美しかった故郷
『こんな世界に来てしまったけれど、母さんのことは忘れたことはないよ。僕は、山の大地で生まれ育ったんだよ。』
思いをはせると云う言葉があります。その意味は、頭で分かったつもりでも経験しないと決して分らない言葉です。兎は、思いをはせているのでした。
「この曲は、故郷の美しい自然を懐かしく思って作られたんだよ。」
「坊ちゃんは、この曲、よく聴いてらっしゃいますね。生まれ育った処を曲にしたい、よほど素晴らしい所だったんでしょうね。」
「この曲が作られた時代は、いろんな処で国と国が争っていたんだって。」
「戦争ですか?」
「どうしてそんなことになっているか、よく知らないけど、曲を作った人の国も戦争になり、遠い国に避難したんだ。」
「それでその戦争は終わったんですよね。」
「ああそうだよ、けれどその戦争で国が混乱して、とても帰れる状態にならなかったそうだよ。それで、帰れない故郷を恋しく思いながら作ったそうだよ。」
「帰りたくても、帰れない祖国への思い、故郷が美しかった頃を思い起こし表現しているんですね。きっと同じ様になった人が沢山いたんですよね。そんな人々や祖国で苦しんでいる人達の為に作曲したのかもしれませんね。」
「へえ、吉野、凄いね。僕は、そこまで考えがまわらないよ。」
「いえ、この前の災害で非難生活をしている人達のことを思いました。未だ自宅に戻れない方が沢山いるんですよ。自宅を失くした人もいます。絶望的な気持ちになっていらっしゃいます。それで荒んでしまった心を少しでも思いやることができればって考えたらね。その人は、人々への思い遣りを曲としたんだなあ、偉いなあってね。」
「そうなんだ、ニュースでは聞いていたけど、余り報道しなくなっているよね。今でも大変なんだね。」
「人の痛みは分らないと言います。故郷を追われた人々のことを忘れてはいけないのでしょうが、私もどこかで人ごとだと割り切っているところがあります、そういうことは情けないと分かっているのですがねえ。」
そんな話をしているところ、幸四郎は突然プレイヤーのリモコンを操作して音を止めました。
「どうかなさいましたか?」
「ほら、聞こえないかい?、耳を澄まして。」
「何か物音がしますか?、さすが坊ちゃん、私には耳に入りませんが・・・。」
幸四郎は、息を殺し、それぞれ左右の耳にメガホンの様に手をあてて、じっとその聞えて来る響きに集中しています。
# キュ・・・キュ・・・~ン・・・
「ほら、やった!、可愛いらしい声だ。鳴いている?、そうじゃないかい?」




