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育ててくれた恩は分かっている

「今の言葉、忘れるなよ。今回は大目にみてやる。もうそろそろ最初の集金だ、いつもの所に行くが、受けとったら直ぐに来いよ、分かったな!」

 負の連鎖とは、良く言ったもの。愚行は、愚行を引き寄せるのです。そして、いつしかその悪事を続けて行くことから抜け出せなくなるのは、どうしてなのでしょう。

 昼も間近になった頃、ようやく正男が施設から出て来ました。酷く焦っているのでしょう、春男が出入口の直ぐ側で待ち構えていました。

「今日は、遅くなった、早くその袋を渡せ!」

「あっ、兄ちゃん!」

 正男からぎ取るように、右手に持った巾着袋を奪うと、春男は先の方に見える小さな花壇に走って行き、角を左に折れると姿が見えなくなりました。親の姿を見失った幼子の様に、正男は哀しくなってグスグスと呟くのです。

“酷いよ、母ちゃんにあげる為に僕が受けとっているのに、いつも何処かで使ってくるんだから。それじゃあ母ちゃんが困っちゃうだろ、どうしてなんだよ。”

 正男には、春男のすることが不思議でなりません。母を苦しめることになるのに胸が痛まないのかと。

 そうして昼下がりにやっと、正男達は家に帰って来ました。

# チュンチュン チュンチュン

しんみりとして人通りの無いこの辺りも、ほのぼのとした暖かさが広がり、雀の鳴いているのが聞こえています。

“ババア、帰って来てやったぜ。これで、今月も食い繋げられるな。”

 悪態をついて、玄関に入って行きます。ドア越しですが、母親の居る部屋も明るいようで、陽射しの光が溢れていそうです。しかし、後にいる正男が何かを感じたのか、声を掛けました。

「母さんの声がしないね、いつも帰って来たら、お帰りって声がするんだよ。」

「ようやく春だな、この陰気な家も、今日は暖かいから、昼寝でもしているんだろう。さあ、俺の仕事は終わったからこれで引き揚げるからよ。」

「春男兄ちゃん。」

「何だよ。」

「此処は、自分家なんだろ。なんで此処に住まないんだよ。」

「当たり前だろ、あんなガミガミ煩いババアと一緒に居れるわけねえだろ。それでも、育ててくれた恩は分かっているからな、それにお前の兄ちゃんだしな、黙って見捨てるようなことはしない情に厚い男さ、俺は。」

「兄ちゃん・・・。」

「そんな目で見なくても良いよ。お前のお礼の気持ちは分かっているからさ。」

 正男は、それ以上は何も言いませんでした。

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