
「いいもの?」
なんだろう?
僕は笑顔で駆け寄った。
「これ、連にあげるよ」
そう言っておばあちゃんは僕にネックレスみたいなのをくれた。
ネックレスって言っても、キラキラでお嬢様がつけてそうなのじゃなくって、和風のビー玉みたいなのがついているやつ。
青いビー玉みたいなものがキラッと光った。
「あり………がとう」
ゲームソフトとかロボットのおもちゃを期待していたから少し残念。
でも、そんなこと言ったらおばあちゃんは悲しむだろうなって思ったから言わなかった。
「………なんで僕にくれるの? お母さんの方が喜ぶと思うよ?」
僕の素朴な疑問におばあちゃんは一瞬戸惑ったような表情をしたけれど、すぐに笑顔を見せてくれた。
「連は………おばあちゃんが好きでしょう?」
「うん! 大好きだよ」
ちっちゃい頃から一緒にいてくれたおばあちゃんが大好きだ。
お母さんとお父さんが仕事でいないときに、「内緒ね」ってケーキを買ってくれるおばあちゃんが大好きだ。
人見知りでなかなか友達と遊べない僕と一緒に鬼ごっこしてくれるおばあちゃんが大好きだ。
僕はそんなおばあちゃんが大好きだった。
おばあちゃんと一緒ならなんだってやってのけそうな気がする。
「ほら、おばあちゃんがいなくても頑張れるように…………ね?」
「…………………? おばあちゃん、いなくなるの?」
「ううん、おばあちゃんはいつも連のそばにいるよ。…………………でも、ほら、学校とかだと一緒にいれないでしょ?」
「確かに」
やっぱりおばあちゃんは賢い。
それに優しい。
大好きだなって嬉しくなって心の奥がぎゅうぎゅうになった。
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「………………えっ」
悲劇は僕がゲームをしているときに起こった。
「………………れ、連。落ち着いて聞いてくれる?」
お母さんが顔をシワシワに、いやグシャグシャにして僕を見た。
バクンバクン。
すごくヤな予感。
「おばあちゃん、死んだの」
「死ぬ………………?」
僕にはよくわからない単語だった。
でも、お母さんの雰囲気からよくないことだってわかった。
「おばあちゃんはもう…………動かないの」
え……………?
「おばあちゃんはもう、寝たきりで起きないの」
え……………?
「お、お、お、おばあちゃん…………………が」
気づいたら走りだしていた。
おばあちゃん、おばあちゃん、おばあちゃん!
バコンッ!
和室のふすまを開けておばあちゃんの寝ている布団をひっぺがした。
おばあちゃんはいつもみたいに眠っていた。
だけど、なんにも聞こえない。
スースーいつもみたいに寝息をたててない。
「おばあちゃんおばあちゃんおばあちゃん」
体をゆらしてみた。
「起きてよ! おばあちゃん! わーーーっ」
耳元で叫んでみたけど反応がない。
……………………おばあちゃん? ウソ、なんで。
「おばあ…………ちゃん…………」
目から水が流れる。
あぁ、僕泣いてるんだ。
口に涙が入ってしょっぱい。
そんなことどうでもいい! おばあちゃん、起きてよ。
今すぐ「ジョーダン!」っていつもみたいに笑ってよ。お願いだからさ、起きてよ。
「連、だいじょ………」
「お母さん…………ッ! うわあぁあぁああああぁあああああぁああ」
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今日は久しぶりの学校だった。
僕は一週間学校を休んだのだ。
昨日までは、おばあちゃんを焼いたりした。
怖かった。すっごくすっごく怖かった。
おばあちゃんは最後、長い箱に入れられて……………骨になっちゃった。
あんなに元気だったおばあちゃんが動かなくなったことが、すごくショックだ。
あの温もりも消えたおばあちゃん。
もう僕の知っているおばあちゃんじゃなくなっていた。
「はぁ………」
ため息。
気がついたらもう帰る時間になっていた。
「連くん」
帰ろうとしたときに担任の先生にとめられた。
「大丈夫? おばあちゃんのことは残念だよね。なにかあったら先生に言ってね」
「…………………うん」
親身になってくれるのは嬉しいけれど、僕の気持ちなんて絶対わからない。
僕のおばあちゃんのことなんて知りもしないくせに、わかった気になって…………。
僕は黙って学校を出た。
ギーコーギーコー
なんとなく家に帰りたくなくて公園に寄ってぶらんこをこいだ。
家にいるとおばあちゃんとの思い出がよみがえるからヤだ。
楽しい思い出なんて作らなきゃよかった。
「あーあ」
もうずっと心にぽっかり穴が空いちゃったみたいに僕の中でなにかが足りない。
どうしよう。一生こんなどんよりした生活なのかな?
おばあちゃん助けてよ。
「おばあちゃんはいつも連のそばにいるよ」
そう言ってくれたじゃん。ウソつき。
僕はおばあちゃんのくれたネックレスを見つめた。
ホントはダメだって知っているけど、学校に内緒でつけていってる。
これを見るとなぜか少し安心するんだ。
「わーっ! めっちゃきれい」
声の方には同い年くらいの女の子が立っていた。
その子はロングでクリッとした目が印象的だ。
「ねーねー! 見せて」
そう言って僕に寄って来た。
女の子の瞳はネックレスについているビー玉と同じくらい輝いている。
「きれーっ」
僕のネックレスをジーッと見つめるその子の横顔はキラキラしていた。
「これ、キミの?」
「…………うん、まぁ。おばあちゃんがくれたの」
おばあちゃん、その単語を口にすると心が黒くなったかのようにどんよりした。
………やっぱりさみしいよ。
女の子は感心したように目を見開いた。
「へぇぇぇ! 優しいおばあちゃんだね」
…………!
「うん! そうなの! すっごく優しいんだ」
僕は嬉しくなった。
おばあちゃんは僕の自慢なんだ。僕にはおばあちゃんしか自慢できることがないから、おばあちゃんが褒められるってことは僕を褒めたことと同じだ。
「いいなー! あたしにもそんなおばあちゃんが欲しかったなぁ」
「…………キミのおばあちゃんはどういうの?」
「あたしのおばあちゃんはね、すっごく忘れっぽくって、いつもママとあたしの名前を間違うの!」
へぇ、そんなこともあるんだ。
僕のおばあちゃんも忘れっぽかったけど、僕の名前を忘れたりはしなかったな。
「うらやましいな、あたしもそんなふうにおばあちゃんから愛されたいな」
……………愛されてた……………。
僕もおばあちゃんが大好きだ。
「あのさ、これあげるよ」
僕はネックレスを女の子に渡した。
「えっ! いいの!?」
「うん」
僕はネックレスがあったおかげでこの女の子に会えた。
この女の子に会ったおかげでおばあちゃんの大切さがわかった。
おばあちゃんの大切さがわかったことで僕がしなきゃいけないことがわかった。
…………おばあちゃんは僕に最後の助けをくれたんだ。
「僕はもう大丈夫だよ。キミもさみしくなったらこれを見て元気だしてね」
「……………うんっ! ありがとう」
僕は公園を出た。
いつまでもウジウジしてたら、おばあちゃんが悲しむよね!
ありがとう、おばあちゃん!
遠目で見えたネックレスがキラッと輝いた気がした。
連くんの小学生の話!
幼い連くん、書きながらかわいいなぁと思ってました。
いやぁー……………小さい子ってかわいいですよね。ホント、癒しです。




