持って来ましょうか?
「そうかあ、残念。」
# ピキ ピキ キキ・・・
「あっ、また鳴いている。早く見に行ってくれる。もう待ち切れなくなりそうだから。」
「アハハハハ、坊ちゃんがそんなに気忙しくなるのは珍しいですね。それでは、見てきますので、此処から絶対に動かないで下さいね。目を離したのがご主人様にバレると、この凄く楽しい仕事を辞めるはめになりますから。」
「凄く楽しい?、本当かい?」
「ええ、そうですよ、疑っているんですか?」
「エヘヘヘ、もちろん分かってるよ。僕は、吉野のことは大好きだから意地悪なことはしないよ。」
「ありがとうございます。」
介護人は、足元に気を配りながら林の中を進んで行くと。
# サー シャー コンコンコン ブーン
やがて、車が往来しクラクションを鳴らす音や工事現場の作業の音が微かに聞こえてきます。眼の前に屋敷の敷地を取り囲んでいる白い土塀があり、巷の世界との境界がそこにあるのです。
『あ、あれは何だ?』
薄暗くてよくは見えていませんが、何かを見付けました。そして男の子は言われた通り、じっと待っています。
興味惹かれる物事を待たされていることは、とてももどかしいものです。待つことは、辛いこととよく云われます。それは、結果が出るまでの時間に色々な思いを巡らしてしまうからです。人間は、期待や不安を常に持っている生き物ですから。
“坊ちゃん、聞こえますか?、幸四郎坊ちゃん。”
「聞こえるよ、吉野。どんな、生き物がいたんだい?」
「持って来ましょうか?」
「えっ???、持って来れるの?」
不思議に思うのも無理はありません。男の子は、いったいどんな生き物が自分の前に出てくるのか、それとも生き物でないのかな、と考えました。
やがて薄暗い木々の隙間から介護人が現れて、近付いて来る音が聞えてくると、もう、男の子の期待は膨らみ、興味津々です。
介護人は、何か箱のようなものを抱えているようです。
「こんなものが、土塀の際に落ちていたんですよ。」
前にそっと置かれたのは、プラスティック製の飼育カゴ。かなり傷んでいて、いたる所にかすれた傷があり、ヒビも入っています。しかし、当然幸四郎には分かるはずもありません。
「何を持って来たんだい?」
幸四郎にはぼんやりとした四角い箱のような物としか見えていません。




