取り立て屋
「さあ着いた、降りるぞ。近くに着けて車で来たところを見られたらヤバイからな。お袋と口喧嘩していたお陰で、いつもより遅くなった。もう結構並んでいるだろうな、ほら、正男、行くぞ。」
さっさと車から降りて歩いて行く春男に、正男は何となくついて行くのです。
深緑の季節の空は雲一つ無く、宇宙まで突き抜けているようで、暖められた南からのそよ風が非常に心地良く感じられます。そのためか、まだ午前中の日の浅い頃ですが、通り沿いの歩道には、乳母車を引いて散歩をする若い母親や犬を連れた老夫婦の姿が見えます。
“オッ、もうあんなに並んでいる、遅れちまったぞ、これじゃあ金を受け取り終わる頃は昼過ぎになるな。”
並んでいる列は、施設の出入口から駐車場を通り抜け、前の歩道にある郵便ポストまで来ていました。途中の信号の脇で二人の男が待ち構え、歩く人々に何やらビラの様なものを配っています。
~当日のテーマ 自分を愛するように、隣人を愛しなさい~
信号のある角地には、教会の掲示板があり、今度の日曜日の礼拝の話題が掲示されています。そしてそこに、サングラスをかけ真っ黒いウインドブレーカーを羽織った、いかにも怪しい五分刈の男がタバコを吸って立っていました。
“あっ、よ、吉岡さん、おはようございます。”
その男は咥えていたタバコを足下に捨て、靴で踏みにじると、春男にまくし立てます。
「何が、おはようだ!、遅いじゃねーかよ!、こうやって貸した金の利子を受取に来てやってんだ、他の奴等みたいに早く来れねーのかよ。俺はそんな暇じゃねーんだよ、さっさと並びやがれ!」
春男は、後ろに連れている正男のジャージの背中を掴むと、前に突き出すように送り出します。
「正男、ほら、行け!、いつものように答えるんだぞ。教えたように俺が居ることは絶対に言うなよ。金が貰えなかったらババアや俺が困っちゃうんだからな。」
正男は、受取に必要なものが入った巾着袋を持たされると、全く気乗りしないのですが仕方なく列の最後尾の方に歩いて行きました。それを確認すると、春男は怒鳴ったその男にペコペコしながら言い訳をします。
「どうもすみません。見ての通りの馬鹿ですから、今日は機嫌が悪いのか、連れて来るまで苦労したんですよ。」
吉岡という男は黙ったまま、にらみつけています。
「今後、遅れないようにしますから、許してくださいませんか?」
「どうしようかな・・・それじゃあ許してやるから、迷惑料として2割増で払ってもらおうかな。」
「!・・・2割増・・ですか?」
「なんか文句あるか?」
「いいえ、いいえ、2割増で払わせていただきます、ですから今回はそれで許してください。」
吉岡はポケットからクチャクチャになっている箱を手に取り、適当に形を整え、開いている口を下に向け、折れてしまったタバコを取り出しました。そして、口にくわえ火を付けると、煙を深呼吸をするように大きく吸い込みます。




