目を覚ましたら
「何、何、どうしたの?」
「予想はしてましたけど、中はやっぱり相当汚いです。飼い主は、掃除してあげてなかったんですかね?、臭いも酷いもんだ。どうしてこんな状態にまで?、と思います。まったく生き物の気持ちを考えているんでしょうかねえ。自分がこんな目に遭わされたらって思わないのでしょうか?」
「そうかぁ、あっ、本当だ、凄い臭いだね。僕だったらとっくに気絶しちゃうだろうな、動物って強いんだね。」
「いいえそんなことありませんよ、種類によっては清潔にしていないと直ぐ死んじゃいます。コイツやっぱりネズミなんだろうかな?、どれ、お前、生きているか?」
介護人はしゃがんだまま、恐る恐る手を伸ばし、人差し指の先の方でお腹の辺りを触ってみます。
『あれ?、柔らかい、コイツ生きている・・のか?』
暖かく、心も和らぐような陽射しの中で、その時風が通り過ぎているようで、立木の葉が揺らめくと、カサカサと音がたちました。吸い込まれていくような青い空、麓に吹き下ろして来る山の風、忘れることのない生まれ育った風景が兎の脳裏に蘇ってきます。
# キュウ
“あっ、今鳴いたね、生きてるよ!”
この星に何故生まれてきたのかと考えながら、日頃を暮らしていません。でも生まれてきた限りは、死が訪れるまでに、ああ良かったと思える日々になりたいものです。その日その日をどう過ごしたかが大切です。自分がやるべきことを誰かがやるだろう、関わりたくないと他人に任せて知らぬふりをしていると、いつかは取り返しのつかない後悔をすることになります。自分の状態を見損なっていることは罪を犯しているのです。これで良いんだよと居直ってそのままにしてしまうと、いつの間にか自分がすっかり醜い存在になっていたことにならないよう気を付けたいものです。
それはそれは心地良い香りが漂っています。大きく広いパノラマ状に広がり、2階まで吹き抜けて上っているガラス窓があります。そこからから伸びた白く輝いている大理石のテラスの先には、緑の芝生が延々と続く庭が見え、遠くに背の高い木立が茂って並んでいます。部屋の中だというのに、奥の方まで光に溢れているのは、上からの日差しとそれを下から反射させて、この大きなガラス窓を通して沢山入ってくるからでしょう。
『ふんふん、クンクン。良い匂いがするぞ。』
目を覚ましたら、兎は柔らかく新鮮な敷物の上にうつ伏していました。
『あれ、あれ、あれれ、ここはどこだ、どこだ、どこだ。ずいぶん明るいぞ、あの変な臭いもしない。それに、床がふかふかだ。』
今が幻なのか、それとも今までが夢だったのか、そう思えるほどの全てがすっかり変わっていたのです。何もかもが初めて感じた、いや、味わったことの無い佇まいなのです。
そういえば何となく思い出して来ます。ついこの前まで暗くかび臭い部屋に居て、2人の人間がゴソゴソと動き回っていたのを。飼育カゴは掃除をしないどころか、水もくれない、食べられない物が置かれたり。いつの間にか人間は1人だけになり、ソイツは慌ててばかり。




