今度は、本当なんだよ!
「それじゃあな、また来月にまた行くからな、ババアに宜しく言っといてくれ。年金をおろしたい時は、電話しろよってな。」
そうして春男は、玄関から出て行きました。
家の中が嵐が去った後の様に、いつもの静寂に戻ります。正男は、お金の入った布袋を握りしめたまま、そっと居間のドアを開けました。
それからでした。
# ドタドタドタ
正男が、玄関を開けっ放しにしたまま、走っていきます。しかも、靴も何も履かずに、素足のままです。
“兄ちゃん!、兄ちゃん!、兄ちゃ~ん! ”
タバコをぷかぷか吹かせながら、バス停に向かっている兄の後ろ姿を追って、正男は懸命に走ります。すると春男は、児童公園に差し掛かった所で立ち止まりました。
“うるせえ! ”
“兄ちゃん!、兄ちゃん! ”
ようやく正男が、追い掛けて来ていることが分かったようです。
「なんだ、お前か。暖かくなって来るとニャーニャー盛りがついて煩いんだよな。ところで、何しに来たんだ?」
「それが!、それが!」
勢い込んで来た息のためか、そこから言葉が続かないのです。
「それが、じゃ分かんねえよ。全く馬鹿の言うことは、理解するまで時間がかかるからな。何がとか、誰がとか言えねえのかよ。」
「か、か、母ちゃんが、母ちゃんが。」
「ちっ、いつもより抜き取られてるってか?、遅くなったのは、ババアと言い合っていたせいだぜ。正男、車が渋滞してタクシー代がかかったって言っといてくれ。」
「違うよ、違うよ、おかしんだよ。」
「おかしい?、よく分からないな、さっきのどぎつい勢いなら病気になるわけないしな。」
「そ、そうなんだよ、び、病気なんだよ。」
それを聞いて、春男は一瞬言葉を止めて、正男の表情を確かめるように眉をひそめて睨みつけます。そして、持っていた火のついた煙草をまた口にくわえ、大きく吸い込みました。
「アハハハハハ、アホか、その策略はもう引っ掛からねーよ。お前憶えているか?、年に一度あるかどうかの大当たりが出ているのに、お前が血相変えて来てお袋が倒れたって言うから、渋々すっ飛んで行ってあげたらどうだ、茶菓子を食いながらテレビ観てやがる。そして、俺を見て何て言った、“ああ、少しは心配してくれてるようだね、アンタを信用して良いか迷ってたからね”、だと。俺は馬鹿にされるのが一番嫌いなんだよ。学校で、虐められてきたのを思い出すからな。」
「今度は、本当なんだよ!、信じてくれよ!」




